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あの後は最悪だった。
ミーナは視線で人が殺せるんじゃないかってくらい私を睨んでくるし、ナーシャは心にもない事を言って殿下の気を引こうと私にまで賛辞をよこす始末・・・。
その上、宰相様とリーナ様は冷戦のごとく周りを凍らせるし。
足の痛みよりもその場にいる居たたまれなさと言ったら比べ物にならなかった。
会食が終わって迎えにきたクレインが天使に見えてしまうくらい辛かったのだ。
「あぁ・・・・。疲れた・・・・。私、今までこれだけ疲れた会食をしたことがあったかしら?っていうくらい疲れたわ・・・・・」
「お疲れ様でございます。アリア様、今夜はゆっくりお休みください」
苦笑交じりに私を気遣うマリア。
「えぇ。そうするわ。明日は明日で殿下とお話をしなければいけないし・・・」
本当に、そろそろ息抜きでもしないとやっていられない位だ。
しかし、怪我をしてる足では城下におりることもままならない・・・。
せめてクレインにあの素敵なガラス細工でも買ってきてもらって心癒されよう。ちょうど明日は殿下にお会いするし、クレインの街に行く許可を頂くことにしよう。
そう思うと、今日の疲れからかあっという間に深い眠りに着いたのだった。
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「アリア様!殿下からのお迎えが参りましたよ!」
「そう。では行くとしましょう」
マリアに車いすを押してもらいながら迎えの騎士について行った。
すると、殿下の私室に案内された。
「・・・ちょっとお待ちください。騎士様。確か私たち妃候補は殿下の私室には入室できないこととなっておりますが・・・・」
「はい。しかし、殿下はこちらにお通しするようにとおっしゃられております」
昨日宰相に口酸っぱく言われていたのに、昨日の今日で殿下の私室に足を踏み入れても良いものだろうか?
しかし、殿下に来いと言われれば、他にどうしようもない。
「・・・・わかりました。直接殿下に申し上げます。とりあえず殿下のお部屋まで通してください」
騎士は殿下の部屋をノックし中へと促した。
「ようこそいらっしゃいました。アリアーデ姫。・・・あなたは、マリアでしたか?後は私がやりますので、下がってよろしいですよ」
「は・・。いえ、しかし、殿下にさせるわけには・・・・」
「マリア。殿下の言うとおりにして頂戴。私なら大丈夫ですから。後で迎えに来て」
慌てるマリアを諌め、部屋へと戻らせた。
殿下の従事者達もみんな部屋から出て行きまた殿下と2人になってしまった。
「・・・殿下。あなたの私室に入ることは昨日宰相様に止められたばかりですが?」
「ふん。あの古狸の言うことなど気にするな。あの場であなたを妃にすると言ったんだ。何の問題もない」
問題になるから申し上げてるのですがね・・・。
今日も何やらご機嫌が悪いようだ。
「それで、殿下、私に何かおっしゃりたいことがあるのでしょう?」
「・・・あなたのその怪我は誰かにやられたのか?」
「・・・はい?」
「・・・・誰かに怪我をさせられたのかと聞いている」
・・・なぜ殿下がその事を知っているのだろう。いや、正確には知らないのかもしれない。まだ聞いてくるということは・・・・。
「・・・先日も申し上げましたが、これは私の不注意で怪我をいたしました。誰かに怪我をさせられたわけではございません」
「しかしっ・・・・・。そうか、それなら別に良い」
何かを言いかけていた様だったがそれ以上は何も言わなかった。
「・・・気にかけて下さったのですか?」
「まぁ、怪我をしたのなら気にはなる」
素直じゃないな・・・。
「ふふ。ありがとうございます。歩けないのは残念ですわ。城下に行きたくても行けませんもの」
「そなた、また街に行こうとしていたのか?」
殿下は呆れた顔になった。
「もちろんです。この国の事を知るならやはり本よりも私の目で見て聞いて知りたいのです。でも、今はそれができません。ですから殿下、クレインを街にやってもよろしいでしょうか?」
なぜか殿下はまた厳しい顔になってしまった。
「・・・あいつをか?なぜだ?」
「私が街に行けない代わりにガラス細工のものを買ってきてもらおうかと思いまして」
クレインなら喜んで買いにいくだろう。しかし本当はクレインを行かせたくなかった。
そのままガラス職人に交渉し始めてしまうとなかなか帰ってこなくなる可能性が高いからだ。