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殿下の部屋に入ると、昨日と同じように2人になるように侍女や騎士を下がらせた。
「・・・・殿下。これはどういう事ですか?」
さっそく、殿下の前に昨日頂いた箱を取り出しテーブルの上に置いた。
「なんだ?気に入らなかったのか?」
「まさか!こんな素敵なブローチは見た事ありません。しかし、このブローチはとても重大な意味をもったものだとフィーナより聞きました!」
殿下はソファーに座ると傍にあったワインを口に含んだ。
「なんだ。あなたはそんな事を気にするのか?言ったはずだが?私は妃を迎えるつもりはないと。それを持っている意味はないからな」
やはり、大した意味をもって送られたものではなかった。
しかし、ブローチ自体には大きな意味がある。
殿下にその気はなくても他の者がみたらどうだろう。
「しかし、他の者に見られてしまったらどうされるおつもりなのですか?それこそ、無理にでも結婚をさせようとなさるのではありませんか?」
この国ではそういう意味だと皆知っているのだから。
「・・・べつにそう思わせてなんの不自由が?端からあなたが正式な婚約者だと思わせる作戦だったはずだが」
悪びれた様子もなくソファーでワインを飲んでいる。
「・・・それでは、他の候補者様達が皆いなくなった後はどうされるおつもりですか?」
そうだ。そこを聞いていなかったのだ。
とにかく他の者を諦めさせる為だけに協力をしていた。
私は私で他の者を選んでもらうようにと思っていた。
だが、結婚をしない。妃をとらない。という事は誰か残る事がおかしいのだ。
「・・・・それなのだが、この国には後継ぎとなるような者が今はいない。父は側室を持つ事はなかった為、子は私しかいないし、父の兄弟もリーナの母しかいない。リーナは他国の姫であるからこの国を継ぐ資格はないし例え、子を産んだとしても同じだ。残る親戚と呼べるものもかなり血が薄く継承出来る範囲にない。そこで、私はあなたに子をもうけて欲しいと思っている」
・・・・・なんと・・・・。
思考が追いつかない・・・。
殿下は今なんとおっしゃたのだろう?
「・・・・子を儲ける・・・?」
「そうだ」
「・・・それは、どういう意味でしょう・・・・。妃はいらないけど、子が必要と・・・?」
「・・・まぁ、そういう事になる」
「っっっっっ!!ふざけるのもいい加減にしてください!!私を何だと思っていらっしゃるんですか!?愛のない結婚も嫌なのに子を作れですって!?」
馬鹿にするのもいいかげんにしてほしい。
妃には用がない。だけど子供が必要?
何をいっているんだ?この人は?
「ふざけてなどいない。この国を存続させていくためには必要なことだ」
真顔で言いきる殿下に私は深いため息をついた。
「・・・殿下。本気でおっしゃっているのですか?それならば、少し頭を冷やした方がよろしいですわ!私、今日はもう部屋に帰らせて頂きます」
そういうと私はブローチを置いたまま車いすを扉の方に向け部屋を後にした。
あまりの事に私自身も何が何だかわからない。
どうして突然そんな事を言い出すのかも。
何か理由があるのだろうか?
でも、理由があったとしてもそれを受け入れるわけにはいかない。受け入れられるわけがない。
「・・・はぁ、まったくとんでもない事に巻き込まれてしまったわ・・・・」
あの時、テラスに出なければよかった。
どんなに目立ったとしてもあの喧噪のなかに紛れ込んでいればこんな目にも合わなかったのに・・・。
今更悔やんでも遅いのだが、私は悔やまずにはいられなかった。
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「・・・・・なぜ、俺はあんな事を言ったんだ・・・・・」
部屋に一人残された殿下。置き去りにされたブローチを見ながら頭を抱えていた。
自分自身、別に子が必要だとは思っていなかった。
だが送ったブローチをつける事もなく、なぜこれを贈ってきたのだと言われた。その上、候補者全員いなくなったら自分の役目は終わりだとばかりに言われた気がして、苛立ってしまったのだ。
「・・・最初からその約束だったはずだ。候補者がいなくなればアリアーデは返すつもりだ。それなのに・・・・・」
ブローチの意味を知らないアリアーデになら差し上げてもいいだろうと軽い気持ちで贈った。
しかし、意味を知ったアリアーデは受け取らなかった。それならそれで別にかまわないではないか。
候補者の事にしてもそうだ。最初から結婚するつもりなどないのだから、当然の事をアリアーデは言っただけだ。それなのに・・・・・。
自分の言った事の重大さが今になって身にしみてきていた。
あれではアリアーデが怒るのも無理はない。
おまえは子を生むだけでいいと言われて喜ぶ女がどこにいるんだ。その上、無理やりこの国に縛り付けている女にそんな事を言えば殴られても仕方ないくらいだ。
「・・・気づいたら口から出ていた・・・・・最低だな、俺は・・・・」
なぜあんな事を言ったのか、まったくわからなかった。
しかし、アリアーデを傷つけてしまった事だけはわかっていた。