殿下奮闘記4
「・・・では、頼んだぞ」
「・・・そんな事言われなくてもわかってますよ」
生意気な口をきく目の前の男はやっと捕まったアリアーデ姫の騎士だった。
「・・・わかっているのならいいんだが、今までの様子を見るとアリアーデ姫の傍には全然いないようだが?」
自分の主の危険をほっておいて何が護衛騎士だ。
まったく、アリアーデ姫といい、護衛騎士と言い、どうしてこうも自由奔放に動き回れるのか理解に苦しむ。
思わず頭を抱えそうになるのをぐっとこらえ目の前にいる男を見やった。
「傍にいれば守れると言う訳ではありませんからね。・・・元をつぶさなければ何の解決にもならない」
最後にぽつりといった騎士の答えに思わず眉をよせる。
「・・・何かわかったとでも?」
「いいえ・・・。なかなか尻尾を出さないから苦労をしています。それでもきな臭い噂のある奴ら数名を一人で調べるのはなかなかしんどい所ですね」
奴の含んだ言い方に今度こそ顔に出ただろう感情は仕方がないだろうと思う。
「・・・・それで、我が国の騎士を出せと?」
怒気の含んだ声色で奴に浴びせかければ、なんて事のないように肩をすくめる。
「これはそちらの国の問題です。私は別にこのままアリア姫に危害を加えなければ問題ありません。ただ、彼女を苦しめる奴は私なりに償ってもらうつもりではいますがね」
クレインの言葉に再び溜息が零れた。
「はぁ・・・。・・・我が国からも騎士を出す。その指南役としてクレイン、力を貸してくれ。くれぐれもアリアーデ姫に気づかれる事のないように頼む」
彼に頭を下げる気はまったくないが、今現在、この件で彼以上に詳しい人物はいないだろう事を判断して彼に協力を仰ぐ事にした。
クレインは、一つ頷くとすぐにこの部屋を後にして再びこの件について調べに戻った。
「本当に・・・。国柄なのか?」
無謀というか、本能のままというか・・・。
思わず零れる本音に肩を落とす。
だが、人数を増やしただけで彼は色々な情報を運んで来てくれるようになった。
奴に我が国の事情を色々と知られることに関してはやはり頭を抱えてしまうが、彼はそれには特に興味がないようだ。本人も言っていたが、アリアーデ姫に関わる事以外はまったくもって無関心だった。
「・・・まさか、このようなことが・・・・・」
騎士をつけてたった数日で色々と聴きたくもなかった話を聞く羽目になるとは思いもよらなかった。
「一体、どうなっているんですかね。この国は。いくら大国で目が行き届かないからとは言え、こんな身近いる人物に好き勝手されて気づかないとは呆れてしまいますね」
目の前にいる他国の騎士は私に大して遠慮なくそう言い放つ。
だが、腹が立っても言い返せる言葉が見つからない。
「・・・・目を光らせていたはずだったのだがな・・・・」
あれだけ誰も信用せず、私自身でやってきたつもりが逆にアダになったのかもしれない。
他の者がやっていることまで目が行き届かなかった。
再び、人間不信になりそうなこの案件に思わず頭を抱えてしまう。
「どちらにしても、黒幕は宰相ということでしょう。宰相の息のかかった娘があなたの妃になれば、さらなる力を手に入れることが出来ますからね。それに・・・・いや、これ以上うちの姫にまだ何かするようだとこちらとしては黙っていませんがよろしいですね?」
キラリと光るクレインの目は真剣だった。
だが・・・・。
「それは許可できない。宰相にはきっちりと私が罰を下す。ここまで協力してもらっていて申し訳ないが、これ以上はこちらに任せてもらおう」
他国のモノに代わって制裁を加えられてはそれこそ国を揺るがす事になりかねない。
クレインもそのことは十分分かっているのだろう。
私の目をじっとみつめると、深い溜息をついた。
「・・・・・わかりました。これ以上は首を突っ込むことはやめましょう。・・・・しかし、私の納得できない裁きでしたら、私は何をするかわかりませんよ」
「わかっておる。しっかりと奴には償ってもらわねばな・・・・」
「そうですか。それを聞いて安心いたしました。あ、それはそうと、今日はアリア姫がお茶会をなさるそうですよ?」
唐突にそう言い出すクレインに私は目を細めた。
「なんだ・・・急に」
「なんでも、そのお茶会の相手は宰相とつるんでいた姫君だとか?」
「!!?」
「あぁ・・・。そろそろ、始まる時間ですね。私もアリア様に呼ばれているので行かねばなりません。それでは、これで失礼します」
そう言って、クレインは部屋を後にしようとしたので慌てて、呼び止めた。
「ま、まて!!どういうことだ!?」
既に扉近くまで歩いていたクレインは振り返るとにやりと笑ってこちらを見た。
「どういうことも何も、そういう事です」
「宰相とつるんでいたということはミーナか!?」
先程の話にその人物の名前が出てこなかった事に気づいた。
しかし、宰相の身内であるミーナがそうだろうと勝手に思っていたが、クレインの言葉には何か引っかかりを覚えた。
「・・・ご一緒に行かれればわかります」
その言葉を発したクレインの表情にはもう笑みはなかった。
私は、うなづくとすぐに部屋を後にした。
あれほど、大人しくしていて欲しいとお願いしたはずのアリアーデ姫がまた勝手に動いていることにも腹がたった。しかし、それ以上にそんな危ない事をしているアリアーデ姫が心配で仕方なかった。