番外編 ブローチの謎 前編
私は気になっていた事があった。
「ねぇ、レオン。昔から聞きたかった事があるの」
今はこの腕の中にいる事が当たり前の様になっている。
だけど、ここに来るまでには色々な事があったなぁ・・・。
「ん?聞きたい事とはなんだ?」
今ではすっかり王子の仮面はどこへやら。
私の前でも、他の人の前でも最近は素のままのレオンが傍にいる。
「あのね?婚約パーティの時に言ってたでしょう?このブローチを見たときに昔の話の様だって。その昔の話って何なの?」
首をかしげる私にレオンは優しく笑って頬にキスを落とした。
「その事か。この話は小さいころにこの国の者なら誰でも聞かされる伝説の様な話なんだ」
そういうとレオンはゆっくりと私に聞かせるように話し始めた。
昔・・・・・・。
そう、それはこの国が出来たばかりの頃、2代目国王の話。
「アル殿下!!どこへ行かれたのですか!!」
城中に響き渡る側近の声に俺は苦い顔をする。
「ちっ!あいつにバレたか」
言葉とは裏腹になんて事無い顔をしていつも通り執務室に戻った。
「殿下!!」
部屋に入るなり、側近は俺に詰め寄る。
「うるさいぞ!そんな大きな声を出さなくても聞こえている」
「殿下、また城下へ行かれたのですね!もう、諦めて下さい」
真面目な顔をして俺の側近はそう言った。
「・・・諦められるものか。私の妃となる女はイルマだけだ!」
思わず側近に負けないくらいの声を上げてしまう。
「そのイルマ様に振られたのでしょう?でしたら、いつまでも追いかけるのはみっともないですよ」
飄々と言ってのける側近に腹は立つがここで言い返してしまうと話が先に進まない。
「・・・それで、私を呼んでいた用事はなんだ。早く言え」
苦い顔をしながらも、その側近にさっさと出て行ってもらいたいが為、話を進める。
「そうでした。アル殿下。貴方の妃が決まりました。1週間後に婚約を発表致します」
その言葉に思わず言葉を失う。
「・・・な、なんだと!!俺にはイルマがいると言っているだろう!!」
我に返った俺は側近の胸倉をつかみ上げてそう言った。
「・・・殿下。これは陛下がお決めになられた事です。文句があるなら陛下へ云って下さい」
そう言われた俺は、側近を離すと同時に執務室から駈け出していた。
「・・・・まったく、陛下も人が悪い・・・」
側近がそんな事をつぶやいていたなど俺の耳に入るはずもなく・・・・・。
目の前に見えた重厚な扉をノックもせずに開けると、奥にはどんと白ひげを生やした親父がそこに座っていた。
「・・・・アル。お前は人の部屋に入る礼儀も知らないのか」
呆れたように溜息を吐きながら、俺を見る親父に俺は目の前まで行き、机を思い切り叩いた。
「どういう事だよ!!俺には妃にしたい人がいると言っただろう!!」
親父は黙ったまま俺を見上げまた一つ溜息をついた。
「・・・・はぁ。お前はその人に振られたと聞いたが?」
思わず舌打ちをしたくなった。
「誰に聞いたんだ・・・・」
聞くだけ無駄だ。
誰がしゃべったかなど明らかだ。
「振られてもなお追いかけるなどみっともない。その女性を振り向かせるだけの度量がお前にはなかったのだろう。諦めて私が決めた女性と結婚しろ」
その言葉に返す言葉もない俺はとにかく結婚などしないとだけ言い返すとその部屋を後にした。
「くそっ!!・・・早く、早くどうにかしないと・・・・」
残された時間はあと1週間。
親父が決めた事は絶対だ。
それまでに、アイツを取り戻さなければ。
焦る俺はすぐに城下へと向かった。
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「だから、何度ここに来たって姉きはお前とは会わないって言っているんだ!いい加減にしろ!しつこいぞ!!」
「頼む!イルマに会わせてくれ!!会って話がしたいんだ!!俺には時間がない!!」
現在、イルマの家の前でイルマの弟と言い争い中。
また、この弟が俺の正体を知っても全く動じない厄介な存在だった。
イルマ・・・。
俺がたまたま城下に下りた時に変な男たちに絡まれてたところを助けてやった娘。
ただの町娘だと思っていたのに、なぜか彼女に惹かれた。
いや、色々惹かれる要素はあったんだと思う。
今では、俺の妻となる存在はイルマしか考えられなかった。
「・・・王子様よぉ。あんた自分の立場わかってんの?あんたがここに来れば姉きはどんどんあんたと会わなくなる。身分が違うんだ。これ以上、姉きを苦しませないでやってくれよ」
静かにそういう弟に俺は何も言い返せない。
身分が違う・・・。
そう、最初俺は身分を偽ってイルマと付き合っていた。
だけど、イルマなら正体を明かしても変わらず付き合ってくれると思ってたんだ。
その考えは甘かった。
正体を明かした途端、イルマは恐縮しまくって俺から離れて行った。
なぜ・・・・。身分がなんだって言うんだ!
