表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

アトラスの憂い

グライアイたちの洞窟を出ると、今度は西へと足を向ける。黄昏の太陽が落ちる前に、俺は、西の果てで天を支え続けている巨大な男の神を見つけた。おそらく、これはアトラスという神だ。

 なんでも、その昔、神々の争いでゼウスに敗れ、ずーっと天を肩で支えるという、超しんどくて、くそ面白くもない仕事をゼウスに押し付けられた神様だ。

「よお、坊主、それは、ヘルメスのサンダルだな?」

 海面がビリビリと震えるような低音で、アトラスは俺に話しかけた。

「ああ。ちょっとゴルゴン退治のために、借りている」

 その答えに、アトラスは目を見開いて俺を見た。

「ゴルゴンというと、あの見たものを石に変えてしまうという化け物か?」

「そーだけど」

 アトラスは「おおっ」と歓喜の声を上げた。

「坊主、頼みがあるのだが」

 ぎぎっと天を担ぐ位置を変える。ゆらりと天が揺れて、まだ天を走っていた太陽を載せたアポロンの馬車がぐらりと蛇行したのが見えた。

 ちょっと、待て。マジ、怖いんだけど。

「ゴルゴンを退治したあかつきには、西の果てまで戻ってきて、わしを石にしてくれないか?」

「石? なんで?」

 アトラスは大きくため息をつく。

「今の、見ただろう? 少しでもわしが天を動かすだけで大事になっちまう。もう長年この仕事を続けてきた。もちろん重要な仕事で誇りもあるが、退屈で、しんどい。代わりもいない。やめることが許されないなら、石にでもなっちまった方が楽だと思うようになった」

 彼の言葉は、深い憂いに満ちていた。

「……いいけど」

 俺は大きな神に頷いた。

「一応、倒してくるまでの間、もう一度考えなよ?」

 俺がそういうと、アトラスはホッとしたように微笑んだ。

「そうそう。ゴルゴン三姉妹は、メデューサ以外は不死だ。間違えぬようにな」

 アトラスは俺に念を押す。

「見た目で見分けがつかないの?」

「そうらしい。ただ、三人のうち、メデューサだけが、呼吸をしている」

 それって、後の二人は死んでいるってことじゃないだろーか。

 んー、不死って、そういう意味かよ。

「ところで、ヘスペリデスに会って、退治するのに必要な道具を借り受けるように、ヘルメスさまにいわれているんだけど」

「おおっ、ヘスペリデスなら、すぐそこの果樹園にいる。わしのむすめたちだよ。まてまて、わしが口をきいてやる」

 こうして、俺は綺麗なニンフたちに、ゴルゴン退治に必要な、かぶると姿が消えるハーデスの隠れ兜と、魔を封じてしまうことのできる袋、キビシスを借り受けた。

 どうせなら、ニンフたちとゆっくり話したかったのだが。父神であるアトラスがじっと見ながら、いろいろ口を出してくるので、どうにも居心地が悪い。早々に、ゴルゴンが住むという島を教えてもらって立ち去ることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