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「アリア様!!早くしないと遅れてしまいますわ!!」
「わかってるわ!もう、マリアったら急がせないで頂戴!!」
今日は姉様の婚約式。
やっと2番目の姉リアーシャとブレットの婚約が整い正式な婚約者となる為に誓いの儀式が行われる。
いわばプチ結婚式だ。
・・・あれから1カ月。
フィルナリア国から戻るとやる事がたくさん待っていた。
もちろん、候補を外れたことで誰かが私を責める事などなかった。
皆、喜んでくれた。
私を除いて・・・・。
「はぁ・・・。リアーシャ様もやっとブレット様と堂々とお会いする事が出来ますね」
にっこり笑うマリアの顔は本当に嬉しそうだった。
「そうね・・。それにしても、貴方が知っていた事には驚きだわ!私だって知らなかったのに・・・」
「何をおっしゃいますか!こういう事はアリア様より私たち侍女の方が知っていますわ!」
得意げに胸を張るマリア。
それを見てくすくすと笑いあう今の時間はそれなりに幸せでそれなりに平和だった。
「それはそうと、急ぎましょう。式が始まってしまいます」
約束通りマリアに全て任せていたら時間がぎりぎりとなってしまった。
「気合いが入りすぎじゃない?主役は姉様なのに・・・」
ぶつぶつ文句を言っていると既に式が開始される合図の鐘がなった。
慌てて2人で自分たちの席についた。
「はぁ~・・・。素敵ですね、リアーシャ様」
うっとりと姉様を見上げるマリア。
だが、本当に姉様は綺麗だ。
「やっぱり好きな人と結婚できる事がいちばんの幸せですよね~」
胸の前で手を組んで視線は一体どこをみているのかわらかないマリアがぽつりと漏らした言葉に私の心に鈍い痛みがした。
「・・・そうね」
私の言葉は既に耳に入っていない様子だ。
「アリア様も早くお好きな殿方を見つけなければいけませんね!!」
くるりとこちらを振り向きながらにっこり笑うマリアに苦笑ともいえる笑顔で返した。
「・・・・・アリア様。こちらへ戻られてから元気がありませんね・・・・」
突然マリアがぴたりと止まりそう言った。
「そう?そんな事はないわ。ほら、こんなに元気じゃない!」
いきなり真面目な顔になるものだから思わず変なポーズまでつけてしまった。
「・・・・・・・はぁ。わかりました!では、久々に城下へ下りて見るのはいかがですか?」
上手くやり過ごしたかどうかは定かではないが、マリアはにっこり笑うとそう提案してきた。
「・・・そうね。戻ってからまだ一度も城下に下りてないものね・・・・」
マリアの提案に乗ったふりをしつつ、なんだかそんな気になれないでいた。
ふと、視線を上げると幸せそうにほほ笑む姉様達の姿が目に入った。
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姉様達の婚約式も無事に終わり、落ち着いた頃を見計らいマリアはこの前言っていたことを実行しようと、いつも城下へ下りる時に着ている服を持って部屋へ入ってきた。
「さぁ、アリア様!女官長にバレないうちに参りましょう!」
張り切って私に準備をさせるマリア。
以前は散々城下へ下りることを渋っていたのに、今はまったく反対の事をしていると思うと笑いがこぼれた。
しかし、そこに扉をたたく音が聞こえた。
「・・・誰でしょう?まさか!いち早く外へ出る事を嗅ぎつけた女官長様じゃ・・・・・」
そんなはずがあるわけもないのに、怯えながら扉の方へ向かうマリア。
「あら?」
扉の方からマリアの声が聞こえた。
そうかと思うとこちらへ戻ってきた。
「・・・アリア様。国王様がお呼びとの事です。謁見の間までおいで下さいと騎士様が参りましたが・・・」
「お父様が?・・・わかりました。すぐに参りますと伝えて頂戴」
マリアが返事をする為もう一度騎士のいる扉へと向かった。
しかし、姉様の婚約式が終わったばかりで呼び出しとは一体何だろう?
「マリア!手伝って!」
不思議に思いながらも、城下へ行く恰好をしていたので着替えるべくマリアを呼んだ。
「かしこまりました。・・・しかし、国王様はなんのご用事なのでしょうね?」
マリアも思い当たる節がないらしく、首をひねりながらドレスの紐を解き始めた。