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「どうぞ、熱いので気をつけて下さい」
「ありがとう。マリア・・・、私やはりこのお話をお受けするの早まったかしら・・・」
「いいえ、そんなことありませんわ。アリア様はお断りできる状況ではなかったのですから」
2人の候補者と会ってこの国の将来を考えると少々頭を抱えてしまう。
だからと言ってやはり私も妃にはなれない・・・・。一体どうしたものか。
「しかし、もう一人の候補者様がいらっしゃいますわ、アリア様。もう一人の候補者の方は本日まだこちらにご到着されておられないようです。もともと、パーティーにも出られてなかったようですね・・・・」
「あら。そうなの?一体どういう方なのかしら」
花嫁候補のパーティーに出席していないのに候補に上がるとは一体どういう人物なのだろう。
「えぇ。なんでも、陛下の妹様のご息女だそうで、殿下の従妹様になられるようです。それに、侍女長様が言うには、それはもう見た目の美しさもさることながら、内面の美しさも素晴らしい方だそうですわ!」
そんな素敵な方がいるのならば、候補など募らなくてもよかったのではないのだろうか?
しかし、そんなことよりも殿下に相応しい候補者がいる事の方が嬉しかった。いや、あの殿下にはもったいないのではないだろうか?
「そんな素敵な方がいらっしゃるなら一安心ですわね。ご到着予定はいつ頃になるのかしら?」
「明日ご到着予定との事です」
「そう。到着してすぐご挨拶に伺ったら大変でしょうから、明後日ご挨拶に伺う旨を伝えて頂戴」
「かしこまりました」
「それでは、今日はもう用事も終わったことだし、少しこの城の中を歩いてみたいのだけれどいいかしら?」
「城の中であれば問題ありませんよ。こちらのお庭はとても素晴らしいそうなので、見に行かれてみてはいかがですか?」
「ええ!そうね。行ってみるわ」
城下に下りることはかなわないが、外の空気を吸いたかった。
後宮の中で日の良く当たる場所に、緑豊かで、花が綺麗に植えられ中心には噴水が置かれている綺麗な庭があった。
「まぁ!素敵!とても心癒されるお庭だわ!」
母国を思い出すような綺麗な庭にアリアの心も弾んだ。
「あら・・?」
庭を歩いていると噴水の淵に寝転がっている人物がいた。
「・・・・・・殿下・・・・」
そこにいたのは紛れもなくレオナルド王子だった。
「・・・アリア姫か」
体を起こしながらこちらを見た。
「・・起こしてしまいましたか?こんなところで横になられたら風邪をひかれますよ」
噴水の水しぶきがいくら気持ちがいいといえども、横になるような場所ではない。
「少し休憩をしていただけだ。此処は静かで気持ちがいいからな」
「えぇ、本当に。こちらのお庭は本当に素晴らしいですわ!」
それぞれどこから見ても花が見え緑が見えるよう計算して作られていた。
「・・・・花が好きなのか?」
そんなに態度に出てたのだろうか?
「はい。・・・というより、自然が好きなんですわ。シュテルン国は自然豊かな国なのです。その中で育ったせいかもしれませんね」
緑豊かなシュテルン国や町の人々を思い出し、思わず顔が綻んでしまう。
「・・・そなたは、本当に国が好きなのだな」
「えぇ。もちろんですわ。殿下もそうでしょう?こちらの国や人々を見ればわかりますわ。街へ下りた時、人々は皆とてもいい顔をしておりました」
「・・・・そうか。そう見えたか・・・・」
心なしか少し嬉しそうな顔をしたように思えた。
「はい。私にはそう見えました。しかし、今回の事で良からぬ者が現れた事が非常に残念です。街の方々に被害がなければよいのですが・・・・」
先程の表情が一転し、殿下の顔が急に険しくなった。
「あぁ。他国を招くということは、トラブルもいつも以上に警戒しなければならない。それがわからないはずがないのに、こんな事をするとは・・・・」
そこまで言うと急に黙り込んでしまった。
何か、自分を責めている様にも見受けられる。
しかし、この沈黙は重い・・・・。
「・・・殿下!そういえば、殿下の従妹様がお妃様候補とお伺いしましたが?」
考え込んでいた殿下もふと思い出したように顔をあげた。
「あぁ。その事もあったな。なぜ急にリーナが出てきたのか私も不思議でならない。まったく宰相達は何を考えてるのだか・・・・」
「あら!でも、とても素敵な方だとお伺いしました。その方が殿下の妃候補ではダメなのでしょうか?」
「リーナは妹も同然だ。そんな風に考えた事はない。大体、妃は私には必要ない」
そういうと、殿下は急に立ち上がった。
「少ししゃべりすぎたようだ。貴方も風邪を引かないうちに部屋に戻った方がいい」
王宮に向かって歩いていく殿下の後ろ姿を見送りながら、何かまずい事を言っただろうかと不安になった。
殿下は色々大変なんですね・・・・。