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「失礼致します。シュテルン国王女アリアーデでございます」
いつもは、殿下の私室だった。
しかし今回は正式な申込の為、謁見室にての対面となった。
「・・・・どうぞ」
中から、もう聞きなれてしまった殿下の声が聞こえた。
私は奥にいる殿下を見ず、殿下の前まで行くと礼をした。
「・・・・・顔を上げなさい」
謁見室には殿下の他にも近衛の騎士達がいた。
そのためか、普段の話し方ではなく皆の王子としての話し方でしゃべる殿下だった。
「・・・・お忙しい中、お時間を頂き申し訳ありません」
「・・・・構いません。しかし、貴方の要求を聞く事は出来ません」
前もって要件を話していた為、私が話しだす前に要求を却下されてしまった。
「・・・お願い致します。殿下。私はここにいてはいけない人間なのです。どうか、お聞き届けくださいませ!」
私は心の底から殿下に懇願していた。
「・・・・・っ!そんな顔をするな・・・」
ぼそりと何かをつぶやく殿下の声はすでに私には届いていなかった。
「・・・お願い致します。殿下のお役にたてず申し訳ありません。私がいるせいで、殿下だけではなく、周りの方々にまでご迷惑をおかけしてしまいます。どうか・・・どうか、お願い致します」
頭を何度も下げ、殿下聞き入れてくれるよう懇願した。
聞き届けてくれるまでそうするつもりだった。
「っっ!もうよい!」
殿下が私のすぐ傍まで来て、私の手をとった。
私は思わず顔をあげ、今日初めて殿下の顔を見た。
「・・・もうわかったから。頭を下げるのはやめろ」
私は、殿下の顔を見てハッとした。
そう言う殿下の顔も、とてもつらそうだったのだから。
「・・・・今すぐに国に返す事は無理だ。だが、後宮ではなく離宮に移す。そうすれば、他の者は候補辞退となった事を認めるだろう。客人として扱わせる。それで・・・それで、我慢してくれ」
・・・国に帰りたかった思いが強かったのも本当だが、殿下のこんな辛そうな顔を見てしまっては、これ以上要求を突き付ける事ができなかった。
「・・・・わかりました。では、必ず私は候補から外れた事を公にして下さい。そして、すぐにとは申しません。必ず私をシュテルン国に戻すとお約束してください」
「・・・あぁ・・・。わかった・・・。約束する」
「・・・ありがとうございます」
ほっとしたのもつかの間、目の前が真っ暗になり私はその場で意識を手放してしまった。
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目が覚めた時、私は今までの部屋でなく、始めに通されていた離宮の部屋にいた。
「アリア様!お目覚めになられましたか!!」
目を開けたそこにはマリアの顔があった。
「・・・・・マリア?・・・・・」
「あぁ!もう!本当に心配致しました!」
「・・・私・・・どうしたの?」
体を起こすと少し体が辛かった。
「あぁ!いけません。急に起き上がっては!・・・・アリア様、過労でお倒れになったのですから!」
「過労?」
「はい。お医者様がおっしゃるには、心の過労だと・・・。精神的になにか辛い事があったのではないかとおっしゃられていましたわ。2・3日ゆっくりしていればすぐに治るそうです」
「・・・・そう。ごめんなさいね。また心配をかけてしまったわ」
「そんなことはよろしいんですよ!!とにかく、アリア様がお目覚めになられて良かったです」
「・・・ありがとう、マリア」
いつものマリアの様子に私はほっとした気分だった。
「あ!アリア様!ここまで運んでくださった殿下にお礼申し上げておいて下さいね。最後の最後まで殿下にご迷惑をおかけして帰るのは忍びないですからね!」
・・・殿下自ら此処まで運んで下さったという事なのだろうか・・。
それに、マリアはすぐにでも国に帰ると思っているらしかった。
「・・・マリア、あのね・・・」
「あぁ!そういえば、クレイン様はどこに行かれたんでしょうね?もう!あの人は帰る準備を全然手伝ってくださらないんだから!」
マリアはすっかり一人の世界に入りまた独り言のオンパレードだ。
「マ、マリア」
「殿下も殿下で何かおかしなことを言ってらっしゃいましたよ?もう少し我慢してくれと伝えてくれとか?何を我慢しろというのでしょうね?」
首をひねるマリア。
「・・・マリア。聞いてちょうだい」
「はい?どうかされましたか?アリア様。はっ!もしかしてまだ具合がお悪いですか!?」
顔を青くさせるマリア。
一人で突っ走るマリアに私は一喝した。
「マリア!!聞きなさい!」
「はい!」
思わずマリアも姿勢を正す。
「・・・もう・・。本当に・・・。あのね、マリア国にはまだ帰れないのよ」
マリアは姿勢を正したままの形で固まった。
「え・・・?帰れない?」
「・・・・そうよ。まだ、殿下からの許可が下りていないのよ」
目をぱちぱちさせマリアは頭の中で私の言っている事を処理しているようだった。