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しばらく一人でのんびりとしていると部屋のドアからノックの音が聞こえた。
「アリア様。御呼びでしょうか?」
扉の向こうから聞こえて来たのはクレインの声だった。
「ええ。入って」
返事をすると騎士の制服に包まれたクレインが入ってきた。
「・・・アリア様。どうかされましたか?」
何か探るような目つきでこちらを見ているクレイン。
「ええ。あなたに聞きたいことがあって・・・・。殿下はお元気?」
「殿下・・・ですか?」
「そうよ。あなたは頻繁にお会いしているのでしょう?」
こちらの様子を伺っていたかと思うとクレインは手を腰に当てて大きなため息をついた。
「・・・はぁ~・・・。気づいておいででしたか・・・」
「ふふ。最初はガラス細工にでも夢中になっているのかと思ったのだけれどね。それにしては私の所へ全く来ないなんておかしいなと思っていたの。極めつけはあの言葉だったけどね」
「あの言葉?」
思いつかないのか、首をかしげるクレイン。
「そうよ。殿下が私の事を迷惑だと言ったのかどうかとね。まるで、知っているかのように話すからちょっとおかしいなって思ったわ」
とはいえ、そう思ったのは少し落ち着いてからだったが・・・。
「そうですか。あまりにアリア様らしくないことを言われていたのでついつい口が滑りましたね」
言葉や表情では苦い感じを出していたが、雰囲気はまったく気にした様子ではなかった。
「それで、犯人を探しているのでしょう?私に心当たりがあります」
そう言った途端、クレインの表情が変わった。
「・・・と言いますと、何か思いついたことでもありましたか?」
「そうね・・・。正確には思い出したことよ。そして、これから確かめるの」
クレインの眉間に深いしわが出来た。
「これから?」
「そう、これからよ。それであなたにも手伝って欲しいの」
「また、あなたは勝手なことを・・・・はぁ・・・・」
クレインはあきらめたかのようにため息をひとつ着くと私をしっかりと見据えた。
「・・・それで、私に何をしろというのですか?」
「ふふ。話が早くて助かるわ。では少しこちらへ」
手招きをしてクレインを呼ぶと小声でこれからの事を話した。
「いいかしら?明後日までに調べておいてね」
「・・・わかりました。あまり時間がありませんので、私はこれで失礼しますよ」
クレインはアリアから離れるとすぐに部屋を出て行こうとしたのでアリアは慌ててクレインを止めた。
「待って!クレイン。このことは殿下にはくれぐれも内緒にしていてよ!?」
クレインは返事の代わりに手を挙げると部屋を出て行ってしまった。
「・・・それにしても、クレインったらいつの間に殿下と仲良くなっていたのかしら?」
他国の一騎士が殿下と仲良くなるなど聞いたことがないのに・・・・。
そう思いつつもクレインが殿下と繋がっているおかげで情報も入りやすくなったことは間違いなかった。
「さぁ、私もお茶会の準備をしなくてはいけないわね」
明後日、リーナを呼ぶ口実にお茶会に誘うこととした。
今現在、私は客人となっている。
客人の誘いとあれば、よほどのことでない限り断ることはできなかった。
早速準備をしようと思ったが何がどこにあるのかわからない。
マリアにも色々と使いを頼んでいる為、今、傍にいなかった。
候補の時に着いていたフィーナも候補を辞退してからは私の傍にはいなかった。
「・・・・久しぶりに自分で用意をしてみようかしら・・・」
こちらへ来てからというものマリアにまかせっきりだった。
たまには自分でお茶会の準備をするのもいいかもしれない。
そう思うとどのお茶をお出しするか決める事にする。
次はお茶菓子・・・・。
そんな事を考えていると、あっという間に日が暮れ始めていた。
「アリア様!戻りました!!」
扉を開けて入ってきたマリアの声でハッと現実に戻る。
「あら?もう夕刻なのね?」
「・・何か御考え事でも?」
「ええ!そうなの!マリア聞いてくれる?今度のお茶会のお茶とお菓子は・・・」
ウキウキと話を始めた私にマリアは呆れたように笑っていた。
しなければいけない事はとても重要な事のはずなのに、今この瞬間は楽しみたかった。
きっと、このお茶会が終わってまっているのは悲しい結末のはずだったから---。