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あれからクレインが何かと私の後をついてくるようになった。
別に子供でないのだから必要がないと言っても、聞く耳を持たない。
「クレイン・・・。図書室くらい一人で行けるわ。というか、人がいたら気が散って邪魔なんだけど・・・」
「そうですか?私は別に気になりませんけどね。それに読みたい本があるんです」
「・・・・・・嘘ばっかり。何なの?一体・・・・」
はぁっと溜息をついても、クレインは飄々としてる。
足はすっかり良くなり、護衛がなくても大丈夫だというのに・・・・。
「そういえば、最近リーナ様も訪ねてこられませんね?」
クレインがふと、思いついたようにそう言った。
そうなのだ。足が動かなかった時はほぼ毎日のように来てくれていたリーナも最近ぱったりと訪れてくれなくなった。今まで来て頂いてばかりだったし、自分から遊びに行ってみようとご都合を伺っても今は都合が悪いと取り合ってくれない。
「本当・・・。リーナ様どうしたのかしら・・・」
今まで来ていてくれていたリーナがぱったりと来なくなってしまって更に暇を持て余すようになってしまった。
そこで、最近はもっぱら図書室に言って本を読むことで時間をつぶしているのだ。
図書室に入り、いつもの場所に行こうと本棚の間を抜けているとそこから、人の声がした。
「・・・・いいか?誰にも気付かれてはおるまいな?これが失敗したら私たちは破滅だ。ばれないようにしっかりとやれ」
「・・はい」
どこかで聞いた覚えのある声だ。しかし、内緒話の様で声が小さすぎてよく聞こえない。
誰だったか思い出せずもう少し聞こえるところに行こうと一歩前に足を踏み出したら、こつんとヒールの音がしてしまった。
「誰だ!!」
とっさに本棚の影に隠れてしまったが、誰かがこちらに近づいてくるのがわかった。
「シュテルン国王女アリア様付の騎士クレインでございます」
反対側からクレインの声が聞こえた。
すると、こちらに向かって来ていた人物がクレインの方へ近づいて行った。
「・・・・・アリアーデ姫の騎士がなぜこのようなところをうろうろしている?」
低く警戒しているような声だった。
「はい。時間をもてあまされた我が姫より本を借りて来いと申しつかりましてこちらに来たのですが、はてさて、どこになにがあるのやらさっぱりと・・・・。今もこの本を探してうろうろしておりましたら、なにやら人の声がしたものですから、お伺いしようかと。失礼ですが、この本の場所をご存じありませんか?」
「・・・・・この本ならあちらの本棚だ」
「おぉ!そうでしたか!こんな広い図書室だと迷子になりそうですね。どなた様か存じあげませんが、ご親切にどうもありがとうございます」
「・・・うむ。・・・私はこれで失礼する。本を見つけたら早く姫のところへ持って行って差し上げるんだな」
「はい。そうさせていただきます」
そういうと踵を返し、入口の方へ向かう靴音がした。
「・・・・・アリア様」
声がする方へ顔をむけると、怒った顔のクレインがそこに立っていた。
「あなた様はどうしてこう次から次に危ない目に合おうとなさるのでしょうね?」
「・・・・これは不可抗力だわ。私は本を借りに来ただけなんですもの」
「盗み聞きをされようとしていたじゃありませんか。よりによってあの宰相様の」
そう・・・。あの声は宰相様だった。それから・・・・
「・・・・・クレイン、宰相様以外にももう一人いたのよ・・・・」
その人物の姿は見えなかった上、いつの間にか姿を消していた。
「・・・・他に誰もおりませんでしたが?」
「私も見てはいないわ。話はよく聞き取れなかったけど宰相様の言っていたことに返事をしていたわ。・・・・・その声は女性のようだったわ」
「女ですか・・・・。ミーナ様でしょうか?」
宰相は確かにこれが失敗すれば我々は破滅だと言っていた。
だとすると、親戚であるミーナである可能性が高い。
しかし、小声だったせいかミーナであるという確証はなかった。
「わからないわ・・・・・。でも、あの人達は何か企んでいるようよ。しかも、人生をかけるくらい大きな事みたいね」
「・・・・・また、危ないことに首を突っ込もうとされてはいませんよね?この国の問題に関わる必要はあなたにはありませんよ!!」
鋭い視線をこちらに向けてくるクレインに肩をすくめてみせた。
「何かあるかもしれないと知ってしまったのに、あなたはそれを見過ごせというの?」
「・・・でしたら、この国の誰かにそれをお伝えすればよい。あなたが関わる必要がどこにあるのですか!?」
「でも、相手はこの国の宰相様よ?誰が信用するというの?殿下?殿下は私を避けておいでよ?どうやってそれをお伝えするの?」
「・・・しかし、わざわざ他国の事に首を突っ込んで危ない目に合う必要はない!」
「・・・・クレイン。他国だろうが自国だろうが、宰相様が何かを企てておいでならばそれを見捨ててはおけないわ。あなたが嫌なのならば私一人でします」
クレインはアリアの強い目を見ると、はぁとため息をついた。
「・・・・わかりました。私も協力いたしますよ。しかし!アリア様が首を突っ込みすぎないよう見張るだけですからね!!」
「ふふ・・・。ありがとう。とにかく、宰相様が何をたくらんでいるのかを調べましょう。そして、もう一人の女が誰かを突き止めなきゃね」