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予定ではパーティの後2泊するだけだったはずなのに、なぜか王子の花嫁候補に選ばれてしまった。
その為、王子が正式に婚約者を決めるまで、この国に滞在することになった。候補は私ひとりかと思いきや、宰相様をはじめ重臣の方々からも候補を選んだとの事だ。それによって王子の妃候補は全員で4名となった。
「あの王子の言ったとおりだわ。これから一緒に暮らすなんて・・・・。先行きが不安だわ」
候補者達は離宮から後宮へと移ることとなった。
何度も言うようだがあくまでも候補だ。その為、後宮にある妃の部屋には誰も移ることはなかった。
「しかし、2泊のご用意しかして参りませんでしたので、先程一緒に色々と頼みましたが、それまでの間は如何いたしましょう?」
「そうね。必要なものをリストアップして頂戴。こちらの侍女長様にお願いしましょう」
「かしこまりました。それから、アリア様、他の候補の方達からご挨拶に伺いたいと承っておりますが、そちらは如何いたしますか?」
「お受けして頂戴。こちらからも伺わなければと思っていたから」
きっと彼女達からすればライバルの一人と思われるだろう。
しかし、私としては彼女達の中から正式に選ばれてもらわないと困る。張り切って応援するつもりだ。
「・・・・アリア様。また良からぬ事をお考えなのでは・・・?」
またか。そんなに顔に出ているのだろうか・・・・。
「・・良からぬ事ではないと思うけど・・・・」
「よろしいですか?アリア様、他の候補者様方は妃になる為にピリピリしておられます。火に油を注ぐような発言はくれぐれも注意なさってくださいね」
アリアの考えなどお見通しのように、マリアはアリアに釘をさした。
「えぇ。十分気をつけるわ。うふふ」
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マリアが扉を開け部屋に入ってきた。
「失礼いたします。ハリュー公爵様ご令嬢ナーシャ様がお見えになりました」
「お通しして頂戴」
マリアに促されて入室してきたのは、真っ赤なドレスを身に纏い、これでもかという位の宝石を散りばめたアクセサリーを付けたフィルナリア国ハリュー公爵の娘ナーシャだ。
「お初にお目にかかります、アリア様。私、ナーシャと申します。以後お見知りおきを」
「ようこそお越し下さいました、ナーシャ様。わざわざご足労頂きありがとうございます。どうぞこちらへおかけになって」
そういうと、ナーシャは向かいの席に座った。
「アリア様。こちら城下で今話題となってますお菓子ですの。よろしかったら、あとで召しあがって下さいませ」
綺麗に包装された包みをテーブルの上に置いた。
「まぁ!ありがとうございます。後で頂きますわ。ナーシャ様、紅茶はいかがかしら?」
「えぇ。頂きますわ」
マリアに紅茶を2つ淹れてもらった。
「今回はお互い大変なことになりましたわね。でも、私は幼いころから殿下をお慕いしてましたからとっても嬉しいんですの」
笑みを見せるナーシャだが、どこかこちらを観察しているようだった。
「そうなんですか。私、パーティで初めて殿下にお会いしたんです。とても素敵な方ですわね」
そう思ったことはないが・・・・
「えぇ!本当に。小さい頃から次期国王様としての才を存分に発揮されてましたわ。私も父について城に上がるときにはいつも殿下と一緒にいましたの」
「まぁ、そうですの。そんな小さな頃から親しくされてらっしゃるんですのね」
「いえ、そんな親しくだなんて・・・。でも、そうかもしれませんわ。私、一番殿下の事をわかって差し上げられると思いますもの。・・・あら、失礼。アリア様は先日お会いしたばかりですものね。これからですわ」
ホホホ、と笑う声がなんとも自慢げだ。
別にわかりたいとも思わない。むしろ、しっかりそれを殿下にアピールして欲しい。
「えぇ。ナーシャ様ならきっと殿下の支えになれると思いますわ。私なんてまだまだ殿下の事存じあげませんもの・・・」
その言葉にさらに満足したらしい。
「そんな事ありませんわ。アリア様の様に素敵な方が側にいらっしゃったら殿下も気にかけて下さいますわ」
すでに、自分の殿下だと言わんばかりの発言だ。
「えぇ。私も頑張ってみますわ。お互いの立場は色々ありますけれど、どうか仲良くしてくださいね、ナーシャ様」
「えぇ。もちろんですわ。こちらこそよろしくお願いします」
ナーシャは自分など相手ではないと思ったのだろう。
気分良く部屋を後にして行った。
4人も候補がいるとは・・・
王子も大変だな・・・