第三話ver.2「救出」
執筆者;Y
先刻の喧騒を残して広場を離れた二人は、薄暗い裏路地の廃墟へと逃げ込んだ。
「すんませんアリスさん。わしなんかのために……」
禿げ頭の男性が、自分をここまで担いでくれた女性に言った。
「気にしなくていい。これは、私のせいだ。子供一人に情けを掛けて、同志の命を危険に曝した」
匠人を蹴り飛ばした彼女は、目付きこそ相変わらず鋭かったが、その口調に先程の様な棘は含んでいない。
「……少し待てるか?降ろすぞ」
「へぇ、それは構いませんが、いったい――」
「おうおうテメェら、ここがどこだか分かってんのかぁ?」
アリスと呼ばれた女声が彼を降ろそうとしゃがむと、声と共に陰から不作法な男達が現れた。
「無視してんじゃねぇぞ!」「俺らチーム・ジャッカルをナメんじゃねぇ!」
彼らは、依然落ち着き払った様子で立ち上がる彼女に、威圧的な文句をがなり立てる。
しかし、それがかえって滑稽で、彼女は嘲笑を漏らす。
「耳障りな鳴き声だ」
「何だと!?」
「もう少し雄々しく吼えることだ、子犬ども」
「ふざけやがって!」「覚悟はできてるんだろうな!」
角材を振り上げて駆け寄る彼らの先頭が、もんどりうって倒れる。
「ぐあぁ……」
膝を押さえる手を血で赤く染めながら苦しむ仲間に、他の仲間達も思わず立ち止まった。
「テメェ!こんちくしょう!何しやがった!!」
痛みに涙を浮かべながら半狂乱で叫ぶ、床の彼を見下して言う。
「これが『覚悟』だ」
抑揚の無い声が機械的に意味を紡ぐ。
「立ちふさがるもの全てを破壊し、先へと導く覚悟」
アリスの冷たい灰色の瞳に、その『覚悟』に、彼女の同志を含む全ての人間が凍りついた。
「まだ生きたい奴は逃げるがいい」
先程の一瞬の内に右手に握っていた延長された鉄塊を、彼らから逸らして言う。彼らの『覚悟』は、凍りついた時間と共に、脆くも崩れ去った。
一身上の都合により、今回から隔日投稿とさせていただきます。ご了承ください。詳しくはこちらで→http://ameblo.jp/hiddennight/entry-10817552819.html