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『空子の旅』

作者: JOEmasa

再びデジカメのシャッターを切って、その出来を確かめた。

サクレクール寺院、所謂モンマルトルの丘から見るパリの街並みは確かに印象深い。

初夏の緑越しに、古い建物が並ぶ現代の町が遙か向こうまで続き、まるで高い空に手を伸ばすかのように、その境界に至ると整然としたビルが建ち並ぶ。

美しい、その言葉を言い切るには違和感もあったが、しかしここまで幻想的な近代の風景は、ここでしか得られないと思った。


空、それはきっとこの空の青さから来ている。

西洋特有の抜けたような、奇妙な程に高い空がこの都市の上には佇んでいる。

まるで大昔この辺りで信仰されていた神々がそこには本当にいるような、そんな気にさせられる世界が、この土地を包み、時には写し鏡のようにパリと共に生きている。


私はもう数十枚になった写真を一枚一枚さかのぼって、こんなことを考えていた。

どれもこれもこの場の風景が写っていて、そしてどうにもしっくりこない。

別に写真家になりたい訳でもなく、芸術を志して来た身でもない。

ただ、どうしても今目にしている光景を、形にしておきたかった。


空子、何度復唱したか分からないこの名前。

そりゃあからかわれたことは一度や二度じゃあないけれど、二十も過ぎた今、こんな地球の反対側まで来て恨み言を言う気はない。

ただこんな名をつけた親父は、私が十歳の頃にふらっと旅行に出かけ、その先であっさり死んでしまい、母も知らないというこの名の由来はついぞ分からないでいた。

それ故に特別な思い入れ、そんなものがない訳ではなかったが、まだどこかでフラフラ生きていそうな親父の像と重なって、私は私の名を知りたくなって旅に出た。


「どこかの空を思い出してつけたとか、言ってたんだよな」

周りが日本語を分からないからと、伸びをしながら観光客の中で呟いていた。

すると突然、後ろからポンポンと肩を叩かれた。

振り向くと、画材を持った貧乏そうな男が指でフレームを作り、笑顔で私を見つめていた。


片言で語りかけてくるその男は、どうやらテルトル広場の似顔絵描きのようだった。

私はしばらく考え込むと、彼にその画材を売ってくれと突然申し出た。

男は当然驚いたようだったが、半ば強引に話をつけ、私は価値を知らないために言い値で買ったそれを広げて、またパリに向き直った。

旅費は削られたし、慣れない作業でもあったが、中学の授業以来になる絵を描きながら、不思議と清々しい気分をその身に感じていた。

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