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「・・・・すみません。取り乱してしまいました」
そっと殿下の側から離れた。
「・・・いや、急にこんな話をしてすまなかった。あなたが混乱するのも無理はない」
殿下は先程まで座っていたソファーへと戻った。
「いいえ。大丈夫です。お話を続けてください」
殿下は首を縦に振ると話始めた。
「その密書には我が国の重要案件も書かれてあった。現在我が国ではまだ内紛が起こっているところもある」
それは歴史書にも書いてあった。
「その中でも国境近くの内紛では他国に攻め入られたらおしまいだ。だから、現在そういうところを中心に騎士を派遣している。それが・・・・事細かに記されていたのだ」
つまり、この国の弱点がそれだということだ。
「それは、騎士の人数や配置場所まで細部まで良く調べてあった」
「・・・そのような事は私が調べられるようなことではありません」
さすがに妃候補というだけで他国の政治に口を挟むどころかそのような重要事項を調べるなど到底不可能に近い。
「あぁ・・・。わかっておる。だから、アリアーデ姫が読んだ本から必ず見つかるというのがおかしいと思ったのだ。そして偶然にもそれを他の姫君達が次々と見つけるなどあまりに出来すぎていると思わないか?」
確かにそうだ・・・・。
あの図書室にはかなりの量の本が納められていた。
他の候補者達の手に渡ることも不自然だったが、ここ最近私はその図書室に通いづめだったのだ。
そこでは、他の候補者たちと会うことなどなかった・・・。
「では、誰かが他の候補者様達を操っていると・・・?」
「その可能性もなくはないな・・・」
まさか、それも宰相様が・・・?
「・・・どうした?」
殿下が私を覗き込むように見た。
「い、いえ!なんでもありませんわ。・・・殿下はその方に心当たりが御有りですか?」
「・・・・いや、今はまだわからん」
「・・・そうですか」
「ともかくだ。そういう訳なのであなたに護衛をつけることになる。しかし、護衛の者以外あなたを監視しているように見せなければならない。不本意だろうが今はまだ他の者がやったという証拠がない」
つまりは私を疑っているという風に見せかけるという事か・・・。
「わかりました。構いませんわ・・・」
「すまない。護衛には私が信頼をしたものを置く。・・・・以前に話しただろう。数少ない私が信用しているものだ・・・・」
ふと、顔をそむける殿下。
以前に・・・・というと、先日私がおせっかいな事をした日の事だろう。
確かに殿下には信頼できるものがいるとおっしゃっていた。
「えぇ。あの時は失礼な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」
深くお辞儀をした。
「・・・いや、あれはあなたの言うとおりだ。私一人では国は成り立たない。だが、これでも信頼している者には仕事をさせているつもりだったのだ。ただ、あまりにも信頼できる者が少ないのは確かなのだが・・・・・」
優しい目でこちらを見て苦笑する殿下は以前に見たレオン様と同じだった。
「・・・いいえ。私の方こそ何も知らず出すぎた事を申しました」
「いや・・・。とにかくだ。あいつなら信用できるから、安心してくれ」
そういうと殿下は扉の前で誰かを呼んだ。
するとそこから騎士の制服に身を包んだ男が部屋に入ってきた。
「アリアーデ姫。こいつが今日からあなたの身を守ることになるルイガだ」
「お初にお目にかかります。私、フィルナリア国騎士団団長を務めますルイガと申します。今後はアリアーデ様の側であなたをお守りさせていただきます」
「まぁ!お手数おかけして申し訳ありません。よろしくお願いします」
私も頭を下げた。
「・・・アリアーデ姫。あなたが頭を下げる事はない。これがこいつの仕事だ」
「・・・はい。しかし、お世話になるのですから・・・・」
ご挨拶くらいはと思ったが、なぜかまた少し不機嫌な顔をされていらしたので、それ以上言うのをやめた。
「殿下。こちらが殿下の大切な人ですか。なるほど、守って差し上げたくなりますね」
ルイガはにやりと殿下の方を見た。
「ルイガ!!余計な事は言わなくていい。アリアーデ姫、この護衛の事はアリアーデ姫の付き人にも内密に頼む。どこでだれが聞いているかわからないのでな。ルイガ、アリアーデ姫を部屋まで送って差し上げろ!!」
「はいはい。殿下は少々機嫌がお悪いようですので、アリアーデ姫、お部屋へ戻りましょう」
ルイガは私の手をとるとスムーズに扉の前までエスコートをしてくれた。
「ルイガ!!むやみやたらに姫の手を触れるでない!!・・・・アリアーデ姫十分気をつけて。また、明日お会いいしよう」
扉が開きルイガがさっさと部屋を後にした為、殿下に返事も出来なかった。
しかし、マリア達にまで内密とは・・・。
「・・・アリアーデ様もお可哀そうに。あんな堅物の妃候補など大変ですね」
考え込んでいた私に、にっこりと笑顔を向けるルイガ。
殿下は妃候補のフリだという事は話していないのだろうか?
ルイガの誤解を解こうかとも思ったが、やはりこれも、親しくとも内密の事なのかもしれない。と思いなおし、特に何も言わずにルイガとともに部屋に戻った。