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アリア奮闘記  作者: 羽月
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殿下奮闘記8

彼女に許可を出すと決めた夜。私は眠れないでいた。


「・・・・少し風にあたるか・・・・」


ベットで横になっていた体を起こし窓を開け放つ。

今日は星が良く見える。星を眺めているとふと、あのブローチの事を思い出した。


「・・・・妃になる相手に贈るブローチか・・・・。ふ、バカバカしい。なぜそんなものが王家に伝わっているのやら・・・・」


母に良く聞かされた昔話を思いだした。

昔の王子が惚れ抜いた相手に贈り、その王子がこの国を繁栄させたことに肖っているのやらなんやら・・・。


「昔の奴はよくそんな恥ずかしい真似が出来たものだ。だけど・・・・・」


もし、これを贈るとしたら俺は誰を選ぶ?本当に誰でもいいのか?

ふと、そんな疑問が浮かび上がったが、その疑問に答えてくれるものはここには誰もいなかった。







***************************




窓の外が明るくなり始め、また一日が始まるのだと感じる。

昨日は眠れぬまま、朝を迎え一通り執務を終えると、アリアーデ姫との謁見の時間が迫っていた。


「・・・そろそろ行かねばならんな」


重い腰をあげ部屋をでようとした時、昨日出したままのブローチが目にとまった。

そして、俺はなぜかそれを持って部屋を後にし、謁見の間へと向かった。

しばらくすると、アリアーデ姫が訪れた事が伝えられたので入室を許可した。


「顔を上げて下さい。・・・・他の者は下がってよろしい」


王子使用の言葉で他の者を下がらせると、初めてアリアーデ姫に視線を合わせた。


「この度は貴方を危険な目にあわせて済まなかった」


何をしゃべろうかとは考えていなかったが、無意識のうちにそう口から零れていた。


「いいえ。気になさらないでください。・・・あなたこそ、妹の様に可愛がっておられたリーナ様がお辛い目に会ったことで同じように傷つかれた事でしょう。私が至らないばかりにリーナ様にもお辛い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」


彼女の言葉に、やはりこの様な辛い思いをした国にはいたくないのだろうかと思うと、忘れていた胸の痛みが再び蘇ってくる。


「・・・・今回の事で辛い思いをしたのは貴方だろう。・・・・この国にいる事は辛いか・・・」


思っている事が先程から無意識のうちに口を衝いて出てきてしまう。

いけない。止めなくてはと思うのに、彼女の言葉に理性が働かない。


「いいえ!!そんな事はありません。この国・・・、殿下は私を信じ良くして下さいました。私につけて下さった侍女のフィーナも騎士のルイガ様も!」


「ならばなぜ!!」


なぜ、国に帰りたいなどと言う!!妃候補を辞退した事を取り消したいと言わない!!

その飲み込んだ言葉に自分自身驚いた。

まさか、私はこの姫に惹かれているのだろうか。

その想いはなぜか胸にストンと落ちてとどまった。

そうか・・・・。私は、アリアーデ姫の事を・・・・・。

自覚した途端に、彼女は私の前から消えてしまう。その現実に思わず笑いがこみ上げる。

今まで散々振りまわしておいて今さらだ。

己の愚かさをなじりながら、私を見ているアリアーデ姫に視線を向けた。


「・・・いや、なんでもない」


今更、そんな事に気づいても遅すぎた。彼女の視線に私は惹かれるように立ちあがると彼女の傍に近づいた。


「・・・アリアーデ姫。いや、アリア姫と呼んでも?」


他の者が呼ぶたびに、その事で胸を痛めていた。今ならその理由もわかる。

可愛らしくコクンと頷く彼女の手を取り私は想いをこめてそれを渡した。


「アリア姫・・・・。最後の手土産だ。これを受け取ってくれるか?」


「・・・・!!殿下!!」


それを見たアリア姫の目が驚きに見開かれる。


「・・・それは貴方に差し上げたものだ。深い意味に取らなくていい」


そんなのは嘘だ。もし叶うのならば貴方と一緒になりたかった。だが、これ以上あなたを苦しめることなど俺には出来ない。せめて、もし次生まれ変わるならば、一緒になれる事を願って。そして、これからも貴方を心の中で思う俺を許して欲しい。

そう思い、突き返される前にアリア姫の傍を離れる。

背に向けて聞こえるアリア姫の言葉に俺は懇願するようにつぶやいた。


「持っていてくれないか?・・・・他の誰かに差し上げることもない。以前も言ったが貴方に持っていてもらった方がそれも意味をなすだろう」


俺の変わりに、それを傍に置いてくれれば・・・。


彼女は少し戸惑った後、にっこりと笑って私を見て言った。


「殿下。ありがとうございます。大事にさせて頂きますわ。・・・・・色々ありましたがお世話になりました。この国の繁栄を心よりお祈り申し上げます」


彼女の言葉にこれが最後なのだと実感させられる。

その事に俺は何も言う事ができず、部屋を後にするアリア姫を見つめ続けた。


「・・・・・叶うならば、貴方を妃にしたかった・・・・」


誰もいなくなった部屋でポツリ、本音をこぼしてみたが、それは叶えられる事の無い願いだと思い知らされるばかりだった。



すべてが遅すぎた。

自分の思いに気づくことも。

それを伝えるための時間も。


謁見室を出ると私は、その想いを封印するためまた王子の仮面を被った-----。












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