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〇×〇っ!!

仮×仮っ!

作者: 子子子

題の読みは"カリッカリッ!"です(笑)


短編のため、設定や細かい人物描写を割愛させて頂いております。ご了承下さいませ。

ドルウェルという国にとても有名な宰相閣下がおりました。かのお方は、頭脳明晰、容姿端麗、そして王位継承二位という、まさに年頃の乙女たちからすれば垂涎もののお方であります。


このお話は、そんな宰相閣下の陰に隠れる様にして、人生を謳歌していた王太子殿下のお話でございます。


この王太子殿下には秘密があり、それは国王夫妻と側仕えしか知らない極秘中の極秘でありました。


実は、かの王太子殿下-。男性ではなく、れっきとした女性。


ドルウェルでは今日まで、女王が立つということがありませんでした。なので、王太子殿下が実は女性だということは、大問題であります。


しかし、その大問題の渦中にある王太子殿下にしろ、秘密を知る国王夫妻にしろ、あまり事を大きくは捉えておりませんでした。


彼女たちにしてみれば、秘密を抱えるより、その秘密がばれた時の宰相閣下の怒りの方が恐ろしかったからです。


しかし、ツケはいつかは払わなければならないもの。ついに、彼女たちに宰相閣下の魔の手が伸びてきたのでありました―。






「さぁ、殿下。今日こそは、色よい返事を頂きますよ?」


ドルウェルの有名な宰相閣下の執務室に響くのは、その麗しい顔に青筋を立てている部屋の持ち主の宰相閣下本人であります。お名前をリディック様と申しまして、皆が知る王位継承二位のお方。しかし、リディック様には王位を継承するおつもりはなく、兄(実は姉)である王太子殿下にこそ相応しいと思っている、少し残念なところのあるお方なのでした。


「なぁ、弟よ。何も私が子を成さずとも、お前が結婚して子を成せばいい。幸いお前は王位継承二位ではないか!しかも、頭脳明晰、容姿端麗!引く手数多で、女性に至っては選り取りみどり!選びたい放題ではないかっ!!そんなお前の子供なら、王位を継ぐのに相応しい。そうは思わんのか?」


もっともらしく、能弁を垂れる王太子殿下でありますが、ただ必死に己の逃げ道を模索している、少し可哀想なお方です。


しかし、それもいた仕方ないこと。


王太子殿下はリディック様のお部屋で簀巻きにされ、目の前には幾多のご令嬢の姿絵を並べられていたのです。


そんな王太子殿下のお名前はチェリオ様と申しまして、今年に入り35歳のお誕生日を迎えられておりました。


「…兄上、何度言えばその軽すぎる頭に入るのですか?私は兄上が結婚してからでないと、結婚はしないと!そのスカスカのスポンジ頭も、本物のスポンジがすぐに水を吸収するが如く、私の言葉も記憶なさってくださいっ!!」


仁王立ちで簀巻きのチェリオ様の前に立つリディック様。その言い様は酷いものがありますが、これもチェリオ様への親愛故でございます。


一方、怒鳴られているチェリオ様は、そんなリディック様に動じる事なく、簀巻き状態のままあっちにゴロゴロ、こっちにゴロゴロ。遊んでいらっしゃいます。


「この子たち、好みじゃな~いっ。私は結婚したくな~いっ」


わがままを言う子供のようなご様子のチェリオ様に、流石のリディック様もついに堪忍袋の緒が切れたようでした。


「わかりました、兄上。では、どの様な御方を御所望ですか?私が必ずや見つけて差し上げましょう!」


ふふふっと笑うリディック様は、見目麗しいだけに背後に背負った禍々しいものと相俟って、とても不気味で背筋が寒くなるようでございます。


しかし、長年兄弟(本当は姉弟)として育ってきたチェリオ様には、ギリギリ大丈夫なラインだったようで、背中に冷や汗を掻きながらも逃げられたと思ったのです。


「私はねぇ、強くて賢くて女王のような雰囲気を持つ、お前のように美しい女性がいいな!そんでもって、お前のように頼りがいがあって、私を支えてくれる優しい女性がいい。…まぁ、お前のようなそんな素晴らしい女性はなかなかいないだろうがなっ!なぁ、リディック」


