第二話其の一 「こんな時でも自己紹介」
「ここまで来たら十分だろ?」
匠人は先程の場所からかなり離れた公園にいた。
「で、これからどうする?」
少女は着ているローブをたくし上げて、下に着ていたシャツを破ったもので脇腹の傷口を縛っている。
シャツの下には何も着ていないため、ミルク色の素肌が大胆にさらされていた。
「どうするって、これ以上一般人のあんたを巻き込む訳にはいかないわよ。後はあたし一人で大丈夫だから、あんたは帰りなさい」
「……」
黙って少女を見つめ続ける匠人に対して少女は眉をつり上げた。
「何よ?」
「いや、可愛いなと思って」
それを聞いた少女の顔が真っ赤になっていく。
「っ!?バ、バ、バカ!!あんた何言ってんの!?あたしの話、ちゃんと聞いてた!?」
「いや、悪い。聞いてなかった」
ケロッとした顔でそう答える匠人に少女は口をとがらせた。
「まったく、何で私の話を無視してそんなこと言い出してんのよ。人の話はちゃんと聞きなさいよね」
「だから悪かったって。で?何て言ったんだ?」
「後は一人で大丈夫だから、もう帰ってって言ったのよ」
その言葉に匠人はしばらく黙り込む。
「本当に大丈夫なのかよ?」
「うっ!?だ、大丈夫に決まってるじゃない!!だいたいあんたもさっき、ここまで来れば大丈夫とか言ってたじゃない!!」
少女の言葉に匠人は首を横に振った。
「あれは、話し合いの時間ぐらいはあるなって意味なんだよ。それに、お前さっきやられてたじゃん?」
「あれは油断したのよ!!」
少女が反論する。
「それじゃあ、今度も油断するかもしれない」
「もうしないってば!!」
「何にせよ、一人より二人だ。違うか?」
匠人は少女に笑いかける。
「今があんたが元の世界に戻れる唯一のチャンスなのよ!?それともあんたは見ず知らずの人間と一緒に奈落の底まで落ちれるって言うの?あたしを助ける理由なんてあんたにはないでしょ?」
突き放すような言葉に匠人は目を瞑り黙る、そして目を開けてから閉じた口を開き問いかけた。
「人を助けるのに理由なんているのかよ?」
「へ?」
「お前は困っている人間が目の前にいるときに自分が目の前の人間を助ける理由がないと助けないのか?違うだろ?理由なんて二の次だ。助けたいと思う気持ち、それさえあれば十分だろ?」
少女は目を大きく開けた。
「あんたの人生が大きく変わってしまうかもしれないのよ?今ここであたしを置いて立ち去れば、あんたは普通の平和な未来を過ごすことができるのよ?」
「それが何だよ?その普通の平和な未来で俺はお前を助けなかったことを後悔するかもしれないだろ?やらずに後悔するよりはやって後悔した方がマシだ。奈落の底だろうがどこだろうが一緒に行ってやるよ。行ってから一緒に後悔しようぜ?」
そう言いもう一度笑いかける匠人に、今度は少女も笑い返した。
「あんたかなり変わってるわね」
「よく言われるよ。俺は霧岡 匠人」
匠人は手を差し出す。
その手を少女はしっかりと握った。
「シルフィア ヴァルディよ。キリオカ ショート?変わった名前してるわね?」
「それもよく言われる。お前が何故あんな奴に狙われてるのかとか聞きたいことがいっぱいあるんだけどよ。今はそんな場合じゃないから後で聞くよ。それよりこれからどうするんだ?」
「仲間の所に行こうと思ってるんだけど……たぶん逃げ切れないわね」
シルフィアは少し顔をしかめた。
「まず無理だろうな、あいつしつこそうだし」
「となると……」
匠人とシルフィアは顔を見合わせる。
「やるしかないよな」
二人が頷き合ったその時、声が届いた。
「この私から逃げられるとでも思ってたのか?」
人を馬鹿にしたような笑みを顔に張りつけて、金髪の男が現れた。
「思ってねぇよ」
「ほう?じゃあ、覚悟を決めたのか?」
ますます張りついた笑みが激しくなる男に匠人も笑い返した。
「ああ、お前を倒す覚悟がな!!」