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手紙を読み進めていくうちに、眉間に寄った皺がどんどん深くなる事が自分でもわかった。
「・・・・アリア様?」
心配そうにこちらの様子を伺うマリアを尻目に、手元にある手紙に目を落としていた。
すべてを読み切ると深いため息がひとつ自然と出ていた。
「・・・・はぁぁ」
「・・・・アリア様?」
再びマリアが私の名前を呼んだ。
「・・・・・マリア。・・・・落ち着いて聞いてね?」
マリアを見上げそういうと、マリアはしっかりと頷いた。
「殿下からのお手紙にはこう書かれてあったわ。・・・・今はまだ、城から出る事が許されないと。この国の事を知ってしまった私を国に返す事は出来ないと」
マリアの顔はみるみる血の気を失っていく。
「妃候補に関しては辞退を認められたとね。これはいい知らせかしら?」
自嘲気味に笑う私にマリアは更に顔を歪めた。
「・・・・そんな・・・・。・・・・それは、つまり・・・・・・」
言葉につまるマリアの代わりに私が答えた。
「そうね。まだ私に疑いがかかっているという事よね」
マリアはとうとう泣きだしてしまった。
「そんな!!候補を辞退したアリア様がなぜまだ苦しめられなければならないのですか!!」
泣きながら怒るマリアの傍に行き、そっと肩に手を乗せた。
「マリア。話は最後まで聞いて?」
そういうと、マリアは顔をあげた。
「ただし、それは重臣の方々のみに与えられた情報らしいわ。実際には私の候補は取り消されていないし、殿下は私の事を疑っているわけではないそうよ。ただ、今回の犯人を見つける為にその様に振舞ってくれと書かれてあったわ。候補を取り消さなくて申し訳ないと。今回の事にけりがつけば必ず約束は守ると」
マリアの涙は止まったが、表情は険しいままだった。
「・・・しかし、それでは結局今までと変わりがないのではないのでしょうか・・・・」
ぽつりとつぶやくようにマリアが言った。
「そうね。だけど、周りの認識が変わってくるわ。そうすれば、犯人は何かしらの行動を起こすかもしれないでしょう?」
納得が出来ない様な顔のマリアにくすりと笑みがこぼれる。
「ねぇ、マリア?私が疑われる要素はたくさんあるわ。それがたとえ作られたものだとしてもね。それでも、殿下は私ではないと信じて下さっているわ。だったら、私達もそれくらいの事しなければ、信じて下さっている殿下に申し訳ないと思わない?」
ハッとするマリアだったが、また眉間に皺が刻まれた。
「・・・それが罠ということはないでしょうか・・・・?」
手紙を読んでいて私もそれを考えた。
「・・・・そうね。その可能性もないとは言い切れないわね。・・・・でも、もし本当に信じて下さっていたら?私たちはその信用を裏切るの?」
以前殿下に言った自分の言葉を思い出した。
―間違う事もあると思います。裏切られる事もあるでしょう。
でも、そのたびに信頼をなくしてしまっては誰も信用できなくなってしまいます。
裏切る人もいれば、貴方の事を助け、力になってくれる人も必ずいます。―
そういった私が殿下を信じなくてどうする。
自分の言った事を自分で信じればいいのだ。
例えそれで私が裏切られたとしても、必ず私を信じてくれる人がいる。
そう思うと、なんだかふっきれた気がした。
今まで、もやもやしていた事がすーっと綺麗にはれていく気がした。
「マリア。私は殿下を信じるわ!」
そんな私を見てマリアは笑った。
「・・・でしたら、私はアリア様を信じております」
「まぁ!ありがとう」
お互いに顔を見合わせ手を握った。
「ふふ。ここからが私たちの腕の見せ所よ?罪をかぶせられて負けていられないわよね」
「・・・アリア様?ほどほどにしてくださいね?」
困ったように笑うマリア。
マリアは、やっといつものアリア様が見られたと心の底では安堵していた。