小松シリーズ第一号 その1
『僕』と小松。
ただただ小松に触れてもらうためのお話です。
少しでも馬鹿だなって思ってもらえれば……。
【1】
<我々ェ、納豆推進党ハァ、皆様ノ健康ノタメニィ、ネバネバ新鮮ナ納豆ヲ、一世帯最大五パック進呈スルコトヲ、公約ニ掲ゲ>
「納豆のどこがいいんだ」
ふくれっ面の小松はたこ焼きを頬張り、時々ハフハフとたこ焼きの熱気を逃がしながら呟いた。さっきからどこかの党の主張がマンションを反響板になってぐわんぐわんと響いていた。
「そういえば君は納豆が嫌いだったね」
寒空の下にあるたこ焼き屋の前のさびたれたベンチは座る人間なんて僕たちくらいしかいないだろうと感じるほど、座われ慣れていないガタガタのベンチだった。座るとギギギと嫌な音がして、手をつくと赤サビが手についたものだから。
「そうあのねばねばとかなんですか、ローションですか?」
「ローションは嫌いかい?」
「大好きだね!」
少し食い気味に発した声は辺りに響いたかと思うほど、よく通っていた。うん、分かってた。小松がローション好きってことくらい、というか男は大体好きだろ。僕も好きだ。
「そしたら君の納豆嫌いはねばねばに起因しないのではないかい?」
「よく分かったな。俺の友人はどうやら賢いらしい」
そんなこと誰でもわかる。犬でも分かるだろう。僕が賢いことは。
「なぁ、寒くないかい?」
「俺は熱々だぜ」
「そりゃあ出来立てのたこ焼き食ってるからな」
「それより、ほら、納豆の話は気にならないか?」
「僕にとっちゃあ寒いのをどうにかすることが最重要課題だよ」
隣で震えている友人のことは一向に気にならないらしく、たこ焼きを分け与えるでも無く、最後の一個を食べ終えて、ふぅーっと小松は息を吐いた。
「寒いな」
「遅いよ!」
納豆推進党の主張はやはりとても響いていて、どうせ目の前の階段を下りた先にある交差点でやっているのだろうけど、主な政策が納豆の配布じゃあ、選挙には通らないだろうなと余計なお節介を考えていた。
それじゃあ、もうそろそろ場所を移るかと思って隣の小松を見た。いない、小松の姿がない。いや正確にはたこ焼きの残骸が残されていた。何? 僕に捨てろと? トイレで離れたにしてはどこかおかしい気がした。
よく耳をすましてみると、階段を下りた先から小松の声のようなものが聞こえた。いやまさに小松の声だった。
それはいつもの様子とは違っていて、叫ぶ様な何かを訴える様な、聞いているうちにたくさんの大人の声が聞こえてきた。怒号、いやこれはすぐに小松のところへ向かうべきだろう。これは厄介ごとに違いないと僕は頭が痛かったが、たこ焼きのゴミを右手に掴んで、小松の声が聞こえる方に向かった。