これでもかとリディック様を引き合いに出し、リディック様を褒めまくるチェリオ様は、リディック様のブラコン(本当はシスコン)気質を見事に利用した姑息な手を使います。

対するリディック様も、敬愛する兄君(何度も言うが本当は姉君)、チェリオ様に褒められて満更でもありません。


しかし、幾度となくそうやって躱されてきたリディック様でございましたが、今回ばかりはそうはいかなかったのでございます。

何故ならリディック様に、愛するお方が出来たからでございます。その方と婚礼の儀をあげるためにも、王太子としては貰い遅れ(王族の姫としては完全に行き遅れ)の兄君(もういいよね?)、チェリオ様に結婚していただかなければ安心出来ないのでございました。


「わかりました。兄上!私は必ずや、私と同等もしくはそれ以上の素晴らしい女性を連れてきます!…その女性を連れてきた暁には、わかっていらっしゃいますね?御結婚していただきますからね」


またもやふふふっと笑うリディック様に、今度は流石にカクカクと壊れたように首を縦に振るチェリオ様。

敬愛する兄君(以下同文)と愛する女性のために動き出したリディック様の背後の気配はますますドス黒く禍々しくなり、辺りを侵食するのでありました。





そんな事があった日から、三ヶ月ほどたったある日の事でございます。


俄かに城が慌ただしくなったと感じたチェリオ様は、突然現れた黒装束の男たちに簀巻きにされると、ある場所へと連れていかれました。


その場所とは闘技場。雄々しい男達が己の技量を試し合うための場所でございます。


それを指示をしたのは、愛と使命に燃えるドルウェルの麗しき宰相閣下、リディック様。


簀巻き状態のまま、闘技場の中程に放置されたチェリオ様は目を白黒させております。


「お初目にかかります、ドルウェルの才色兼備と名高い宰相閣下の陰に潜む王太子、チェリオ殿下」


少し低めで、甘く響く声がチェリオ様の頭上から降って参ります。


未だ、状況を把握出来ないチェリオ様は、その随分と失礼な物言いに怒る事もなく、確かにっ!とその声に心中で同意していたのであります。


そして、うつ伏せの状態だったので、声の持ち主をご覧になるためにごろりと体を反転させたのでございます。


リディック様によく、簀巻きにされるチェリオ様にはお手の物のその動作。慣れた様子で仰向けになられると、チェリオ様の目に美しい女性の姿が飛び込んできたのでございます。


弟君であらせられるリディック様にも引けを取らないその美しいお顔に、チェリオ様はぽかんと見惚れるしかないのでありました。


「チェリオ様、この度は辺境の地であるヨーグに御目をかけて下さってありがとうございます」


にっこりと微笑むその女性ですが、聞こえる声の節々に棘があり、ちっともありがたそうには聞こえません。しかも、チェリオ様には、その女性が仰られた意味が全くわかっておりませんでした。


「私のような辺境の地のしがない王女を娶りたいなどと仰ってくださるなんて、なんて心の広いお方でしょうか」


全くそう思っていない事が感じられるその声の持ち主の女性にチェリオ様は困惑しながらも、事の次第を尋ねる事に致しました。


「あの…失礼だが」


「殿下っ!」


チェリオ様の声に重なる様に聞こえてきたお声は、リディック様のものであります。


いつの間にやら、チェリオ様の視界にお姿を現されたリディック様は、そのお膝を折ると身を屈めて、チェリオ様のお顔に自らのお顔をお近付けになられました。


「兄上。兄上は約束されましたよね?私と同等、もしくはそれ以上の素晴らしい女性であれば、御結婚なさると…。よもや、忘れたとは申されませんよね?」


そう言うリディック様の目元には、これでもかというぐらいの濃い隈ができており、頬はげっそりと痩けております。それもその筈、リディック様は、敬愛する兄君(以下同文)と愛する女性のために三ヶ月間、寝る間を惜しんでチェリオ様の御結婚相手を探されていたのですから。


そんなリディック様のご様子は、壮絶な美を醸し出し鬼気迫るものがございます。チェリオ様もこれには圧倒され、記憶の彼方に放り投げ、頭の中のどこを探しても見つからないその約束を覚えているかの様に頷くしかありませんでした。


そんなチェリオ様のご様子にいたく満足したリディック様は、立ち上がるとチェリオ様を見下ろし、口を開きました。


「殿下、こちらは遥か西の地、ヨーグ国より参られました、メルド王女様にあらせられます。まさに殿下の理想の権現の様なお方で、文武両道、末は良妻賢母と各国で是非王妃にと求められている女性です」


