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MOMOTARO in 2015

作者: 川里隼生
掲載日:2015/03/01

笑い噺を一つ。


時は平成二十七年、大都会岡山から少し(北に伊豆半島の長さくらい?)離れた山奥におじいさんとおばあさんが住んでいた。実際には人口六千人程度の町なのだが、全員出すときりがない。この二人しかいないと思ってもらって構わない。


さてこの町、大きな商業施設も無ければ工場も無い。大抵の家は山の木を切って生活している。だが最近はシーオーツーがどうのこうのと役場がうるさい。そこでこのおじいさんは芝しか刈らないことで役人の目をくぐり抜けることに成功した。


おじいさんが誰も買いたがらない芝を刈りに行っている間おばあさんはどうしているかというと、掃除洗濯料理に洗濯、買い出し終わってまた洗濯と、大忙しであった。


洗濯を強調したのでお判りの方もいらっしゃるだろう。おばあさんが洗濯をしに行っていると、世にも奇妙なことが起こった。川上から川下へ、何かが来てる。おばあさんは、それを、気にせず受け流す〜〜〜〜。


「カーーット!」

ここで監督、待ったをかけた。何が不満かおばあさんを呼び出す。

「あのなばあさん。桃を拾わねえと話が進まねえんだよ」

「はて、桃なんて流れてきましたか?」

「流れてきてたよ、仕方ねえな。おいとん平。おめえ川下の桃拾ってこい」

しかしディレクターのとん平は椅子に座って団子を食べていた。

「おいおいとん平、何勝手に休んでんだよ。とっとと桃拾ってこい!」

「へ、へい、すぐに」

監督の大声にびっくりしたとん平、団子を投げ捨て、川下に向かった。


とん平はあらかじめ川下に網を張って桃が流れぬようにしていた。

「おおい、雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介(あてねぱりろんどんろさんぜるすべるりんろーまとうきょうのすけ)、無事かあ」

とん平が川の真ん中の網に引っ掛かってる桃に叫んだ。すると桃は真っ二つに割れ、中から小さな子供が出てきた。

「助けてくれよ、とん平」

実はこの雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介、泳ぎが苦手。とん平に助けを求める。

「ようし、少し待ってろ」

とん平、手を出して雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介を川から掬った。無事に役者を救出し、とん平と雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介はロケ地の川上まで歩いて戻った。


川上では監督が痺れを切らして待っていた。

「監督、雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介はこの通り、戻ってきました」

「とん平、桃はどうした?」

「ああ、しまった! おいら、雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介のことばっかり考えて、桃のことすっかり忘れてた」

「おいおいとん平しっかりしろよ、そいつの名前覚える前に仕事の内容覚えてくれよ」


とん平がまた川下に桃を取りに行き、帰ってきたところで収録が始まった。


おばあさんが洗濯をしていると川上から桃が流れてきた。それに気づいたおばあさん、子役入りの桃(約60kg)を軽々持ち上げ家に帰った。


おばあさんはおじいさんと食べようと桃(子役入り約60kg)を棚に入れおタエさんの洗濯を手伝いおスミさんと買い物に行きお前さんの部屋を掃除した。そうこうしていると金にならない芝を刈っていたおじいさんが帰宅した。

「ばあさんや、今帰ったぞ」

「お帰りなさいおじいさん。今日は桃があるんですよ」

おばあさんは台所の棚から桃(今年から小学生の雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介入り約60kg)を出してまな板に置いた。

「後はおじいさんお願いします。私には力がないので」

おじいさんは半信半疑ながらも渡された包丁を振りかざした。


おじいさんの包丁が達する直前、桃がひとりでに割れ、中からそれはそれはかわいらしい子供が出てきた。

「おお、これは驚いた。きっと子供ができなかった私たちへの天の恵みだ」

「いかにも説明っぽい台詞ですね、おじいさん」

「まあまあばあさん。まずはこの子に名前を付けてあげよう」

このおばあさん、台本通りに話すのが苦手な人で、どうしてもアドリブを入れたがる。

「おじいさん。名前よりどうして桃の中に子供がいたのかから考えませんか?」

「そうだなあ。桃太郎なんかどうだ」

おじいさん、あろうことかおばあさんを完全に無視。


雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介改め桃太郎はすくすく育ち、おじいさんの背を抜いた頃にこう切り出した。

「おじいさん、おばあさん。俺、鬼ヶ島さ行って鬼倒して、宝持って帰って女の子たちからちやほやされてえ」

「桃太郎……立派になって……」

本音が漏れてる桃太郎の言葉を聞いたおじいさん、涙を流して喜んだ。おばあさんはそんなおじいさんと少し物理的に距離を置いて桃太郎に言った。

「そうは言ってもね、桃太郎。確かに鬼は私たち村人の財産を不当に搾取してその上謝罪もしていないわ。これは法律上問題があって、岡山地方裁判所とか岡山県警とかに被害届けを提出することになるの。あなたは今まで五年近くかけても鬼を逮捕できない県警は信用できないと言うかもしれない。だからって鬼に武力攻撃を行えば解決するということでもないのよ。そもそもあなたが立ち上がる必要はないじゃない。女の子にモテたいなら学歴か容姿で勝負なさい。いくら桃から生まれたからってあなたは私たちのたった一人の息子なの。私たちにはかけがえのない宝なのよ」

