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「しかし・・・」
言いにくそうに言葉を詰まらせるマリアだった。
「なに?気になった事があったのならば言って?」
マリアは深呼吸をするとしっかりと私の目を見て話し始めた。
「あのお怪我をされていた時に頻繁にアリア様を訪ねてこられていた方がお一人いらっしゃいます」
そう言われてふと思い浮かんだ顔に頭を振った。
「まさか!そんなはずはないわ」
否定する私にマリアは続けた。
「・・・しかし、部屋で本を読むしかなかったアリア様の元に頻繁に訪れて下さってはお話相手になっていたリーナ様でしたら、お部屋に置いてあった本を把握する事は可能です」
リーナ様が・・・・・。
その名前が出てきた途端私の中に電流が走ったような感じがした。
その瞬間目の前が真っ白になり、足の力が抜けた。
「アリア様!!」
椅子に座っていたマリアが私の所に近づいてくると私を支えながら先程までマリアが座っていた椅子に連れて行かれた。
「嘘よ・・・そんな・・・・」
先日、私に国を出るように助言をしたリーナ。
しかし、それはこの国の為を思って言った事だと思っていた。
「大丈夫ですか?アリア様」
先程までとは正反対に、マリアが心配そうに私を見つめる。
「・・・そんな、リーナ様が・・・・?」
しかし、確かに彼女ならば私があの時読んでいた本を知っていてもおかしくはない。
あの時は至るところに本を置いていたのだから・・・。
「だけど・・・・なぜ、リーナ様が・・・・」
ほぼ確信へと変わっていく思いに、なぜリーナがそんな事をする必要があったのかが疑問に残った。
「・・・そうですね。リーナ様は殿下の妃になるつもりはないと始めから言われておりましたね」
それならばなぜ私を追い出す必要があったのだろうか?
「アリア様・・・・。この事を殿下にお知らせいたしますか?」
殿下に・・・。
妹のように可愛がっていらっしゃったリーナが今回の事を企んだと伝えろと言うのか?
「・・・・いいえ。・・・まだ伝えないで頂戴」
確実な証拠があるわけではない。
下手に犯人を特定して、違っていては殿下に迷惑をかけかねない。
もう少し確実になって話せばいいだろう。
・・・・何より、また殿下の傷つく顔を見たくはなかった。
「それが確かか、きちんと調べる必要があるわね・・・・」
「調べる?」
マリアは眉間にしわを寄せた。
「・・・・そうよ。リーナ様をこのお部屋に御呼びして頂戴」
そう言った途端、マリアの眉間のしわは更に深く刻まれた。
「何をおっしゃられているのですか!?そんな事をしてもし本当にリーナ様が犯人でしたらどうするおつもりですか!」
すっかりいつもの調子を取り戻したマリアの小言がまた始まってしまった。
「そうね。それについてもしっかりと対策をしておきましょう?クレインも呼んで頂戴」
最近は全く私の傍にいないクレインを呼びだす事にした。
クレインについても私は少し思うところがあったのだ。
それを問いただす為にも、リーナと会う前にクレインに会っておかなければいけなかった。
「クレイン様ですか?・・・かしこまりました」
首をかしげながらも何かを思い至ったのか、マリアはクレインを呼びに席を立った。
「リーナ様については明後日お呼びしましょう。まだ使いは出さなくていいから」
部屋を出ようとするマリアに一声かけ、マリアは頷いたかと思うと部屋を出て行った。
「・・・・リーナ様・・。一体、なにがあったのですか?」
窓の外を見ると空は青く小鳥が飛んでいた。
その小鳥はくるくるとその場を回ると後宮の方へ飛んでいった。
「今、後宮ではどうなっているのかしら・・・・」
私がいなくなったことで落ち着きを取り戻しているのだろうか?
殿下との時間を楽しんでいるのだろうか。
そう思うと少し胸が痛んだ気がした。
「?何かしら?外の風にあたりすぎて風邪でも引いたかしらね・・・」
窓を閉めると、先程飲んでいた紅茶がすっかりと冷めてテーブルの上に申し訳なさそうに乗っていた。
暖かい風が吹く毎日だと言うのに、風邪などひいてはたまらない。
「これからやる事がたくさんあるのに・・・」
体を冷やしてはいけないと暖かいお茶を自分で入れた。
こうやって、自分でお茶を入れることも随分と久しぶりだった。