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「誰も部屋に入れないで頂戴・・・・」
リーナの部屋から戻ると私は一人部屋に籠って泣いた。
リーナに信用してもらえない事はとても辛かった。
こちらに来て初めて信頼の出来る友が出来たと思った。
いきなり妃候補を選ぶから晩餐会に出席をしろと招待状が来てから全くいい事はなかった。
大好きな自分の国にも帰れない。城下に下りることも叶わなかった。下りる許可が出た時にはすでに色々な事があり外に出ることもままならなかった。
妃候補のフリをしろと言われ、無理やりこの国にとどまる事になり、気分が沈んでいた時、明るいリーナの存在にどれだけ癒された事か。
どれだけ、救いとなっていた事か。
そんな、リーナに向けられる侮蔑の視線に耐えられなかった。
誤解を解くことさえもできないリーナの思いに耐えられなかった。
・・・・この国にいなければいけないのはなぜ?
そんな思いが先程から延々と思い浮かんでは消える。
「・・・・国に帰ろうかしら・・・・」
どちらにしろ議会からは私を国に返せと言ってきている。
他の候補者もきっと思っているだろう。
ルイガの仕事の邪魔もしている。
殿下の仕事も増やしている。
皆、私がいるせいで困っているのだ。
「・・・・・私がいなくなれば・・・・・」
きっと、丸く収まるのだろう。
この国にも平和が訪れる。
殿下の妃候補など、私でなくても構わないではないか。
それこそ、リーナなどは適役ではないのだろうか。
「・・・お父様、許して下さるかしら・・・」
娘思いの父の事、自分がこんな目に合っていると知ればきっと今すぐにでも帰ってこいというだろう。
お母様も、お姉様も同じ事を言うだろう。
そう思うと国が恋しくなった。
気軽に声をかけてくれる町の皆が恋しくなった。
「・・・・・帰ろう」
私の思いはすでに国に帰る事を決めてしまった。
ただ、ひとつの心に引っ掛かる事があるのだけれど・・・・。
「・・・ごめんなさい。殿下・・・・。信用して下さったのに・・・」
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心を決めた私は、早速マリアとクレインを呼んだ。
「2人とも驚かずに聞いてもらえる?」
目の前に立ちすくむ2人を前に私は話し始めた。
「・・・・私、もう国に帰ろうと思うの・・・」
「アリア様!?」
マリアは驚いた様に声をあげた。
「今まで色々共に頑張ってくれたのに、ごめんなさいね。マリア。でも、私はもうこの国には必要がないみたい」
自嘲気味に笑う私にマリアは心配そうに声をかける。
「アリア様・・・・。一体、リーナ様と何があったのですか・・・・?」
クレインは私たちの様子を黙ってみていた。
「・・・・いえ、リーナ様がどうというわけではないの。・・・・私が、耐えられなくなってしまったのよ」
2人に心配をこれ以上かけたくなかったから、本当の事は言わないでいた。
「・・・・アリア様・・・」
マリアは傍まで来ると膝をつき私の手を握った。
「・・・私は何があってもアリア様とともに参ります。アリア様が国に戻られたいとおっしゃるの程お辛い事があったのならば、ともに帰りましょう!」
マリアの言葉に私は止まっていた涙がまた溢れだした。
「・・・ありがとう、マリア・・・」
傍でその一部始終を見ていたクレインは何も言わなかった。
「そうと決まれば早速国に戻る手配をしましょう!クレイン様!貴方様は殿下にお暇のお願いをして来てください!!」
マリアはクレインに詰め寄り、部屋の外へと追い出してしまった。
「さぁ!アリア様!家に戻れるのです!もう泣かないで下さいませ!これから忙しくなりますよ?妃候補の辞退をしなければならないのですからね!」
マリアの勢いに私も思わず泣き笑いとなってしまった。
「ふふ。マリアったら。・・・・ありがとう」
何も聞かないマリアに感謝した。
マリアもにっこりと笑い準備の為、部屋を後にした。
再び、部屋に一人になり、これまでの事を思い出していた。
こちらに来て辛い事がほとんどだった。
しかし、今の自分がここにいる意味を見出せない事の方がもっと辛かった。皆に迷惑をかけてしまう事が辛かった。
私は、これまでの事をお詫びし正式に辞退を申し出る為、殿下に謁見の手続きを申し出たのだった。