49
あの日、部屋に戻ってからも図書室に鍵がかかっていた以上気になっている事も解決しない。
「アリア様。お茶が入りましたよ」
目の前に置かれたティーカップを手に取るとそれを一口飲んだ。
「おいしいわ」
「・・・最近はまったく何も動きがありませんね・・・・」
そう。殿下からも特に何を言ってくることもなく、退屈な毎日を過ごしていた。
「・・・・・そういえば、クレインはどうしたの?」
ふと、最近姿を見ていない事を思い出した。
「さぁ?私にも見当がつきません。アリア様お付きとしてこられているのに、仕事をほったらかしてどちらにいっていらっしゃるのだか!!」
クレインの話をし始めるとぶつぶつとマリアの怒りが噴出して来ていた。
どうやら、触れてはいけない事柄だったらしい。
「・・・もしかして、あのガラス細工でも仕入れようとしているのかしら?」
クレインとはあの日以来会っていなかった。
もしかしたら、呆れられてさっさと自分の仕事に戻ってしまったのだろうか?
「大体、クレイン様はなんで騎士のくせにお店を営んでいらっしゃるですか!?そもそもそこが間違っているんですわ!」
マリアの怒りはまだおさまらないらしい。
事情を知らないマリアはクレインが趣味で店を始めたと思っていた。
「落ち着いて、マリア」
相変わらずの独り言に笑いがこぼれる。
しかし、不意に扉からノックの音が聞こえた。
「・・・・誰かしら?」
なんだが、似たような事がつい最近合ったような気がした。
「出てきますね!」
マリアが扉に駆け寄り身元を確かめると扉を開けた。
すると、部屋に入ってきたのはルイガだった。
「ご無沙汰いたしております。アリア様」
胸の前に手をあて頭を下げた。
「ご無沙汰しておりますわ。ルイガ様」
久しぶりに見たルイガに自然と笑みがこぼれた。
「・・・何か吹っ切れたようですね?」
顔を上げると同時にルイガは笑いながら言った。
ルイガと最後に会ったのは殿下に謁見を賜った時だ。
あの時、ルイガも近くにいた。
そう考えると、確かにあの時は一番辛い時期だと思っていたのだから、ひどい状態だったに違いない。
「・・・そうですね。自分が何を信じればいいかがわかりましたからね」
「・・・・そうですか。それは良かった」
何とは言っていないのに、ルイガは伝わったかのように顔をほころばせて笑っていた。
「それで、私に御用なのでは?」
「あぁ!そうでした。アリア様に確認して頂きたい事があったのです」
そういうと懐から手紙をとりだし、私に差し出した。
「・・・これは?」
「こちらは殿下よりお預かりしたラブレターです」
「は!?」
思わず顔をしかめてしまった。
「・・・と言いたいところなのですが、こちらは今回の件で確認して頂きたいリストです。・・・それにしても、そんなに顔をしかめなくても・・・」
困ったように笑うルイガに恥ずかしくなって俯いてしまった。
「そ、それで、何を確認すればよろしいのですか?」
差し出された手紙を受け取りながら、ルイガに訪ねた。
すると、ルイガの表情が急に真剣になった。
「こちらに書き出されたリストは、密書が隠されていた本の題名となっています。あなたが借りたものと一致するかどうか確かめて頂きたいのです」
ルイガの言葉に私は肩を強張らせてしまった。
「・・・わかりました。確認いたしますので、少々お待ち下さい」
手紙の封を開け、中に入っていた紙を広げると確かに本の題名が記されていた。
それを見落とさないようにしっかりと目を通し確認した。
「・・・・確かに、私がお借りした本の題名と一致致します。もちろん、お借りしたのはこれだけではありませんが・・」
リストをルイガに渡すと、ルイガそれに目を落としたかと思うと再び懐に入れた。
「そうですか・・・。わかりました。・・・突然お伺いして申し訳ありませんでした」
部屋を後にしようとするルイガをあわてて呼び止めた。
「あ、あの!ルイガ様。今、一体どうなっているのでしょうか!!」
呼びとめた声に反応しゆっくりとこちらに向いたルイガの顔は険しい表情をしていた。
「・・・・申し訳ありませんが、あなたにお話し出来る事はありません。これは殿下が極秘で行っている事です。疑っているわけではありませんが、万が一どこかで聞かれでもしたら、殿下の身が危うくなるのです」
ルイガの目は真剣だった。
「わかりました。では、殿下にくれぐれもご無理をされないようお伝え下さい」
「・・・・必ずお伝えします」
にっこりと笑うとルイガは部屋を出て行った。