04
「そろそろ参りましょう。アリア様」
鏡の前で、最終チェックを終えマリアが扉へと促す。
「そうね・・・」
暗くなる気分を奮い立たせて広間へ向かう。
そこで、ふと思いあたることがあった。
「そういえば、この国の王子ってどんなお姿だったかしら?」
町で聞いた時には、「なんでも一人でやる完璧王子」だった。確かに、城にいる外務大臣に聞いても施政はほとんどご自分でされていると聞いた。しかし、どんな容姿でどんな人柄なのかはまったく聞いてなかったのだ。
「完璧王子の異名を持つ方でしょう?容姿も見たらわかるのではないでしょうか?とにかく、少し急ぎませんとお時間があまりありません」
引っ掛かりを覚えながらも、急かされてしまいあわてて会場に向かった。
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会場に着くとすでにほとんどの王女達が到着していた。
「では、アリア様。私は部屋に戻っております。存分に楽しんでくださいね」
「・・・・ありがとう。マリアもゆっくり休んで」
晩餐会では使用人・侍女等は控えていてはいけない事になっている。
それは、間違っても王子が王女ではない人を選ばないようにだ。
「それにしても、皆気合いの入り方が違うわね・・・。なんだか、逆に目立ってしまいそう・・・」
今更だが、張り切って着飾った人達にまぎれてしまえば、地味なドレスが逆に目立ってしまう。
人目はあまり気にしないアリアだが、目立つことはいい事ではないと判断しテラスへ出た。
「風が気持ちいいわ」
テラスから会場を見渡すと、何人か見覚えのある顔があった。
しかし、皆一様に華美なドレスを着て、お互いを牽制し合っている様だ。
「・・・そんなにいいものかしらね?妃候補になるって・・・・」
町に出て美味しいものを食べたい!自由がほしい!とおもうアリアには『妃』という立場はあまりに不便と感じてしまう。
「なら、なぜこんなところに来ている?」
ふと声が聞こえたかと思うと、騎士団の服を纏った男が現れた。
「きゃっ!」
急にあらわれた男に驚いてバランスを崩し倒れそうになった。
「驚かせてすまない」
申し訳なさそうに男がアリアの腕をつかみ倒れそうになるところを支えてもらった。
「い、いえ。こちらこそ、助けて頂いてありがとうございます。し、しかしなぜ上から人が降ってくるのでしょう?」
「あぁ・・・。どこぞの姫君に迫られてしまってね。突き飛ばすわけにも冷たくするわけにもいかないからね。そこから下りてきたんだよ」
と指をさす先はひとつ上のテラスだった。
「・・・まぁ!いくら騎士様とはいえ、こんなことでもし怪我でもしたらどうするんですか!?国を守るものとして意識が低いのではありませんか?」
アリアは、いつも騎士にかかわらず自分を大切にして欲しいと思っている。自分を大切にできない人が他を守れるはずはないから・・・・。
なので、ついうっかり国にいる時のように叱ってしまったのだ。
「たしかに・・・貴方の言うとおりだ。すまない」
見ず知らずの人間に怒られたにも関わらず、騎士は素直に謝罪をした。
「!!申し訳ありませんっ!私ったらつい・・・・」
あまりの恥ずかしさに真っ赤になりながらあわてて頭を下げた。
「貴方が謝ることはない。それより怪我はないか?」
「え、えぇ。驚いただけですから」
「そうか。驚かせてすまなかったな。それにしてもせっかくのパーティーだ。美しい姫君が壁の花になるのはもったいないな」
そう言うと、騎士に手をひかれ、会場に連れ戻されてしまった。
会場に戻った途端、晩餐会を開始するラッパの音が会場に響き渡った。
「始まったようですわね・・・」
溜息をつきながら、隣りを見るともう騎士様はいなくなっていた。
ファンファーレが鳴り止みフィルナリア国王の挨拶が始まったが、アリアにはなぜか国王の挨拶が耳に入ってこなかった。
お・王子なのでしょうか・・・???