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予想外の招かざる客が来たものの、結局、話をしなければならないのは同じだったので、覚悟を決めた。
「・・・はぁ・・・。では、皆さまどうぞお座り下さい。これからお話致しますわ・・・」
溜息とともに出た言葉は既に疲れ切っていた。
しかし、これからが大事な事だ。
深呼吸をして気合いを入れなおした。
「クレイン!こちらへ」
私とリーナと殿下が同じテーブルを囲む中、扉の前に立っていたクレインを呼び寄せた。
クレインが私のすぐ後ろに来ると私は2人を見た。
殿下は無表情でこちらをにらみ、リーナはすでに肩を落としていた。
「リーナ様」
私が呼びかけるとリーナはビクッと肩を震わせた。
「・・・先程も申し上げましたが、私は貴方を疑っております」
その言葉に殿下の片方の眉がピクリと動いた。しかし、さすがは殿下。それ以外はなんの反応もなかった。
「もちろん、それだけでこちらに御呼びしたわけではありません。確証がありませんでしたし、なぜそのような事をするのかわかりませんでした。そこで、クレインに貴方の国の事情を調べさせました」
すると、クレインが一歩前に出て話始めた。
「・・・リーナ様。貴方の国の財政状況がかなり悪化していらっしゃいました。原因は作物の病気によるものですね・・・。農業国であるリフィル国にとってこれは一大事だ。しかし、これを長い間それに気付かず、すでに国中の作物がこの病気で収穫が出来なくなっている。国の財産を使って民に食料を配っておいでのようでしたがそれも底をつき、他国に頼らなくてはいけなくなっております。そこでこちらのフィルナリア国に援助を申し出ておられますね」
その話を聞いた殿下が口をはさんだ。
「そんな話は聞いていないぞ!?」
クレインは殿下をみて頷いた。
「その筈です。この件は宰相様の所で不正が行われておりました」
「不正!?」
「はい。宰相は穀物等の自給が出来なくなったリーナ様の母国の足元を見たのでしょう。フィルナリア国の保管食料を横流しし不正な金品の受け渡しがあったようです」
「リフィル国と宰相が・・・・」
殿下が確認するようにつぶやくとリーナが声を上げた。
「違うわ!お父様は知らなかったのよ!フィルナリアが援助をしてくれているのだと思っていたの!!だけど援助の量は圧倒的に少ないし、送られてくるものは明らかに保存食ばかりだった。それで、お父様はおかしいとおもって調べたの。そしたら・・・・・ここの宰相がフィルナリア国の保管食料を勝手に横流ししてたって・・・・・」
リーナの目には涙が浮かんでいた。
「・・・最初はお父様も大変な事をしてしまったとすぐにでも陛下の元へ行こうとしたわ。でもそうしたら宰相が・・・・、すでに横流しした食料を使ってしまっている。お前は同罪だと。陛下の元へいけば食料の援助も打ち切ると・・・。お父様は悩んだわ。今、援助を打ち切られてしまっては民はどうするの?他国にお願いしたところで、援助される量は微々たるものよ。全国民にまで行き渡らない。もう選択肢がなかったの!食料を我が国に横流しする代わりに金品の要求が始まったわ。ただでさえお金がなくて民が困っているのに!!それでも、民の為には食料が必要だった!お金になるものより生き抜くために食べなければいけなかったの!!」
リーナの必死さに誰もが口をはさめなかった。
「・・・そんな時、殿下の花嫁探しの話が上がったの。宰相は私を妃にしてもっと動きやすくなりたかったのね・・・。私の所に国を助けたければ妃になるように努めろと言ってきたわ。おかしな話だわ!兄弟の様に育ったお兄様の所に嫁に行けですって?しかもお兄様が選ぶのでしょう?無理に決まっているわ!だってお互いに恋愛感情もなければ政治的意味もないんですから!それに、私か宰相の姪が妃にならなければ宰相の力が弱まるのは目に見えてた。だから、私はアリア様を応援したかった。それなのに・・・あの男、我が国への援助を止めたのよ!!このままではアリア様が妃になりかねないからと!!ただそれだけの事で、民を見殺しにするような事を!!」
「・・・・だから、アリアーデ姫を陥れようとしたのか?」
殿下が感情のこもっていない声でリーナに訪ねた。
「・・・そうよ。それも宰相に言われた事をそのままやっただけよ」
「リーナ!自分が何をしているのか分かっているのか!?」
リーナの言葉を聞いた殿下が声を荒げた。
「わかっているわ!!でも、私は一国の姫よ!どんなものを犠牲にしても守らなければいけないものがあるの!!」
リーナの言葉に殿下は何も言えなかった・・・。
同じ立場の殿下も何か思うところがあったのだろう。
もちろん私も・・・・。
「・・・私だってこんな事したくなかったわ・・・・・」
ぽつりと言うリーナの言葉に胸が痛んだ。
「宰相に言われてアリア様がどんな人かを調べた・・・。お話をするうちにとても素敵な方だって事もわかったわ・・・。そんな人を陥れようとする私がなんて醜いんだろうって・・・・。合わせる顔もなかった・・・・・」
「リーナ様・・・・・・」
「・・・アリア様・・・・。ごめんなさい・・・・」
消え入るような声で謝るリーナに私の目からも涙があふれ出ていた。