リディック様のご紹介に、ヨーグの王女様であらせられるメルド様が優雅にチェリオ様にお辞儀を致します。


「名乗りが遅れて申し訳ありません。私、メルドと申します」


改めて、メルド様が自己紹介をしてくださったのに、素っ気なく、はぁ。と返したチェリオ様は、リディック様の視線(むしろ死線)に晒され、慌てて丁寧に言い直されました。


「私の名は、チェリオ。ようこそ、我が国へきてくださった!歓迎致します」


キリリと格好をつけて仰ったチェリオ様ですが、簀巻きの状態では格好をつけても…という感じです。案の定、メルド様の目には冷笑と憐憫がまじっております。


しかし、それに気づいても特に何も感じないチェリオ様は、それよりもこのまま結婚へと持ち込まれないためにどうすればいいのかと、策略を巡らせるのに大忙しでした。


何せ、お相手は女性で、御身も女体。子などできるはずもなく、しかも国家を跨いでの婚姻は、厄介なことになりかねません。


そんな時、チェリオ様に光明が差したのでございます。


「チェリオ殿下、御結婚のお話は大変嬉しく思いますが、実は私…、自分より強い方でないと、結婚しないことにしているんですの」


そう言って、微笑まれるメルド様は大変艶やかで、男であれば一度はと思うほどの魅力がございました。


「殿下、そうおっしゃるメルド様ですが、殿下の剣術音痴のお話にいたく同情を示してくださって、今回は特別にどんな手を使っても良いと仰られてくださったのですよ」


だから、どんな汚い手を使ってもいいから勝てと、リディック様の視線がチェリオ様に刺さります。


チェリオ様はそうかと言うと、二人に悟られない様にほくそ笑むのでございました。


「それでは、チェリオ殿下。どうぞ、どこからでもかかってきてください」


メルド様が、色気たっぷりに微笑まれます。しかし、どこからでもと言われたチェリオ様は簀巻き状態。負ける気満々のチェリオ様ですが、遠路はるばるきてくださったメルド様に恥をかかすわけにもいきません。そして、それ以上に怖いリディック様の視線に、生半可なことは許されないと察し、意を決するとチェリオ様は声を張り上げ叫ばれました。


「ヌイィィイイィィッ!!来いっ!」


チェリオ様の声に呼応するかの様に一陣の風が三人の周りに渦巻き、それが止むといつの間にか、一人のひょろりとした手足の長い男が、チェリオ様を跨いで座っておりました。


「おいっ、ヌイ。その登場の仕方はどうかと思うぞ!」


「え~、ダメですかぁ?つか、主いつも簀巻きっすね」


「…好きでなってるわけじゃないんだがな」


ヌイと呼ばれた男は、チェリオ様を影ながらお守りしている男であります。そんな彼と軽口を叩きつつ、チェリオ様はメルド様に顔を向けられました。


「メルド殿、私はこんな状態でなくとも、剣術はからっきしです。しかし私は、こうしてわざわざ出向いてくださった貴方に少しでも報いたい。彼は私の知る中でもっとも強い男。そして、彼は私自身に忠誠を誓い、私の変わりに剣を振るう男です。どうか、この男ヌイと闘って、ヌイが勝ったら私の花嫁になって欲しい。もし、貴方が勝ったなら、私は潔く貴方を諦めよう!」


相変わらず、ヌイをお腹にお乗せのまま、渋く仰ったチェリオ様ですが、全く格好はついておりません。その上、チェリオ様の発言は、言い回しこそ素晴らしいものでしたが、砕いた中身はあまり素晴らしいものではありませんでした。


