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「アリア様!やっと国に戻れますね!」
横でマリアが嬉しそうに話す。
「・・・そうね」
窓の外を眺めながらそっけない返事をマリアに返した。
あれから、殿下はまだ何も言ってこない。
新しい政治になって忙しいのだろうか?
「アリア様?」
マリアが不思議そうに私の顔をのぞいてきた。
「・・・・そんなさみしそうな顔をされなくても・・・・」
マリアが悲しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「・・・・・さみしい?」
ぽつりとつぶやいた自分の言葉に不思議な気持ちがした。
これまで、国に帰りたくてここまで頑張ってきたのではないのだろうか?
それなのに寂しいとはどういうことだ?
私は・・・・・・この国に残りたいと・・・・・?
色々な考えが巡るなか更にマリアが言葉をつづけた。
「でも、仕方ありませんよね?せっかく仲良くされていらっしゃったのですから・・・・」
・・・・仲良くしていたことになるのかしら?
でも、信頼はしているわ。
だって・・・・私の事を信用してくださったんだもの・・・・。
「そうね・・・・。やはり寂しいのかしらね・・・・」
答える私にマリアも首を縦に振る。
「ええ・・。離れるのがお辛いのですか?」
・・・・離れることが?
辛くないと言えば嘘になるかもしれない・・・・・。
「やはり、少し辛いのかしらね・・・」
なんだかんだと殿下が信用して下さったから私も殿下を信用することが出来た。
「そうですよね・・・。あんなことをされてもやはりアリア様には大事な方なのですものね」
・・・大事な・・・・・。
殿下の事を?
「リーナ様がいなくなられて寂しいのはわかりますわ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「リーナ様?」
「はい!そうですわ。やはり今日リーナ様は国に戻られるようですし、アリア様も寂しいんですよね?しかし、これはしょうがないことですわ。悪気がなかったとはいえ、アリア様をはめようとなさるなんて、私は信じられません!!」
そう言えばそうだった。
リーナは今回の事で妃候補は外され国に戻ることとなった。
しかし、それが今日だったとはうっかり忘れていた。
「・・・アリア様?リーナ様の事で寂しそうな顔をされていたのではないのですか?」
不審な顔をして、覗き込むマリア。
「え?・・・・えぇ!そうよ!せっかくお友達になれたのに、しょうがないけれどもこんな早く離れなければいけないのは寂しくて・・・・」
リーナがいなくなる事は本当に寂しい・・。
でも、私が今考えてたのは??
私の戸惑いにマリアは首をかしげていた。
「・・・・しかし、リーナ様はあまりお咎めがないようで良かったですわね。本当でしたら、宰相と同じように境地へ飛ばされてもおかしくありませんのに・・・・」
「そうね・・・。だけど、主犯は宰相様だったんだもの。リーナ様ばかりを責めるわけにもいかなかったのでしょう。リーナ様だって被害者だわ」
マリアはあまり納得できていなかったみたいだが、それ以上は何も言わなかった。
「リーナ様にお会いできないのは残念だわ・・・」
今回のリーナの帰国に見送りをする事は許されなかった。
宮殿内での問題を公にするわけにもいかず、仰々しい見送りは禁止されたのだ。
当然と言えば当然かもしれないが、私にとってはやはり大事な友達だ。
最後に一目顔を見たかった。
次お会いできるのはいつか分からないのだから・・・・・。
「しかし、これで妃候補は残りのお2人となりましたね・・・。どちらを選ばれても殿下は大変そうですね・・・・」
本気で憐れむような顔をするマリア。
残った2人は確かに大変そうだ。
しかも、宰相様の事があったからミーナはすでに立場は弱い。
つまるところ残ったナーシャ様が妃候補の大本命と言う訳だ。
「・・・ナーシャ様は素敵な女性でしょう・・・。きっと、殿下のお力になってくださるわよ・・・」
本当にそう思っているのか・・・。
自分自身に問いかけてしまう。しかし、きっとこのままいけばナーシャ様が殿下の妃になるだろう。
そうしたら、そうであってほしいと願う事しか私には出来ない。
その事を考えるとなぜだか胸が苦しくなった。
「アリア様?今日はなんだか変ですわ・・・・。顔色も優れませんし・・・。少し横になられたらいかがですか?」
心配そうに見てくるマリアににっこりと笑いかけ、大丈夫という意志を伝えた。
この苦しさは寝ても治らない気がしたから・・・。