第3話
「貴様は、兵器だ。
心は、いらない」
魔王討伐を終えた、僕に王はそう言った。
「元の世界に返してくれるとの約束ですが?」
「ハハハハ!
嘘に決まっているだろう!
愚かな奴だ、貴様は、一生我ら王族に使われるのだ!」
そんな事だろうと思ったよ。
完全な裏切りだ、でも怒りは、感じない。
本当に僕の人としての心は、死んでしまったみたいだ。
「どうした?
我に使われることは、最高の幸せであろう?」
他人の尊厳を踏みにじることがそんなに楽しいのか?
「いいえ。
僕は、あなたを認めない。
あなたは、今ここで死ぬべきだ」
僕の言葉にこの場に居る全ての兵が、構えた。
しかし、王だけは余裕の表情だった。
「フン、貴様にかけた魔法は、解除されておらん。
それが、ある限り貴様は、我に触ることも出来んのだよ」
この世界に来てすぐに、束縛の魔法をかけられた。
王に決して触ることが出来ない魔法。
今となっては、どうだっていいことだ。
「そんなものは、いつでも解除できるんですよ」
ずっと、大人しくしていた、言うことを聞いて、都合のいい勇者を演じてきた。
でも、魔王が居なくなった今、僕は、この世界で邪魔でしかない。
なら、せめて僕らをこんなことにした、張本人だけでも消しておこう。
「バ、バカな!
どうやって、解除した!?
皆の者、こいつを捕らえよ!」
それは、一瞬の虐殺だった。
王の命令で前に出た、兵は、全て血飛沫を上げながら首が飛んだ。
悲鳴と恐怖と紅で染まる、謁見の間。
「僕の力なら、この国1つ落とすことくらい造作もないことは、ご存じでしょう?
あんたには、絶対にここで死んでもらう」
謁見の間に残ったのは、僕と王だけ。
生きていた人間は、みんな逃げ出した。
増援が来るんだろうが、僕には、関係の無いことだ。
――また、全員殺せばいい。
「待て、何が欲しい?
なんでもする!」
「この期に及んでまだ、命乞いか?」
僕に向かって、頭を下げる王の足を魔法で作った槍が貫いた。
「ぐぁああああ!」
血を流して意識を失ったら、困るので止血をすぐにすました。
「はぁ……はぁ……許してくれ……これからは、あぁぁぁぁ!!!!」
手の指、全てを貫いた、指先だけが無くなった。
戦場で人を殺してきた僕には、分かる。
この程度で人は、死なない。
「父上!」
後ろから、声がした。
「マリーか」
振り向いたそこには、彼女の姿があった。
「レイトさん、なんですかこれは?
父上をどうするつもりですか!?」
「殺す。
邪魔をするなら、お前も殺す」
「なんで……どうして!?」
本気でそう思っているのか?
この娘は……
「お前は、僕を籠絡する役目を持っていたのだろ?
見せかけで乗ってやっただけだ」
「そんな……私だけだったんですか……?
心が通じ合ったと思っていたのは……?」
「お前に僕の何が分かる!!」
勝手に僕を呼んで、全ての責任を押し付けて、心を奪ったお前たちに!
「僕を止めたいのなら、僕を殺せ」
「マリー!
この男は、正気では、無い!
逃げ「黙れ」っ!」
王の首が飛んだ。
最後は、呆気なかったものだ。
「そんな……父上……」
絶望の表情を浮かべる彼女の顔は、今の僕にとって最高の喜びだった。
狂ってる、自分でもそう分かる。
そんな僕が、こんな平和な世で生きていけるはずもない。
「僕が憎いか?」
「はぁ……はぁ……うわぁぁぁぁあ!!」
いい目だ、憎しみと絶望は渦巻くその目。
彼女は、その目をしたまま、落ちていた剣を拾い僕に突っ込んできた。
しかし、
「どうした?
その剣で僕を殺せば、君は、英雄だ」
「分からない……なんで……」
「君たちが過ちを犯したからだ。
もう2度と僕や魔王のような人は、生みださない」
「じゃあ……私たちは……どうすればいいんですか?
他人に頼るしか、無かったんです……」
「それが間違いなんだ。
もう、魔王は居ない、そして、勇者のいない世界で自分たちの足で歩くといい」
絶望に泣き崩れる、彼女を置いて僕は、謁見の間を去った。
僕を呼ぶように促したのは、王だ。
でも、それを実行したのは、彼女。
自分だけ生き延びたという絶望の中、彼女には、生きてもらおう。
残りの兵、腐りきった貴族を根絶やしにした後、僕は人知れず姿を消した。
王国を陥落させた僕は、魔王軍が本拠地としていた、森に姿を隠した。
ここなら、高濃度の魔力汚染で相当な魔力を持つ者以外は、近づけない。
それに魔王が不在の今、この森の生態系が整うまでは、見届けよう。
同じ異界人が、作った森だ、異界人の僕が後を継ごう。