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「これは私の勝手に思うところです。殿下とはお考えが違うと思いますので、参考までに聞いて頂ければと・・・・」
念のため、前置きを置いてしゃべりだす事にした。
「・・・いいから、話してみろ」
「はい。では、殿下は町では何と呼ばれていらっしゃるかご存知ですか?」
「・・・知らん」
「そうですか・・・。貴方様は町の方達に『完璧王子』と呼ばれていらっしゃいます。それは、ご政務をほとんど全て一人でこなしてしまうからだそうです」
「ほう。あたらずとも遠からずと言うところだな」
「・・・・そうですね。でも、私はそれは完璧とは思いません」
きっぱりと言い切った。
殿下の眉がぴくりと動くのがわかった。
「なぜだ?」
「お仕事は完璧にされていらっしゃると思います。しかし、それではいけないのです。もし殿下がご病気になられたらどうしますか?もし、何かのご不幸で殿下がなくなられたら?」
「・・・・・・。」
「この国はどうなってしまいますか?貴方様一人がやっている事を急に臣下達にやれと言って出来るのでしょうか?」
「・・・・無理だろうな・・・」
「えぇ。例えその時は何とかなったとしても、いずれはどうにもならない事が出てきます。一人でされていた物を急に渡されても出来るはずはありません。だからこそ、あなたがいるうちに他の者を育ててください。そしてこの国を支える柱を一つでも多くしてみませんか?初めは仕事が遅く効率が悪くなるかも知れません。でも皆でやることで国を長く繁栄させていくことが出来るのではないのでしょうか?」
「・・・・・確かにその通りだ。しかし、必ずしもそれがいいとは限らない。そうすることで不正を働くものも出てくるだろう。そうしたら、貴方はどうする?この国をつぶすか?」
「もちろん、そういうこともあると思います。でもそこは殿下の才や見る目を活かして下さい。貴方様程の力があれば、不正など見破る事もできるでしょう?それに、すべての方が不正をされるとお思いですか?殿下には信頼出来る方はいらっしゃらないのですか?」
「・・・・・・居るにはいる」
「それならば、その方達を信用してください。すべて悪い方にかんがえないで、なんでも一人でこなそうとしないで、あなたの周りの者をもっと信用してください」
「・・・・しかし、信頼をして裏切られたら・・・?」
「・・・・人間ですもの。間違う事もあると思います。裏切られる事もあるでしょう。でも、そのたびに信頼をなくしてしまっては誰も信用できなくなってしまいます。裏切る人もいれば、貴方の事を助け、力になってくれる人も必ずいます。」
しっかりと私の話を聞いてくれた殿下に少しでも思いが伝わればと思う。
「・・・出すぎた事を申しまして申し訳ありません。しかし、これが私の思うところです。この国の為にも、殿下の為にも少し考えて頂けませんでしょうか?」
殿下はソファに座ったまま何かを考え込んでいるようだった。
あまりに言いたい事を言ってしまい、少し言いすぎたかと思うと居た堪れなくなった。
「・・・・では、私はこれで失礼致します。お疲れのところ不躾な事を申し上げてしまってすみませんでした」
私は車いすを動かし、扉へと移動した。
すると、後ろから手が伸びてきて扉が開いた。振りかえるとそこに殿下がいた。
「・・・・殿下・・・・」
「・・・・貴方の言う事も一理ある。私もよく考えてみよう・・・」
「・・・ありがとうございます。では、失礼致します」
車いすに座ったまま礼をし、部屋を出た。
扉が閉まると、部屋へ戻っているはずのマリアの声がした。
「アリア様!!」
「マリア!あなたもしかして此処で待っていたの?部屋に戻っていればよかったのに・・・」
「いいえ!アリア様が心配で部屋でじっとしている事なんてできませんでしたわ!」
・・・何を心配してたのかは謎だがここにいてくれたのは嬉しかった。
「ありがとう。では、一緒に部屋に戻りましょう」
「はい!!」
元気よく車いすの後ろに回り込みゆっくりと椅子を押しながら部屋へと戻った。