殿下奮闘記 1
とんでもない女が来たものだと思った。
「殿下、なぜあのような女を候補にしたのですか!?」
うるさい・・・・。
「・・・なぜも何もあのパーティーは妃候補を選ぶ為のものだったんだろう?ならば候補を上げて何が悪い」
そう言うと宰相は言葉に詰まり顔を赤らめた。
「そもそも、あんなパーティもお前たちが勝手にやった事だ。お前たちの思惑通り妃候補を決めた。なのに文句があるのか?」
ジロリと睨むと宰相は後ずさりをしていたが、すぐに持ち直したのか、キッと顔を上げバカげたことを口にした。
「し、しかし!候補が一人と言う訳にはいきません!そんな事すればその方が妃になると言っているも同じではありませんか!ですから、こちらで何人か候補をご用意させていただきます。宜しいですね?」
結婚などする気がないと言っているのにそんな事ばかり・・・。
まぁ、確かに一人だとそのまま結婚などというめんどくさい事にもなりかねない。
ここは宰相に勝手にさせておくか。
「・・・好きにすればいい」
それを聞くや否や宰相は礼も言わず私の部屋を後にした。
「どいつもこいつもどうでもいい事ばかり。もっとやる事があるだろうに」
無能な重臣たちに思わずため息がこぼれる。
「まぁまぁ、国の為には仕方ないだろう?」
先程、宰相が慌てて出て行った扉から声が聞こえた。
その声の持ち主に目をやると面白そうに扉にもたれかかっていた。
「・・・ルイガ。仕事はどうした」
にやにやしながら笑っているルイガにまたもや溜息がこぼれる。
「そう言うなって。殿下が妃を決めたって言うから、堅物のお前を落とす女はどんな女なのか聞きに来ただけさ」
扉から背を離すとずかずかと部屋に入ってくる。
ルイガは幼いころより剣や武道の練習を共にした仲だ。
いわゆる幼馴染の様なものだった為か、人前ではしっかり猫を被っているが2人になるとそんなものはどこへやら、仮にもこの国の次期国王に対しての態度ではない。
「・・・妃ではない。あくまで候補なだけだ」
知っているだろうにわざとそんな事を言ってくるあたりかなり性格は悪い。
「それでもだよ。お前が選んだ候補ってどんな女なんだ?」
そう言って傍にあるソファーに身を沈めた。
こうなったら、聞きだすまでこの部屋から出て行く事はないのだろう。
本日一番の溜息をつくと、ルイガの前のソファーに腰をおろしパーティーで会い、その後の事を話した。
だけど、俺はすぐにその女を候補にした事を後悔する羽目になった。
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「・・・・なんなんだ!!あの男は!」
親しげに肩に手を置き身を寄せ合っていた。
いくら怪我をしているからとはいえ、あんなにくっつく必要がどこにある?
そもそも、あの男は挨拶に来た時から気に入らない。
私が何をわかっていないと言うのだ!?
アリアーデ姫もアリアーデ姫だ。私の妃候補の身でありながら、他の男に簡単に触れる事を許すなど何を考えているのだか!!
2人の態度にあまりも腹が立ってしょうがなかった。
「殿下~。今日は姫達と食事の予定だっただろ?俺さ、その間ちょっと城下におりてく・・・・・る・・・・・」
部屋へ入りながら要件をいうルイガが固まった。
「・・・なに?どうしたんだ?そんな怖い顔して」
怖い顔?