俺は俺なのに・・・。
「・・・わかった。また、出直す。たぶん次に来るのが最後になると思う。だから、最後に一度だけ会ってくれとイルマに伝えてくれ」
そういうと俺はイルマの家を後にした。
『最後』
次に説得できなければ、きっとそうなるだろう。
その最後に俺はイルマにどうやって気持ちを伝えよう。
とぼとぼと町を歩いていると、きらりと何かが俺の目を眩ませた。
「お兄さん、そんな暗い顔してないでかわいい彼女にでもプレゼントしてやらないかい?」
元気のいい声が一番突いてほしくない言葉を俺に投げかけてきた。
「そんなっ・・・!!」
文句を言ってやろうと思って声の方を振り向くとそこに並んでいたのはこの土地ならではのガラス細工の数々だった。
「綺麗だろう?職人がひとつひとつ丹精込めて作り上げてんだ」
店の親父に言われるように俺はそこにあった一つのガラス細工を手にした。
「・・・・綺麗だな・・・・」
素直な感想だった。
「そうだろう?これらにはそれぞれに気持ちが込められてるんだ。着けるその人達が輝けるように。幸せになれるようにってな」
「・・・輝けるように・・・。幸せになれるように・・・・」
親父の言葉を繰り返す様にそれを見ながらポツリと言葉がこぼれ落ちる。
そして、俺は気づいた。
「親父!!これを俺にも作らせてくれ!!」
俺は、イルマの幸せを願っていただろうか?
妃になれる事はきっと幸せだろうと勝手に押し付けてなかったか?
最後になるんだ。
もし、2度と会えない事になるのならば、これから先イルマが幸せになれるように、そしてその輝きを失わないように俺から出来る事をしてやろう。
俺は渋る店の親父に詰め寄り説得し納得させた。
城に戻ると、早速執務室に入り、たまった書類を速攻で終わらせる。
1週間・・・。
いや、4日で完成させなければいけない。
その間、執務が滞らない様に今日中に全ての仕事を終わらせた。
そして、口うるさい側近を呼ぶとその旨を告げ俺は4日間王子業を休み、それを完成させる為、毎日のようにガラス工房に通った。
それを作るのにとにかく苦労した。
今までに見たこともない道具でそれを作る。
最初など、全く形にならず何度失敗した事か。
こんど形になると、熱が冷めないうちに素早くある程度の細工を施す。
それがどんなに難しかったか。
だけど、彼女の幸せを願いそれを着けている彼女を想像し俺は諦めず作業に取り掛かった。
「・・・・出来た・・・・」
まるまる4日間それに没頭した俺。
なんとか完成したそれは、売り物に比べると・・・・、いや、比べるのも失礼なぐらい不格好なブローチだった。
「・・・・こんなの貰っても喜ばないだろうな」
自嘲気味に笑っていると、4日間ずっと傍について教えてくれていた親父が声をかけてきた。
「バカか。お前の気持ちが込もってるんだ。それを喜ばない奴がいるわけないだろう?」
こんな不格好なブローチでも、イルマは喜んでくれるだろうか。
親父の言葉に頷きながらも不安でいっぱいだった。
「親父。迷惑掛けて済まなかった。ありがとう」
ここまでしてくれた親父に心から感謝した。
「おう、彼女に気持ちが届くといいな。頑張れよ!」
世話になる親父には全てを話していた。
それでも、親父の態度は変わることなく、びしばしと俺に指導してくれた。
俺は親父に挨拶すると、不格好なブローチを丁寧にラッピングしそれをもってすぐにイルマの元へと向かった。
これは、いつか必ず書いておかなければ!と思っていた作品です。
いや、ぶっちゃけ、別連載で現在進行中ですが、なかなか進んでいません。
なので、先に結果を書く様な話になったのですが、別連載の方はアル殿下が恋をして付き合う所も書いていますので、お時間があるようでしたらのぞいてみて下さいね。
今回は、1話でまとまらなかったので、前編・後篇と分けています。
後編もどうぞお楽しみ下さい。