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「・・・それならば、私の持っているものをやる。他国の騎士が・・・・一人でうろうろされるのは少々困る」
「そうですね・・・・しかし、よろしいのですか?殿下の物ということはかなり貴重なものなのでは?」
やはりクレインの城下許可は出なかった。
しかし、ガラス細工の入ったものをやると言われても殿下が持っているものだ。きっと職人から献上されたものだろう。
「構わん。私が持っていてもただ置いてあるだけだ。それなら、あなたに飾って眺めてもらう方がその物も役割を果たすというものだ」
そういうのなら、ありがたくもらっておくことにしよう。
献上される程の物と言ったら市場で買う様な物とはまた違い、滅多にお目にかかれない素晴らしいものだろう。
「では、ありがたく頂戴いたします。しかし、ただでもらう訳には参りませんわ。私からも殿下に差し上げるものがあればよいのですが・・・・」
「そんな気にすることではない。使わないものを差し上げるだけだ」
「いいえ!そういう訳には参りませんわ。殿下は今欲しいものなどございませんか?」
「欲しいもの・・・か。特にない。まぁ強いて言うなら時間だな」
時間を差し上げることはさすがに出来ない・・・。
「・・・その時間は何に使われるんですか?」
「そうだな。ゆっくりできる時間があればいいがな。毎日宰相やら公爵どもが次から次に仕事をもってくるからそうはいかないがな」
ふぅとため息を着く殿下を見てあることが閃いた。
「では殿下、私からは休息の時間を差し上げますわ!」
「は?」
訝しげな顔で私を見る殿下。
「私と会う時間にゆっくりお休みになられて下さい」
「何を言っている。貴方がいるのなら同じ事だ」
「もちろん私はお傍にいるわけではございませんわ。あくまで会うフリをするのでございます」
「・・・フリ?」
「そうです。私と会っている間は2人きりにして欲しいとおっしゃればよろしいのです。その間は誰も立ち入らせないようにして。そして、私は殿下のお部屋に来てもすぐどこか違う場所へ参ります。もちろん誰にも見つからないように。そうすれば、殿下はゆっくりするお時間が出来ますでしょう?」
どうだ?というように胸を張る。
「・・・・そう上手くいくものか?大体貴方はどこへ行くというのだ?貴方が見つかれば全く意味がない」
眉間にしわを寄せ殿下はソファに身を沈めた。
「私は図書室に籠っております。先日、図書室でとてもいい場所を見つけたんです。そこならば誰かに会う事もなく上手く隠れられるでしょう。幸い私は本を読む事が好きですので何の苦痛にもなりませんわ」
そう。リーナと会ったあの日、リーナに出会う前にとてもいい場所を見つけていたのだ。
一人静かに過ごすにはとてもいい場所だった。
「・・・・だが、そこまでしてもらわなくても私はそれなりに休息しているが?」
「そうでしょうか?殿下の休息といえばあのお庭で少し横になるくらいじゃありませんか?」
それ以外で殿下が休んでいるところは見たことがない。
まぁ、王宮では休んでいるのかもしれないが・・・。
「・・・それで充分だ。他にやる事があるからな」
さらに深く眉間にしわを寄せ殿下は顔をそむけてしまった。
「いいえ!殿下がお休みにならないと他の者も休めません!何事も上に立つものを見て下の者は動いております。ですから、殿下が休まないという事は殿下の近衛も執務官様もお休みを取っていらっしゃらないという事ですわ。それでは、他の者もいざという時に頼りになりません。休息をしっかりとって体調を整えるのも仕事の一環だとお思い下さい」
息をする暇もなく一気に捲し立ててしまった。
「・・・・確かに、あなたの言うとおりだと思うが、私がやらなければいけない仕事が山の様にあるのだ。ゆっくりなど休んでおれん」
殿下はゆっくりとこちらを向き直ししっかりと私を見据えた。
「・・・殿下?もう少し他の者に頼ってみてはいかがでしょう?本当に全て殿下がなさらなければいけないのですか?」
「・・・どういう意味だ?」
殿下の顔はまたしかめっ面に戻ってしまったが、私は息を吸い、初めて殿下の事を聞いた時から思っていた事を口にした。