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私の手元には先程殿下がおいていった小さな箱があった。
しかし、開けてよいものかどうか迷っていた。
「明日も時間を作れってどういう事かしら・・・・・。やっぱり休息の時間を作れという事かしら・・・」
殿下の真意を測りかねていた。
本当に休息の時間が必要なのか、それとも今日の事で何かお咎めがあるのか・・・・。
「アリア様?大丈夫ですか?」
殿下が出て行った後、あわててフィーナが部屋に入って来ていた。
「・・・えぇ。大丈夫よ・・」
「何のお達しもなく急にこられましたので、対応が遅れてしまい申し訳ありませんでした」
フィーナが頭を下げる。
「フィーナ。あなたのせいではないわ。気にしないで」
にっこり笑いフィーナの頭をあげさせた。
「アリア様・・・・」
するとまた扉が開きマリアが本を持ち戻ってきた。
「・・・・アリア様?どうかされましたか?」
相変わらずのほほんとした雰囲気を醸し出す子だ。
「マリア様。先程、殿下がお見えになられたのです」
フィーナがマリアにさっきあったことを話した。
「まぁ!!殿下は何をしにいらしたのです?」
マリアの顔は真っ青になり、持っていた本を落とした。
「マリア?そんな心配するような事じゃないわ。ただ、これを持ってきて下さったのよ」
先程から私の手の中におさまっている小さな箱を見せた。
「・・・こちらは?」
「さぁ?何かしら。たぶんガラス細工の何かだと思うんだけど・・・」
「開けて見られないのですか?」
「ん・・・。開けてもいいものかどうか迷っていて」
「・・・殿下から頂いたものを開けない事などあってはなりません。お返しするにしても一度中身を確認した上でお返ししないと失礼にあたります」
中身を見ずに送り返すなどもってのほかだ。しかも、殿下から頂いたものを返すとなるとさらに失礼になる事は良く分かっていた。
「・・・そうね。やはり開けなければダメよね」
手の中にある箱をテーブルの上に置き、ゆっくりとリボンを解いた。
「「「まぁ!!」」」
それを見た3人が同時に声をあげた。
「・・・綺麗・・・・」
中には卵くらいのブローチが入っていた。
細工は細かなところまで行き渡っていて、どこから見ても光を反射しきらきらと光っていた。
「素晴らしいですわ!!こんな素敵なもの見た事がありません!!」
マリアは興奮した様に目をキラキラさせていた。
しかし、マリアの隣りにいたフィーナはとても驚いた顔をしていた。
「・・・・これは・・・・・」
「どうしたの?フィーナ」
「・・・・・これは、王家方々のみ持つ事を許されたブローチではないでしょうか・・・。こちらの中心部には王家の紋章が入っていますでしょう?・・・・・・代々妃になる方に王子から贈られる物と聞いております。実物を見たのは初めてですが、話に聞いていたものと同じようです・・・・・」
フィーナは目が飛び出るのではないかと思うくらい吃驚している。
そして、私は頭をハンマーで殴られたような衝撃を与えられた気分だった。
「・・・・どうしてそんのようなものを・・・・・・」
殿下が私に好意があるそぶりなどかけらもない。
なら、なぜこんなものを持ってくるのか・・・。
それは、他の候補者達を諦めさせる為だと思い至った。
「アリア様!一体どういうことですか?これはフリではなかったのですか!?」
「マリア!!!」
口にしてはいけない事をフィーナの前でマリアは口にしてしまった。
「・・・申し訳ありません・・・・」
マリアは自分の失態に肩を落とした。
「・・・・アリア様?・・・・フリとは・・・・・」
フィーナは眉間にしわを寄せこちらを見ていた。
「・・・・・・はぁ・・・。フィーナこれから話す事は絶対に口外しないで頂戴。約束できるわね?」
少し強めに言い、フィーナは頷いた。
そして、今までの事をフィーナに話した。
「・・・・まさか・・・。そんな事が・・・・」
フィーナは話を聞き終わると顔を真っ青にしていた。
「・・・アリア様はそれでよろしいんですか?もしも、本当に殿下の御心が貴方様に向かれたらいかがされますか?」
「それはないわ。殿下は誰も選ばないとおっしゃってましたから。それに私、例えそうなるとしても他の方を選んでもらうよう進言するつもりだし」
何よりも、私は殿下に対して差し出がましい事しか言っていない気がする・・・。
そんな相手をわざわざ選ぶとも思えない。
頭から殿下が私を選ぶ事をしないと思っているので、うっかり聞き逃してしまった。
フィーナがとても心配していた事を・・・。
「・・・・しかし、殿下がフリだとしても誰かを選ぶ事をしたのは今回が初めてです。そしてこのブローチを差し上げる意味もご存知のはずです・・・・・」