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悠久の欠片  作者: 蓮城
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8月20日・うろな町付近~店


前回:空港で感動的な別れをした名前不明の主人公。


日本に着いたのは17日。本来なら6日日には着く筈だったのだが、こちらへ向かう途中飛行機のトラブルでとある島国に緊急着陸。その際色々とあり2日ほど足止め。もう少し時間がかかると言われたので、たまたま港にいた日本の漁業船に乗せてもらった。


その時の船長さんにうろな町に行くと話すと、何と彼はうろな出身だという。機嫌をよくした彼が町まで送ると言ってくれるのを何度も断り(そのまま入ると密入国扱いになるのと他幾つかの理由により)、そのまま漁港で降ろしてもらい、入国管理局へ向かった。


管理局へ行くと取り敢えず捕まった。パスポートを持っているとはいえ、形は密入国なのだから仕方ない。とはいえこちらも日程が圧しているので、局長に「鬼ヶ島厳蔵」と伝えてくれと頼む。係員が渋々去った数分後、局長を名乗る男が現れた。事情を話すと今回は特例として罰金もなし、とのこと。そして即日釈放してくれた。


以前出会った彼が『緊急時は儂の名前を出せば万事解決じゃ!』と言っていたのを思い出して使ってみたのだが、ここまでとは。やはり持つべきは友だ。


釈放ついでに必要な処理を済ませてもらい、電車と徒歩でうろな町付近まで来て、今に至る、と言うわけだ。



そして今、私はうろな町と隣町の境界にいる。目の前にある看板には、


《ようこそ!うろな町へ!》


と書かれている。確かにこの看板でも問題はない。一歩踏み出そうと思えばできなくはない。しかし、こういうものは形式が大切なのだ。


そこで誰かいないかと視線を移すと、いた。大人しそうな女の子が。高校生か中学生だろうか。私はその場から声をかけた。


「すみません、お嬢さん。一つお尋ねしても?」


「…はい。」


私の声に答えてこちらに歩み寄った少女はどこか不思議な感じがした。


「ここから先がうろな町ですよね?」


「はい。」


「実は私この度この町へ引っ越してきた者なのですが、私はこの町に入ってもよろしいのでしょうか?」


「…貴方がそれを望むなら良いのではないでしょうか?」


「ありがとうございます。」


これで形も問題ない。礼を述べ歩き始める。何気なく後ろを振り返ると先ほどの少女はいなくなっていた。



☆★☆★☆★☆★☆★



昔の記憶を頼りに歩いていたのだが、余りにも変わりすぎていて全くわからなかった。最後にいたのはずっと昔だからしょうがない。誰かに道を訊こうと人を探すと、いた。『求めよ、さすれば与えられん。』と昔ある男が言ったが正にその通りだと思う。


ただ、見つけたのは人ではなく、唐傘をもった天狗だった。



「…失礼、天狗さんとお呼びすればよいでしょうか?」


「如何にも、私は天狗仮面!そのように呼んでくれて構わない。ところで御老人は?見かけない顔だが。」


「あぁ、申し遅れました。私は今日からこの町に引っ越してきた皇悠夜(すめらぎ ゆうや)と申します。以後お見知り置きを。」


「なるほど皇殿か!よろしく頼む。困ったことがあればいつでもこの天狗仮面に言ってくれ。」


「では早速一つ、宜しいでしょうか?」


「うむ!」


こうして私は天狗仮面と名乗る彼に、道に迷ったことを伝え商店街まで案内してもらうことにした。



「ところで皇殿。先ほどから周りを感慨深そうに見ているが、以前この町にいらっしゃったのか?」


「えぇ。そこまで分かるのは、天狗の神通力というやつですか?」


「いや、ただの勘である。なんとなくそのような気がしたのだ。」


「なる程。ところで、この町にまだ栃の木はまだありますかな?」


「うむ。あの木ならまだ西の山の頂上で息災である。皇殿は知っているのか?」


「えぇ、よく知っています。あの木とは仲がよかったので。」



そんな話をしているうちに商店街についた。


「ここが商店街である。」


「ありがとうございます、天狗さん。唐傘さんもありがとうございました。」


礼を述べて商店街へと入って行く。


皇を見送った天狗仮面の傘(・)が彼に話しかける。


「兄貴。アイツあっしに気づいちゃいやせんでしたか?」


「確かに不思議な御仁ではあったが妖気などは感じられぬ。気のせいであろう。」


「ですかねぇ…。」



☆★☆★☆★☆★☆★


私の新しい店は商店街近くの空きテナントに構えることとなった。最初は商店街のどこか、と考えていたのだが、どうやら既に本屋があるらしい。電話で商店街の代表の人と話した際、本屋と古本屋なら違うから特に問題はないとは言われたのだが、どうも競い合うようで嫌だったのでここを紹介してもらった。


商店街は目と鼻の先なので、ここも一部のようなものだと言われた。嬉しくはあるのだがそれだと離れた意味がない。しかし他によさそうな場所もわからないのでここにしたのだ。


「これから宜しくお願いしますね。」


そう呟き、ペコリと一礼した後、室内に入る。既に本棚は頼んだ通りに置いてある。本の入った箱は私物や取り寄せたもの区別なく奥に積まれているが、それは自分でやると伝えてあるので問題ない。


以前にも古本屋(当時は古書堂と呼んでいたが)を営んでいた。やはりこの雰囲気は落ち着く。乾いた本の香り。適度な来客。一人の静かな時間。全てを兼ね備えている。うん、私にピッタリの仕事だ。


そんなことを思っていると入り口のドアが開き、誰かが入ってきた。私はゆっくりと振り返る。


「こんにちはー。」


「こんにちは。貴方は?」


「あ、俺商店街でオモチャ屋やってます高原直澄っていいます。これから宜しくお願いします。」


「此方こそ宜しくお願いします。皇悠夜と申します。」


「親父が引っ越してきた人が来たみたいだから挨拶と手伝いに行けって。何か手伝うことあります?あ、ダンボールの中身とか?」


「ありがとうございます。ですが一人で大丈夫ですので。本の中には希少本もありますから。」


「あ、すいません。」


「いえいえ。落ち着いたらぜひお越しください。それと、明日には商店街の方に挨拶に伺いますので。」


「引っ越したばかりでバタバタしてるだろうから別に他の日でも大丈夫ですよ?」


「挨拶とかは早いに越したことはありませんから。それに早く皆さんとも知り合いたいですから。」


「皇さんて謙虚ですね。そうしたら俺は戻りますね。何かあったら言って下さい。」


「いえいえ、わかりました。ではまた明日。」


少し話した後に青年は帰って行った。彼は中々好感が持てそうだ。


さて、今は取り敢えずあの本の山を片付けねば。そう思い直した私は来る途中に買ったパンとお茶を摘んでから整理に入った。






※この作品は『うろな町』企画参加作品です。



零崎虚識氏より鬼ヶ島厳蔵、YL氏より高原直澄をいきなりお借りしました。

口調とか時系列大丈夫ですかね?



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