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「失礼します」
謁見の間に到着するとお父様がそこにいた。
「御呼びでしょうか?お父様」
「うむ。アリア、リアーシャの婚約式で疲れているだろうが少し急用でな」
「いいえ、それは構いませんが、急用とは?」
国で何かあったのだろうか?
「実は、今朝方フィルナリア国から書状が届いた」
その言葉を聞いた私は体が固まった。
「・・・フィルナリア国からですか・・・・」
「そうじゃ。お前も知っておるだろうが、あちらの王子の婚約が決まったそうだ」
婚約が・・・・。
胸が張り裂けそうなくらい心が痛くなった。
今まで出来るだけあちらの情報は入れないようにしてきた。
この事を聞きたくなかったから・・・。
「・・・アリア。そこで元候補者としてお前も呼ばれておる」
さらなる言葉に私はその場に膝をついてしまった。
「アリア!!大丈夫か?」
崩れ落ちた私に父は私の傍までやってきた。
今までの緊張の糸がぷつんと切れてしまった・・・。
「・・・申し訳ありません。お父様。大丈夫ですわ・・・」
にっこりと笑った。
・・・つもりだった。
「・・・お前は・・・・・」
父は私の顔色を見て何かを感づいたのか、大きく息を吐きだした。
「・・・辛い道を選んだんだね?・・・お前の心のままに動きなさい。私はそれを応援しよう」
父は今まで見た事のないくらい優しいまなざしで私の方を見ていた。
「・・・私の・・・・心の思うまま・・・ですか・・・・・」
思うまま・・・・。
私が今したい事は・・・・?
「お前が辛いのならば今回の件は断っても構わない」
断る・・・・・。
「お前はどうしたいんだ?」
私は・・・・・。
父に支えられながら私は考えた。
「私は・・・・・」
父は何も言わず私の言葉を待った。
「・・・・・・・私は、行きます」
その言葉に父はにっこりほほ笑むと「そうか」と一言だけ言うとマリアを呼んだ。
「アリア様!?どうされたのですか!?」
父に呼びだされたマリアは顔色を変えた私をみて飛びついてきた。
「こらこら。マリア。そのようにせっつくでない。少し疲れがたまっていたのだろう。アリアを部屋に返しゆっくり休ませてやりなさい」
父が窘めるとマリアは膝をつき父の言う事に従った。
父から私を受け取ったマリアに支えられ謁見の間を出ようとすると、背後から父の声が聞こえた。
「アリア。お前の思うとおりにやりなさい。国の事は考えなくていい。自分の幸せを考えなさい」
にっこり笑い手を振る父に頭を下げその場を後にした。
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「アリア様?大丈夫ですか?」
部屋に戻りソファに身を沈めるとマリアが温かな紅茶を持ってきながら心配そうにこちらを覗き込んだ。
「ありがとう、マリア。もう大丈夫よ」
マリアから紅茶を受け取るとそれを口に含んだ。
「・・アリア様。国王様の言っていた事は・・・・?」
最後に父が言った事が気になるのだろう。
「・・・・マリア。フィルナリア国へ行くわ。支度をして頂戴」
その言葉にマリアも驚いた。
「フィルナリア国ですか!!なぜです?あんなにお辛い目にあったのになぜまた行かなければならないのですか!?」
詰め寄るマリアを落ち着かせ先程父から聞いた話を話した。
「・・・婚約されるそうよ」
その言葉に思い当った様に目を瞬かせた。
「・・・婚約ですか。・・・・と言われると、ナーシャ様とと言う事ですか?」
「お相手は聞かなかったけれど、きっとそうでしょう」
それどころではなかった為、相手を聞くのを忘れていたが、順当にいってナーシャだと思ってはいる。
「ですが、なぜアリア様がフィルナリア国へ行かなければならないのですか!?」
「私も元候補者ですからね。やはり関わりのあるものとして呼ばれたのでしょう」
「そんな・・・・・」
「大丈夫よ。ただお祝いを申し上げるだけだもの。・・・・もう何かあるわけじゃないわ」
フィルナリア国であった事はマリアにとって衝撃的であまりいいイメージはないようだった。
「私も・・・・・決着をつけなければね」
ポツリとつぶやく言葉はマリアに聞こえていなかっただろう。
そう。私が行く決心をしたのはこの心に決着をつける為。
父は少し誤解しているようだったが、殿下とナーシャの2人のお姿を見てきっぱりと心に区切りをつける為に行く事を決めたのだ。
「マリア。準備を初めて頂戴。準備が出来次第出発しましょう」