「出されたお茶を飲んではいけない」
ウソ歴史。
実在する個人、団体等とは一切関係ありません。
「おい、お得意先でお茶に手をつける奴があるか?」
入社一年目、お得意様周り一軒目を終え、人目の無い小路でいきなり上司に頭を小突かれた。
「え? 駄目なんすか?」
「駄目に決まってんだろ! 美味しかったです。じゃねえよ! まったく。これが噂の新人類ってやつか? 猿人類みてえな面しやがって」
事実、伊右衛門だか五右衛門だか知らないが、出されたお茶は美味しかった。
便所が近くなるからか? 上司が全く理解できない。
あれから20余年、土堤で囲んだ高松城。水攻めの真っ最中だ……財にまかせた力技。俺も出世したもんだ。
お茶の縁で知り合った若造が、俺の隣で非日常的な光景に目を輝かせている。あの時はいきなり押しかけた寺で2杯もおかわりしてやった。
深夜に舞い込んできた御館様の突然の訃報! あっけない!
食い意地の張った俺は、まずは毒殺に用心せねば……俺は顔も忘れた上司に感謝した。
(完)