ヌイはチェリオ様の発言に、何故自分が呼ばれたかを正確に把握すると、メルド様を見て、ニヤリと爬虫類のような笑みを浮べ、メルド様に頭を垂れました。


「メルド様、私はヌイ。我が主の剣は私。私が貴方様に勝てたならば、どうぞ、主の隣にいらしてくださいね」


そう言うヌイは、チェリオ様が実は女性であることを知っておりました。しかし、ヌイにとっても、リディック様は恐怖の存在であります。

チェリオ様の不利にならぬ様というより、自分の身を守るため結婚賛成の形をとります。


「ヌイ、しっかりやれ」


チェリオ様のお言葉を訳すると、"リディックにバレない程度で、王女に恥を欠かせない様、うまく負けちゃって!"となります。


「御意にぃ!」


ヌイはしっかり、チェリオ様の意を汲み、チェリオ様の上から飛び降りるのでございました。


「メルド様、私は主の剣ではありますが、使う武器は剣ではありません。それでもよろしいですか?」


チェリオ様から飛び降りたヌイは、雰囲気がガラリと変わり、その爬虫類の様な目を、ギョロリ、ギラリと光らせ、すっと広げた両手に、何本もの細い鉄杭を持っておりました。


「…相変わらず気持ち悪いな」


「そうですね」


真剣なヌイとメルド様の後ろで、ヌイの気持ち悪さに失礼なお言葉を交わすチェリオ様とリディック様。


「私に二言はありませんわ。暗器ごとき、この剣で弾いて差し上げます」


既に、ヌイとの闘いに向けて意識を集中していたメルド様は、後ろのお二人のことは眼中にありません。そのスラリとした細身に似合わない大剣を危な気なくヌイに向けると、高らかに宣言するのでありました。






今だ簀巻き状態のチェリオ様とその隣に立つリディック様は、闘い出してからずっと一進一退の攻防を続けているヌイとメルド様を固唾を飲んで見守っておりました。


ヌイが一体何本隠し持っているのかわからない鉄杭を、飛び上がりざまに放ちますと、メルド様はそれを真正面から見据え、大剣を振り上げ弾かれます。かと思えば、メルド様がヌイの懐に飛び込み、その大剣を繰り出すと、ヌイが紙一重というところで身を躱します。続け様にヌイが変幻自在の鉄線をメルド様に伸ばしたかと思えば、メルド様はわざとそれを大剣に巻きつけ、遠心力で鉄線の先のヌイを放り投げます。


「まずい…。非常にまずいぞ、これは」


「兄上?」


いきなりぼそりと呟くチェリオ様に気づいたリディック様が、チェリオ様を窺えば、そこには顔面蒼白の簀巻き状態のチェリオ様がいらしゃったのです。


「ヌイが負けるとでも?」


「…いや、残念ながらヌイは負けない。あいつ、本気になりやがった!!」


リディック様の問に、思わず本音混じりに叫ばれてしまったチェリオ様。リディック様は身を屈めチェリオ様のお顔を覗き込むと、そのやつれて幽玄の美を醸し出しているお顔にうっすらと笑みを浮べたのです。


「兄上、今の話をもう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」


目の前のリディック様のお顔に、チェリオ様は自らの失態に気づかれましたが、時既に遅く、リディック様のネチネチネバネバしたお説教混じりの嫌味が始まったのでございます。






「ハッ!」


メルド様の渾身の一閃がヌイの腹部を狙いました。


メルド様が、捉えたと思った瞬間、メルド様の首筋に小刀が当てられておりました。


「中々面白うございましたが、まだまだですね」


数刻に及んだ闘いは決着がついた様でございます。


メルド様は、自分の耳元で囁かれた声に自身の敗北を悟られました。そして、後ろを振り向くと隙のない顔でニヤリと笑うヌイを眺めました。


「私の負けですわね。…お望み通りに、チェリオ殿下に嫁がせていただきます」


何かただなる決意を秘めたメルド様の美しい瞳に、ハッとなるヌイは慌てて己の主を見ます。しかし、目線の先の主は簀巻きのまま半分魂を飛ばしており、その隣で人とは思えない美しい笑みを湛えるリディック様を見つけると、メルド様によい結婚生活をと告げ、現れた時と同様に風を巻き上げ、忽然と姿を消してしまいました。






それから半年後-。チェリオ様はメルド様を無事(全然無事じゃない)に娶り、婚儀を執り行ったのでございます。


そんなめでたき日。これから迎える妻となったメルド様との初夜に頭を抱えるチェリオ様はメルド様が待っておられる二人の寝室の前で、右往左往しておりました。


先に動いたのは、メルド様でございます。


寝室の外にいらっしゃったチェリオ様の気配に、ヌイとやり合う事がお出来になるメルド様は気づいていらっしゃったのです。


いつまで経っても、寝室にお入りになられないチェリオ様に痺れを切らしたメルド様は、バンッと勢いよく寝室の扉を開け放ちますと、びっくりして固まっておられたチェリオの腰を掴み寝室へと引き込まれたのであります。


そのまま、広いベッドに投げ出される形で押し倒されたチェリオ様の目には、真剣なお顔のメルド様。どこか切羽詰まったような雰囲気のメルド様は、ゆっくりとチェリオ様から体を退けると、チェリオ様を見つめたままこう仰られたのです。


「チェリオ殿下。私は今まで秘密にしていた事がございます」


(私は現在進行形の秘密保持者だが)


