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夕方、リーナが部屋にやってきた。
「アリア様、お怪我の具合はいかがですか?」
「ご心配おかけして申し訳ありません・・・。怪我は少しずつではありますが回復してきておりますわ」
「そう。良かったわ・・・。しかし、無理は禁物ですわよ?」
にっこりと笑うと本当に天使のような方だ。
「はい・・・。でも、全く動けないとする事がなくて退屈しておりますわ」
本当に昼間は退屈だった。が、次から次に起こる問題で今は頭がいっぱいだ。
「ふふふ。そう言われると思いまして私お勧めの本を持って参りましたの!ぜひご覧になって、さらにレオナルドお兄様をメロメロになさって!!」
差し出された本は『恋愛テクニシャン~これであの子もメロメロに!!~』と書いてあった。
「・・・・・あ、ありがとうございます・・・」
にこにこと天使が差し出す本を受け取る。
「ふふふ。アリア様がレオナルドお兄様をメロメロにしたら私のお姉様も同然ですわ」
リーナはすでに私と殿下が結婚すると思っている。
素直で可愛いリーナを騙しているのは心苦しかった。
しかし、先程フィーナにばれてしまったばかりでリーナにまで話すわけにもいかなかったのだ。
「・・・鋭意努力いたしますわ。こちらの本も参考にさせていただきますわね」
「えぇ!必ずお役に立てると思いますわ!」
にこにこと楽しそうにするリーナを見ながら、心の底から楽しめてない自分がいる事を申し訳なく思った。
だが、昼間のブローチの事がどうしても腑に落ちなかった。
「リーナ様・・・。私ちょっと小耳にはさんだのですが、こちらの王家では代々妃に伝わるものがあるそうですね?」
「・・・・ブローチの事かしら?」
小首をかしげるリーナ。
「ブローチなのですか?」
先程実物を見た上、現在は私の手元にあるのだが、知らないふりをした。
「そうです。私もお母様から聞いただけなので、詳しくは知らないのだけれども、代々王子自身で選んだ妃にはブローチを贈ることになっているの。それは、16の誕生日に自分がデザインをして職人に作らせるのよ。そして、真ん中には王家の紋章を刻むの。それを王子が妃にと望む相手に渡し、舞踏会でそれをつければOKのサイン。つけなければ結婚は出来ないという意思表示になるらしいわ。」
つまり、無理に結婚をさせる事はないということ?
「でも、それはここ近年ではあまりやっておりませんけどね。基本的には宰相を始め議会の承認と殿下の決定できまりますから」
・・・なんだ、じゃぁそんなに深い意味はないのかもしれない。
良く考えればそれが当たり前のことだ。
「そうなのですね」
「それに、これにはとても素敵なお話があるんですけど、話すと長くなりますからやめておきますわ。アリア様の体調を考えると早めに切り上げたほうがよろしいでしょうから」
「そんな。せっかく来ていただいたんですもの。ゆっくりなさって?」
「では、足が治りましたらゆっくりさせて頂きますわ。アリア様の元気なお姿を見れただけでも安心いたしました。ゆっくり養生なさってください。お食事ごちそうさまでした」
そういうと、リーナは席を立ち自分の部屋へと戻って行った。
結局、フィーナの言うこととリーナの言うことが多少違う部分もありよくわからなくなってしまった。
やはり、明日殿下に聞いてみることにしよう。
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「アリア様。そろそろお時間ですが?」
マリアは扉の前で待ち構えていた。
「そうね・・・」
また私の手の中におさまっているブローチを見て、はぁっとため息をついてしまった。
「アリア様。私はアリア様の望む事を応援致しますわ」
「ふふ。ありがとう」
望む事・・・・・。
今はとにかく殿下の婚約者を見つけ無事にシュテルン国に戻ることを望むだけだ。
その為に、殿下に協力をしている。
なのに、殿下が何を考えているのか全くわからない。
一体、私はどうすればよいのだろう。
これはただ単に手元にあるものがこれだけだったのだろうか。
意味を知らずに持っていたらどうなることだったか・・・・。
とにかく今は殿下にお聞きしたいことが山ほどあるのだった。
ちょうどその時、扉をノックする音が聞こえた。
そして、昨日の騎士とともにまた殿下の部屋へと向かったのだ。