「ばあさん……いつの間にそんな知識を……」

今度はおじいさんがおばあさんと物理的な距離をとった。

当の桃太郎、おばあさんの話を熱心に聞き、少し黙考した。

「わかった。俺、学歴か容姿で勝負する」


「カーーット!」

監督がまた待ったをかけた。

「納得しちゃおしめえじゃねえか。ここは『いや、僕はそれでも鬼ヶ島に行きます』だ。言ってみろ」

「いんや、俺、それでも鬼ヶ島さ行く」

「どうして東北訛りの子役なんか呼んだんだよとん平!」

監督の怒りの矛先が今度はとん平に向かった。

「へい。雅典巴里倫敦羅府伯林羅馬東京之介に似てる中学生くらいの子役がこいつしかいませんで」

「そうなのかよ、仕方ねえな。ところで、そいつの名前は何て言うんだい」

「へい、北海道青森岩手宮城秋田山形福島郎(ほっかいどうあおもりいわてみやぎあきたやまがたふくしまろう)です」

「また長え名前を連れて来たな、おめえは」


「アクション!」

監督の号令で茶番が再開された。

「俺、やっぱ鬼ヶ島さ行く。俺は顔良くねえし、小学校にも入ってねえ設定だから」

「そうかい。お前がそこまで言うならそうしなさい。ねえおじいさん」

「え、あ、ああ、そうだな。ぜひそうしなさい」

何故か地面に半分刺さっていた団子を食べていたおじいさん、返答が微妙に。とん平がカメラの外で青ざめている。


そしていよいよ出発の日。

「桃太郎や、この吉備団子を持って行きなさい」

「ありがと、おばあさん」

「桃太郎や、この甲冑と旗を持って行きなさい」

「ありがと、おじいさん」

「生きて帰って来てね」

「必ず勝てよ」

おじいさんとおばあさんの激励を受け、桃太郎の冒険が今、ようやく始まる!


「この旗センス悪いし、重えなあ」

出発してすぐに桃太郎、持っていた旗を茂みに投げ捨てた。

「痛っ」

「お、声がしたな。誰かいるのか?」

そこには犬が頭を抱えてうずくまっていた。しばし悶絶して、ふらふらと立ち上がった。

「いたた。あ、桃太郎さん桃太郎さん。お腰に付けた吉備団子、一つ私にくださいな」

犬は思い出したように台詞を棒読みした。

「俺、どこにも名前書いてねえぞ。吉備団子は持ってるけど、バックパックに入れてるし」

「と、とにかく吉備団子ください。鬼ヶ島までお供します」

「俺、鬼ヶ島目指してるって言ったか?」

「いいからよこせ。話が進まぬ」

犬が牙を見せながら低い声で言った。もはや脅迫と大差ない。


犬に吉備団子をやった桃太郎、犬を仲間にした。

「この吉備団子おいしいですね。桃太郎さん」

「だからって三十個全部食う奴があるか」

桃太郎は吉備団子が入っていたダンボール箱を丁寧に畳み、人がいないのを確認して茂みに投げ捨てた。

「痛っ」

「声がしたな。誰かいんのか?」

そこには股間を抑えた猿が一匹。犬が桃太郎に囁いた。

「あ、コイツきっとヤバイ奴です。『やらないか』とか言うタイプです」

「聞こえとるわ! 俺ホモちゃうし!」

「お前は関西出身か?」

「ああ、せやで。あんた桃太郎さんか? ほなら、吉備団子分けてくれや。鬼ヶ島までお供するさかい」

「俺、自分が桃太郎っても鬼ヶ島さ行くとも言ってねえぞ」

「ええからよこさんかい。話が進まんのじゃい」

猿は長い爪の先を桃太郎の首に突きつけた。間違いない、脅迫だ。

「俺、吉備団子持ってねえ」

震えた声で弁解する桃太郎。

「そんなわけ無いやろ。お前のばあさんが三十個作ったんとちゃうんかい、オラ!」

「あ、僕が食べました。全部」

犬が猿の足元で言った。空気を読まない犬だ。

「全部?」

「全部」

猿が完全に困った顔をしていると、突如フレームにターザンが現れた。監督の使いで新しい吉備団子を買ってきたとん平である。

「ア〜アア〜〜」

「あ、吉備団子だ」

ターザンが消えたあと、桃太郎の腕には新しい吉備団子の箱があった。


ご都合主義な展開で難を逃れた桃太郎一行、いよいよ海に出た。

「どうしよう。俺、船持ってねえ」

「僕はそもそも泳げません」

「わしもや」

三人が途方に暮れていると、空の彼方から雉が飛んできて言った。

「Hey, Mr.Momotaro. Please ください Kibidango」

「何かいい加減な英語しゃべる雉だなあ」

桃太郎は自己紹介もしていないことに興味を失っていた。


雉によって一人(一匹)ずつ鬼ヶ島まで運ばれた三人。ここからはノープランで正面突破。わかっている人もいるだろうが、監督、そろそろ製作に疲れてきている。展開が早いしいい加減。

「うおおおおお!」

まずは桃太郎、鬼の城の門番を切りつける。

次に犬。鬼に噛み付く噛み付く。犬の足跡の周りには鬼の脚やら腕やらが散乱している。

猿は鬼の顔を引っ掻いた。これが地味に痛い。

最後に雉、その嘴で鬼の視力を奪う。

むごい。むごすぎる。どちらが鬼かわからない。


あっという間に鬼を倒し、桃太郎たちは宝を持ち帰った。

「おじいさん、おばあさん。今帰ったぞ」

勢い良く戸を開けた桃太郎、直後に凍りついた。おじいさんが布団の中で動かなくなっている。その横ではおばあさんが看病をしていた。

「ああ、桃太郎。おじいさんが謎の腹痛で……」


「カットカット!」

監督が慌てて叫んだ。

「おいとん平、逃げんじゃねえ!」


お後がよろしいようで。

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