27
長い廊下をマリアに車いすを押してもらいながら、右手を顎にあてうーんと考えていた。
「・・・・やはり、出すぎた事だったかしら。ついつい、気になってしまった事を言ってしまったけど・・・・」
それが口から洩れていたらしい。
「アリア様・・・。また、何かされたのですね・・・。どうして、貴方様はおとなしく出来ないのですか?」
後ろからマリアの怒りを含む言葉が投げかけられた。
「気になってしまったからついつい口が出てしまうんだもの。せっかくこんな素晴らしい国なのに、それを殿下の代で終わらせてしまうような事はもったいないじゃない・・・」
「はぁー・・・。アリア様はまったく、お人よしというかおせっかいというか・・・・。まぁ、そこがアリア様のいいところなんですけどねぇ」
また、ぶつぶつとマリアお得意の独り言だ。
しかし、先程まで沈んでいた気持ちも、マリアといると笑いがこぼれて楽になれるのだ。
こういう時間を作ってくれるマリアにいつも感謝していた。
「ふふ。いつも心配してくれてありがとう、マリア。あなたがいつも一緒にいてくれるから私もとても心強いのよ?」
「アリア様・・・。・・・・嬉しいのですが、今日はこれ以上うろうろしないでおとなしくしてもらいますからね!!」
照れ隠しの様にプンと横を向くマリアにくすくすと笑いながら、心癒されるこういう時間がずっと続けばイイのにと願っていた。
「・・・・そういえば、殿下からガラス細工のものを頂くの忘れてしまったわ・・・・・」
クレインの城下許可も下りず、ガラス細工も見れないと、がっかりするアリアであった。
*********************
部屋に戻るとリーナからの使者が来ており、夜、食事を一緒にしないかとお誘いを受けた。
車いすでうろうろするわけにも、マリアから釘を刺されていた事もあり、私の部屋で食事をしましょうと招待し、それまではおとなしく本を読んで過ごす事にした。
「・・・・・そろそろ、新しい本が欲しいわね・・・・」
本を読み終わり、閉じるとテーブルの上にそれを置いた。
「では、図書室から何かお借りしてきましょうか?」
横でお茶の用意をしていたマリアが声をかけた。
「・・・・そうね。そうしてもらえる?部屋でじっとしているのって退屈でしょうがないわ」
「アリア様?でしたら、お花や刺繍の練習をされてもよろしいんですよ?腕前はよろしいですのに全くそれが活かされなければ意味がないですからね!」
「・・・・あれは、致し方なくやっていただけだもの。淑女のたしなみとして一通りできないとエレナがうるさかったでしょう?長い時間かけてやりたくなかったし・・・・」
シュテルン王国にいた頃は、女官長のエレナにあれもこれも必要だ!と言われ時間に追われていた。
その頃に比べると今は時間が余り過ぎていて、部屋でおとなしく過ごす事のなかった私にはとても苦痛だった。
「ふふ。懐かしいですね。まだ、こちらに来て数日しかたってませんのに・・・」
「ホント・・。色々ありすぎてなんだかずっと此処にいるみたいだわ」
一日一日がとても濃い日を過ごして来ていた。それも、望まない事ばかりの・・・。
「・・・では、図書室で本を借りてきますから、どんなものがよろしいですか?」
マリアもそんな私が憐れに思ったのか、素直に本を借りて来てくれるようだ。
「そうね。なんでもいいわ。マリアが面白そうだと思うものを持ってきて頂戴。あまり数はなくていいわよ?重いでしょうから」
「かしこまりました。アリア様が退屈しないような本を持って参りますね!それまで、大人しくお待ちください!」
マリアは急いで図書室へ向かったのだ。
一人になり、することもなく窓の外を眺めているとノックの音が聞こえた。
「アリア様、殿下がお見えです」
扉の向こう側からマリアの代わりについてくれて以来こちらでの専属侍女となったフィーナの声が聞こえた。
「え?」
すると、返事を待たずに扉が開かれた。
「お邪魔します。アリアーデ姫。・・・フィーナ、下がってよろしいですよ」
殿下の後ろから慌ててついて来ていたフィーナに声をかけ下がらせた。
扉が閉まると殿下がこちらに近づいてきた。
「突然邪魔をしてすまない。先程、渡す約束をしていたものを持ってきた」
そういって殿下は小さい箱を私に手に置いた。
「・・・あ、ありがとうございます・・・・」
突然の事に私は驚いたままだった。
「あぁ。じゃぁ私はこれで」
すぐに部屋を出て行こうとする殿下に私は我に返った。
「で、殿下!これをお持ち頂く為にわざわざこちらまで?」
「・・・・約束だったからな」
殿下は後ろを向いたまま返事をした。
「・・・・私は殿下に差し出がましい事を申し上げました。これを頂く訳には参りません。私からは何もお返しできませんもの」
「・・・・ならば、明日もまた時間をつくれ。今日と同じ時間に迎えをやる」
そういうと殿下は部屋を出て行ってしまった。