メルド様のお言葉に、脳内で会話なさるチェリオ様。先程のメルド様の登場から、心臓はドキドキしっ放しでございます。


そんなチェリオ様に気づく様子のないメルド様は、ベッド脇に立たれると、着込んでいた薄手のネグリジェの紐に手を掛けられました。


「見ていただいた方が早いと思います。驚かれるとお思われますが…。決して我が国の罪ではなく、私のみの罪でございます!今後、何人もの愛人を持たれても構いません。殿下が男色ならば尚よろしい!…私、不肖ながらお相手させて頂きますっ!!」


メルド様が、言葉を吐かれつつ興奮していく様をぽかんと眺めていたチェリオ様でございましたが、メルド様の手により、メルド様のネグリジェが床に落とされた瞬間、チェリオ様のお顔は赤く熟れ、慌てたチェリオ様はそのままお布団の中へと身を隠されたのでございます。


(ナニアレ!ナニアレッ!!立派ナモノガツイテタヨッ!?)


チェリオ様の瞳に映ったメルド様の一糸纏わぬ美しい裸体は、やけに筋肉質で引き締まっており、胸は平で、下半身に至っては男性のナニがぶら下がっていらっしったのです。しかも、耳年増のチェリオ様にはそれが通常時である事が明白で、その通常時にも関わらずご立派なナニにドン引きしてしまわれたのでありました。


ベッドの軋む音がして、チェリオ様の体がビクリと震えます。


「殿下、驚かれたと思います。…しかし、私も好きでこの様な事になったのではありません」


低く澄んだ地声に戻っておられるメルド様は、チェリオ様が布団の中で身を固くしながらも話を聞いてくださっているのを感じ、自身の身の上話をし始めたのでございます。


聞いておりますと、何処となくチェリオ様と似た境遇。ただ違うのは、チェリオ様が、皇后陛下の趣味で男装をさせられ、それを今日まで言い出せなかったのに対し、メルド様は生まれる前の占いで男児ならば殺すべしとの宣告を受け、それを避けるためにヨーグの皇后陛下、メルド様の母君が女装させていたかの違いでございました。


メルド様の己より不遇な事情にいたく同情なされたチェリオ様は、布団の中で滂沱の涙を流されておりました。


「…これは私が生まれてしまったが為の罪です。ですから、どうかヨーグに制裁を加えるのだけは許していただけないでしょうか?…お願いです。どうか、お願い致します…」


メルド様の不遇な境遇だったにもかかわらず、自国を思う気持ちに打たれたチェリオ様。涙を拭くのも忘れて、もそもそと布団からお顔を出されると、メルド様を見つめました。


意外と顔同士が近い事に驚き、メルド様が一瞬息を吞み固まった事に首を傾げつつも、チェリオ様は真摯な面持ちでメルド様に己のお気持ちをお伝えになられたのです。


「メルド殿。いや、もう夫婦となったのだから、メルドで良いかな?」


涙に濡れたままのお顔で優しい笑顔をお造りになられたチェリオ様に、メルド様は恥ずかしげにコクリと頷かれます。


「メルドの事情は察したよ。随分と不毛な人生であったな。しかし、こうして、私が其方を望み娶ってしまっては、其方が男子に戻る事は叶わぬ」


申し訳なさそうにそう仰ったチェリオ様に、メルド様が口を開こうとすると、チェリオ様はメルド様のお口に人差し指を当て、小さく首を振られます。


「なぁ、メルド。私が望んだばかりに、其方も多いに悩み苦しんだであろう?そして、これからも苦しむ羽目になってしまった。其方には本当に申し訳ない事をした。…謝って許される事ではないかもしれないが、どうか、私を許して、私をこれから支えてくれると嬉しい」


そこまで仰ると一旦、息を吐きメルド様を窺います。メルド様は目をパチクリと開いた愛らしいお姿で、チェリオ様をご覧になっております。


「都合の良い事を言っているのはわかっている。代わりと言ってはなんだが、世間的男子に戻る事は叶わないが、この城にいる間ぐらいは男子に戻ればよい。私もなるべく其方に不自由をさせぬ様、夫としてと言うより友人として努力するよ。…ただし、メルドが男だとバレると弟が煩いから、あいつには絶対ばれない様にな」


