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宝石少女、雑誌に載る


麗らかな午後。

うつらうつらと暇を持て余すセラの耳に、何かを吹き出す音が飛び込んできた。


うごふっ!だか、ブッフォッ!!だか、いささか擬音の選定に苦しむが、とりあえずお世辞にも好ましいとは言えないそれに顔をしかめ、音の出どころに視線を向けたセラは、ぴたりと固まる。


「ぐっ……ふ、ぶふ……」


上司が苦しみ悶えていた。

ただし、堪えきれぬ笑いのせいで、であるけれど。


「マスター……?」


胡乱な視線は、今無理喋れないとでも言いたげに持ち上げられる震えた片手によってさえぎられた。


――しょうがない、待ってやろう。マスターはなんか色々と大変なのだ。知らんけど。


ここのところ、人を殺しそうな顔で帰ってきては溜まった仕事を片づけている彼の姿を思い起こし、セラにとっては寛容な措置で待つことしばし。


「死ぬかと思った」


ギルド長の孫ことノインズ・ハーティーは死の淵から生還した。

笑いは収まったが目じりに涙が溜まっているところをみるに、文字通り死ぬほど笑い転げたようである。


「マスター。気でも狂いましたか」

「お前その゛とうとう頭が……”みたいな顔ヤメロ。まあ良い。ほい、これ」


普段通りやる気のない顔に戻ったギルに差し出されたのは、月刊ハンター。

素晴らしい成績を収めるギルドの面々を特集する娯楽雑誌である。

またウチのギルドの面々がこじんまりと特集されたのだろうか……いぶかしげにのぞき込んだセラがびしりと固まった。

そして、首をかしげる。


「……ヒラリー、ソロ止めたんですか」


それは驚きだ。

なんせセラはそんな話を聞いたこともないし、彼……いや彼女と称すればいいのか、とりあえず、ヒラリーが誰かを連れて居る姿を見た記憶もない。

そう。己を除いて。


というか、奴は果たして人と一緒にいてやっていけるのだろうか。


雑誌に踊る『妖精の君』なる儚げなお嬢さんの身をぼんやりと案じるセラの耳に、またしても形容しがたい失笑が聞こえてくる。……出所は言わずもがな。

じろりと睨みあげれば、視線を向けられたギルは堪えきれない笑いを発散するようにバシバシと机を叩くので忙しそうにしていた。


……解せぬ。


なぜ笑われねばならぬのかとセラは唇を尖らせる。


「お、おまっ……マジで言ってんの?」

「だから、何がですか」


かろうじて紡ぎだしたであろう笑い交じりのギルの言葉が、セラには理解できない。

本気か否かと言われたらマジである。

真面目にヒラリーが相棒を見つけた事に驚き、純粋にその美少女の身を案じた……それがなぜ笑いを誘うのかと、セラは眉をよせた。


「ヒラリーが、最近お前以外の連中とつるんでねぇのはお前だって知ってンだろ?」

「そうです。だから、パートナーが出来たのであればセラに紹介するべきだと思います」


ヒラリーが女性をアクセサリーのように見せびらかす目的で連れ歩くような男でないことはセラだって承知している。

しかし、セラの幸運をもってしても場所によっては大なり小なり傷をこさえる男である。

並のお嬢さんが彼の隣に立って無事とは到底思えない。ならば少しでも、そう、少しでも生存率を引き延ばしてやりたいと思うのが人情というもの。


――というか、そんな儚げでクソ強い美少女ならセラにも見せびらかせ。出し惜しみすんな。


本音がどうであったかはさておき。

ふんぞり返るセラに、ギルは深いため息をついた。


「よし。良いかセラ。おさらいしよう」


まるで教鞭を執るがごとく、ギルは姿勢を正した。

びしりと指が一本突き出される。


「いいか?まず一に、ヒラリーことアレックスの連れる女は澄んだ水のごとく清らかな色の髪を持つらしい。お前の髪は何色だ?」

「水色ですね」


即答したセラに頷きが返された。

そして指が増える。


「第二に、その瞳はルビーを埋め込んだように紅いらしい。で、お前は?」

「……赤いですね?」


なんとなく、ギルの言わんとすることが分かってきた。

でもいやだ。認めたくない。

セラは色々なものから目をそらしながら、続く言葉を待った。


「お前往生際が悪ぃぞ。じゃあ、ラスト。その妖精さんは、なんと外見に反してSランクの猛者らしい。……セラ、お前ランクいくつだっけ」

「……Sランクです」


信じられない面持ちでセラは雑誌の特集記事を見下ろす。

ヒラリーが最近つるんでる謎の美少女。儚げな妖精の君。


心配していたヒラリーの相棒は、見事ピンピンしていた。

それもそのはず、妖精の君は不幸などものともしないほどの幸運を持つカーバンクルなのだから。


憂いを取り除かれたセラは、雑誌を思いっきり放り投げるとカウンターに崩れ落ちたのだった。





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