第一話ver.2「幸せのおすそ分け」
本作品の作者は第一話其の一とは異なりますが、本作品は第一話其の一と同じ時系列です
「みぇむふぁふぃいふぁっふぉうみふぇむんふぁふぇー」
明るい場所で落ち着いて見れば、確かにそのような印象を受ける。
「誰を呪っているんだか」
黒いローブを羽織った『おうじさま』は、自分の携帯食で頬を膨らましながら懸命に「珍しい格好してるんだねー」と伝えようと呪文めいた言葉を唱える少女を眺めて、一人ごちた。
「……む!無視しないでよー」
次の携帯食の包みを開きながら、今だけ限定的に空の口で少女は言う。
「その格好で褒められてもなぁ」
今までが今までだっただけに仕方ないことではあるのだが、ボロ布のワンピースを着た奴がファッションアドバイザーというのは、ちょっとありえない話だ。
「むー!」
「お、また頬が膨らんだぞ?一応非常用なんだから、そんなにがっつくなよ」
「食べてないもん!」
怒って脹れていた口腔内を、食事中である彼によく見せつける。
「はいはい、わかったわかった」
そんなことは最初から分かっていた『おうじさま』はそう言って続ける。
「しかしな、別にローブは珍しくもなんともないんだぞ?私は、お前を助ける前に、『釣られた男』とやらを探していた白いローブの女に、見なかったか、と尋ねられたりもした」
「じゃー、そのとんがり帽子は?」
「オシャレだ」
「首に巻いてるそれは?」
「ファッションだ」
「だから、その辺がズレてるって言ってるんだよー」
それを聞いた『おうじさま』の表情が一瞬曇ったように見えた。言い過ぎちゃったかな、と陰る少女の顔に、彼は笑顔で応える。
「そうか?私はとってもカッコいいと思っているんだがな」
さて、とカップを空けて続ける。
「今度はこっちも色々聞かせてもらうぞ?」
「何でもこーい!」
無い胸を叩く少女。彼女はどこから来たのだろうか?なぜ来たのだろうか?どこへ行くことができるのだろうか?おそらくそれは、身寄りの無い奴隷少女にとってはあまりに残酷な質問。
一度手を差し伸べてしまった以上、決して引くことはできない。決して退くことは許されない。
――巻き込むなら、最後まで。
彼の、唯一師と仰いだ人の言葉が、脳裏を横切る。
私はこの子を救った。しかしまだ救えてはいない。
「何よー?はーやーくー」
こっちの気も知らずに、と彼は思わず笑みをこぼす。そうだ、服を買ってやろう。ついでに風呂にも入れてやらないとな。
目の前で振っていた手を新たな包みに伸ばす少女に聞いてやった。
「いつまで食べる気だ?」