優しいお顔で、最後は茶目っ気たっぷりに仰られたチェリオ様に、メルド様のお顔が華も恥らうような艶やかな笑顔になられました。


それを見てホッと安心したチェリオ様は、今だにお美しい裸体を晒されていたメルド様に、自身が被られていた布団をそっと巻きつけて差し上げたのです。


「さぁ、いくら美しく目の保養になると言っても、夜は冷える夜着を着て眠りなさい。其方はベッドを使えば良い。私は、そこのソファーで寝るよ。なに、遠慮はなしだ。慣れない地と緊張で疲れているだろう。ゆっくりお休み」


そう言うチェリオ様は、毎度簀巻きにされているとは思えない程の格好良さでありました。


メルド様はそんなチェリオ様を見て、艶やか…いえどちらかといえば淫靡な笑みを浮べると、チェリオ様が掛けてくださった布団を放り投げ、ベッドから降りようとなさっていたチェリオ様を再び押し倒したのでございます。


「殿下…、いえチェリオ様。俺は勉強してきたんです」


何を?とは聞けない妖しく危険な雰囲気のメルド様に、チェリオ様は驚かれる前に恐怖を感じられます。


それは、まるでそれは肉食獣を前にした草食動物。激しく動揺している、チェリオ様を余所にメルド様はチェリオ様の腰に手を滑らせ、もう片方の手で、チェリオ様の両手をチェリオ様の頭上でベッドに縫い止めます。そして、潤みの増した瞳でチェリオ様を見つめると、そのいやらしくも麗しいお顔をチェリオ様の耳元に寄せたのであります。


「大丈夫ですよ、男は初めてですが、優しくしますから…」


メルド様は欲情に濡れたお声で、チェリオ様のお耳に囁かれるとちゅっと音を出されて、チェリオ様のお耳に口付けを落とされました。


(優しくするってなんだぁっ!?男はって、女とはやったことあんのか!?コラァッ!!こちとら、どっちもないんじゃいっ!!)


脳内では激しく抗議なさっているチェリオ様ですが、実は内股に感じる固い物体が気になり、声も出せずに震えております。


そんなチェリオ様のご様子に、情欲を刺激されたメルド様は、チェリオ様の唇に自身の唇を落とすと、貪るようにチェリオ様の唇を蹂躙し始めたのでございます。


その間、腰の辺りを彷徨っていたお手で、チェリオ様の全身を弄るように撫で回されておりますと、ふとチェリオ様の胸の辺りで違和感を感じられたのでございます。


チェリオ様の唇から離れ難い、自身の唇を離すと、チェリオ様の蕩けるようなお顔を見つめて、質問を致します。


「チェリオ様、…いや、チェリオ?貴方の本当のお名前は?」


「チェ…チェリオーネ」


軽く酸欠状態であられたチェリオ様は、長年呼ばれた事のない真の名を、メルド様にポロリと言ってしまわれたのです。それにハッと気付いたチェリオ様でございましたが、目の前のメルド様はそれは大層嬉しそうに微笑まれ、また激しくチェリオ様の唇を奪うのでした。


「俺は貴方が何者でも…男でも女でも構わない。貴方はただの俺を見てくれた。だから、貴方が男でも抱けると思ったが、女と知ってこれ程嬉しい事はない。チェリオ…チェリオーネ…、俺は貴方を愛してしまったようだ」


思う存分、チェリオ様の唇を味わったメルド様は、チェリオ様にそう仰ると、チェリオ様が聞いているのかいないのかを気にすることなく、初夜を楽しんだのでございます。


翌朝、起き上がる事の出来なかったチェリオ様に、大体の予想がついた国王夫妻は特に何も言われずに、ニコニコとしておられましたが、秘密を知らぬリディック様と城の者は、草食系王太子殿下が肉食系王太子妃殿下に喰われたのだと思われていたそうでございます。







それからドルウェルの城では、何故か王太子妃殿下の腕に抱かれる王太子殿下のお姿がよく見られるようになったとか。


そして、やっとの思いで愛しいお方に告白をし、結婚までお考えであられた宰相閣下は、顔のいい人は嫌いと振られたそうでございます。

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[良い点] 突発性爆笑に注意! 一応ハッピーエンド! [気になる点] 側使 ・・・側仕? 見え麗しいだけに ・・・見目? メルド様に面目が立ちません。 ・・・メルド様『の』? [一言]  面白かった…
[一言] 続編超キボンヌ!弟が兄が姉だと分かり、ブラコンからシスコンにジョブチェンジして、旦那と主人公を取り合ってバトって欲しいな♪
[一言]  最終的に王太子が妊娠しちゃったら、尊敬していた兄が実は姉だったってバレるんじゃね? リディックに。
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