05
「アリア様!!」
ボーッとしていたら、人ごみをかき分けてターニャがやって来た。
「ターニャ様・・・。」
「アリア様ったら、ボケっとされてどうしましたの?」
不思議そうな顔で私を見上げるターニャ。
「・・・いいえ。なんでもないわ」
「でも、驚きもしますわよね!この中から殿下の妃候補を探すだなんて!」
どうやら先程の国王の話はその事だったらしい。
「ターニャ様はご存知なかったのね」
「ええ。アリア様はご存知でしたの?きっとお姉様も知っていらしたんだわ!だから逃げ出したのね」
ターニャのぷんぷん怒ってる姿もまた可愛く、とても癒される。
「ふふっ。ターニャ様、せっかくですから美味し物を頂きましょう?きっと私たちの国では食べられないようなものもありますわよ」
「そうですわね!代わりに来たんですもの、美味しい物を食べてお姉様に自慢しちゃいますわ!」
そう言うと、ターニャはこの国の特産品を使った食事を堪能し始めた。
「・・それにしても、殿下はどこにいらっしゃるのでしょうね?ご挨拶もありませんでしたし・・・。ご自分の花嫁を探すって言うのに興味ないのかしら?」
「あら?殿下はいらっしゃらないの?」
まったくさっきの話を聞いていなかったから気づかなかった。
「ええ。国王様は殿下は遅れて出席されるとおっしゃってましたけど、先程からそれらしい方はお見掛けしませんし、皆様、殿下を探してらっしゃいますもの。まぁ、私には関係ありませんけどね。・・・あら!これとっても美味しいわ!」
本当に美味しそうに食べるターニャを見て、可愛くてこちらも思わず笑顔になる。
それにしても、王子がいないというのはどういうことだろう。
『完璧王子』というのだから、自分の意思で開いたわけではないこのパーティでも、参加するのが礼儀だろう。
それをしていないという事は、噂程ではないのかもしれない・・・・。
と、噂とは違う話を聞いて、少し考え込んでしまったが、食事を楽しむのが好きなアリアである。
目の前の珍しい食べ物を見て、ターニャと2人で色々な料理を食べ、話をしている内に、そんな事はどうでも良くなってしまった。
「ターニャ様は明日帰国されるのですね・・・」
「ええ。もともと代理で来ましたし、私も戻って学ばなければいけない事がたくさんありますもの。アリア様はどうなされますの?」
「私は、2日程こちらでお世話になりますわ。少しフィルナリア国を見て回りたいと思ってるの」
「まぁ!こちらではガラス細工がとても素晴らしいと聞きましたわ。私も、お土産にいくつか購入させていただきましたの!とても綺麗でしたわ」
「その様ですね。この国ではガラス細工はとても有名で、熟練職人の手によってでしか作れない繊細な模様もあるみたいですわ。ぜひ、この目で見て帰りたいものです」
私の今回の楽しみはそれだった。
この国には、エレナはいない。さすがに他国で一人街に行くことはできないので、マリアと一緒だが、自分の目で細工作りを見てみたかったのだ。
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「アリア様。また私の国にも遊びにいらしてくださいね」
「えぇ。必ず伺うわ。ターニャ様、お元気でね!」
ターニャの乗った馬車を見送った後、アリアは部屋へ戻り自分も出掛ける用意を始めた。
「さぁ!マリア、準備はできた?」
「アリア様。本当に行かれるのですか?見つかったらどうなるかわかりませんよ?」
街へ行くのを渋っていたマリアだが、一人で行かせるよりは・・・と、仕方なく準備をしてはみたものの、やはり自国でない為どんな危険があるかわからない。言い出したら聞かない主人の性格もわかってはいるのだが、念のためもう一度聞いてみた。
「大丈夫よ!すぐ行って帰るだけだから。この国は治安もいいし、危ないところには絶対近づかないようにすれば問題ないわ」
「・・・・・仕方ないですね。お昼までには戻りますよ。でないと、呼びに来る侍女に気づかれてしまいますから」
「マリアがいるんですもの。時間だって守れるわよ」
「絶対私から離れないでください。何かあっても守れなくなりますから」
「わかってるわ。じゃぁ、行きましょう」
そう言うと、昨日のうちに調べておいた人通りの少ない廊下を抜け、使用人たちが使う出口に向かった。
上手い具合に誰とも合うことなく城を抜け出す事ができたのだった。