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胸の苦しさは日々増すばかりだった。
その訳もわからず・・・・。
「もうかれこれ1週間がたちますよ・・・。まだ、使いの方は来られないのでしょうか・・・・」
マリアは既に待つ事に疲れたようだ。
「問題も解決したし、私たちが帰る事の何が問題なんでしょう?・・・・は!もしかして忘れられているとか!?」
ありえない事を本気で心配し始めたあたりマリアは既に限界の様だ。
「忘れられるなんて事はあるわけないでしょう?こうして食事も毎日運んでもらってる事だし」
「でも、アリア様!もう1週間ですよ!?何の知らせもないっていうのは失礼ではありませんか!!」
今度は急に怒り出した。
まったく気が短いのだから・・・・。
「落ち着きなさい。マリア。始めから言っているでしょう?これは私のわがままで願い出た事なんです。それなのに文句を言ってはだめよ」
私に窘められたせいかしゅんと肩を落とす。
その姿に溜息をつきながらも、私は使者が来てほしいのか、来てほしくないのか今でもわからないでいた。
そんな考えを払拭していると、扉からノックの音が聞こえマリアが飛び上がった。
「来ましたわ!きっと使者様ですよ!!」
さっきまでの落ち込んだ姿はどこへやら・・・。
脱兎のごとく扉まで駆け寄って行った。
「はいはい!おまちしておりましたわ!」
扉をあけるとそこにいたのは本当に殿下からの使いの者だった。
マリアは喜びの表情を、私はなぜか複雑な気持ちでその使者を部屋へ通した。
「アリアーデ姫様。殿下より手紙をお預かりして参りました」
使者の騎士が差し出す手紙をそっと受け取った。
そして、封を開け中の手紙に目を通す。
横では目をキラキラさせたマリアが立っていた。
「・・・・・わかりました。明日、参りますとお伝えください」
手紙を持ってきた使者にそういうと使者を扉の前まで見送った。
「アリア様!なんて書かれてたのですか!!」
扉が締まるや否や待ってましたとばかりにマリアが近づいてきた。
「ええ・・・。明日、殿下に謁見したのち国に戻っても良いとの事よ・・・」
「きゃぁ!!やっと我が国に戻れるのですね!!嬉しい!!そうときまりましたら早速準備を致しますわ!!」
まるで羽根でも生えたかのような軽い足取りでマリアは部屋を後にした。
「・・・はぁ・・・。本当にこれで良かったの・・・よね?」
残された私は、マリアの様に手放しで喜べないでいた。
国に戻れるのは嬉しい。
お父様やお母様。お姉様にも会えるんだもの。
そして町で待ってる皆もいるだろう。
・・・・・・でも・・・・・・・。
私は何の役目も負えずここを出て行ってしまってもいいのだろうか。
殿下との約束は?
いいや・・・・。殿下にはちゃんとナーシャ様がいる・・・。
「・・・いた・・・・・」
また、胸が苦しくなった。
あれから、たまにこうなる。
やはり何かやり残したことがあるのではないだろうか?
なんだかそんな気がしてならない。
「でも・・・・。私がやり残したことって何?」
考えても考えてもその答えは見つからず。
結局、いつの間にか朝を迎えていたのだ。
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「アリア様!準備は整いましたわ!」
昨日のあれからマリアはせっせと準備に勤しんでいたものだから、朝起きて見るとすっかり帰る準備は万端だった。
「御苦労さま。・・・・では、私は殿下の所へ行ってくるからマリアはクレインを探してきて頂戴」
「はい!かしこまりました!!」
いつもなら文句の一つも出ようものが今日は浮かれているせいか素直にクレインを探しに行ってくれた。
「・・・さぁ、私も殿下の所へ行かなくては・・・」
・・・・ツキン・・・・
まただ。
また胸が苦しい。
でも、これも今日までだろう。
きっとここを離れればなくなる。
空気を思い切り吸い込みそれを吐きだすと私はしっかりと前を見つめて殿下のいる謁見室へと向かった。
「失礼します。シュテルン国アリアーデでございます」
殿下のいる謁見室を訪ねる。
「・・・・どうぞ」
以前の様に中から聞きなれた声が聞こえた。
扉をあけるとそこには殿下がいた。
「・・・・・殿下。この度は帰国のお許しを頂き誠にありがとうございます」
膝をおり礼の姿勢を取る。
「顔を上げて下さい。・・・・他の者は下がってよろしい」
王子の殿下だ。その笑顔がウソ臭かった。
しかし、皆を下がらせるといつもの調子で話しかけてきた。
「こっちへ」
傍へ寄る様に促されるとそれに従い殿下の近くに寄った。