別にそんな顔をしているつもりはない。
「何もない」
「嘘だね。何もないならそんな顔はしない。殿下、鏡みたか?」
にやにやと笑う俺の前にルイガは手鏡を差し出した。
「!!!!」
ルイガの言うとおり、普段の私では考えられない形相だ・・・・。
「で?何があったの?」
「別に何もない。・・・・ただ、アリアーデ姫の騎士が気にくわないだけだ」
「アリアーデ姫の騎士?そんなの連れてたっけ?」
「先日、この国に入ったばかりだ。とにかく、気に入らない」
ルイガはふーん。と言いながら何かを考えているようだった。
「ま、それはどうでもいいけど、そろそろ時間じゃないの?ってことで、俺は城下に言ってくるから!」
そういうとルイガはさっさと部屋を後にした。
あんな事があった後に顔を合わせるのはいささか気まずい。
何も、あんなひどい事を言わなくても良かった。
ベットに座っていたアリアーデ姫は確かに顔色も良くなかった。
「・・・・べつに夕食くらい欠席させても良かった」
ぽつりとつぶやいてみても後の祭り。
すでに出席しろと言ってしまった。
それならば、なるべく無理をさせないよう見ておこう。
そう思っていたのに・・・・・
夕食時、そこへ入った時に私は思わず息をのんだ。
着飾ったアリアーデ姫の姿を見たのは初めてだった。
いや、本来ならば最初のパーティを含め2度目だろう。
しかし、候補を選ぶときのパーティーではもっと落ち着いた格好をしていた。
普段もそんなきらびやかなドレスではなく、もっと動きやすい・・・、化粧も自然な感じの・・・・。
思わず息を飲むほどの美しさに一瞬我を忘れた。
宰相が長々と挨拶を始めても私はアリアーデ姫を見ていた。
・・・いつもとまったく雰囲気がちがうな。こうしてみれば大人の女の様な色気もある。
妃はいらないと言えども、私も男だ。
殿下としての時は女遊びはしないが、レオンとして城下に下りるときにはそれなりに女遊びもしていた。そんなことに思いを馳せていたら、リーナが立ちあがり候補を辞退すると騒ぎだしたことで、私は我にかえりその場を何とかおさめた。
「・・・ふぅ、疲れた」
会食が終わり部屋に戻ったら疲れがどっと出てきた。
「・・・あんな事言うつもりではなかったんだがな・・・・」
あの場で、アリアーデ姫を妃にすると宣言してしまった。
もっと時期を見てそういうつもりだったのに。
だが、口が勝手に動いていた。
他の誰でもない。あの女を妃にすると・・・・。
まぁ、予定が狂ったとはいえ、妃候補を全員にあきらめさせるには逆に良かったかもしれない。
私の心には決まった女がいると言うことを知ればあきらめる姫もでてくるかもしれないしな。
なんて、考えていたのが甘かった。
今度は、アリアーデ姫の間者がいると言う。
「・・・あの女、この俺を謀ろうとしてたのか!?」
机の上に広げたその間者への手紙を見たときに思わず叫んでしまった。
これを見つけたのは、リーナだった。
青白い顔をして部屋に入ってきたかとおもえば、何かを言いたくても言いだしにくい感じだったので、無理やり聞き出した。
もちろん、俺は即刻アリアーデ姫を追い出そうとした。
だが、何かが心に引っかかった。
「・・・まずはこの間者が本当に居るのかどうかを確かめるのが先か」
早速、アリアーデ姫と内密にあっている者がいないかを俺のもっとも信頼のおける影にそれを頼んだ。
しかし、その影が報告を持ってくる前に2通目の手紙が見つかった。
今度は、ミーナ姫がそれを持ってくる。
「・・・・あの影を差し置いて良くこんなものを・・・・よほど、頭がいい間者がいるのか?」
この時すでに、俺はアリアーデ姫と距離を置いていた。
今までにない嫌悪感の為と言ってもいい。それに、あいつを自由に泳がせておけば尻尾を出すかもしれないと思った。
そんな矢先、3通目の手紙をもってきたのはナーシャだった。
「・・・・・おかしい・・・・・」
俺の影に気付かれずに手紙を隠すなど、ほぼ不可能だと言ってもいい。
場所は決まって図書室で行われているのだ。そのことが分かってからというもの四六時中影がそこを見張っているのだ。
「殿下・・・。少しは考えろよ。お前の妃にするって公表したんだろう?それならば、候補を落とそうと彼女をはめようとしている奴がいるんじゃないのか?」
ルイガは呆れたようにそう言う。
私は、嫌悪感によってそんな事を考えもしなかった。
いや、嫌悪感ではない。裏切られた。そんな思いがずっと心の中にあったんだ。
ルイガの助言?により、私のその思いは払拭され、アリアーデ姫にもそれをつたえた。
最初から彼女を疑ってなかったように・・・・。
なぜだろう。私が彼女を疑っていた事を知られたくなかった。
そして、私は彼女の味方だと思ってほしかった。




