第一話其の一 「逃走からの逃走劇」
この作品は、各話、二話ずつで進行していきます。若干分かりにくいかもしれませんが、1と2で同時に物語が展開していく仕組みです。こちらはプロローグ1の作者の作品というわけですね
「出会いが欲しい」
そんな聞いてて悲しくなるようなことを霧岡 匠人は呟いた。
先程、非行少年に追い回され、挙げ句の果てには訳の分からない女に蹴り飛ばされた匠人は救いようがないぐらい心が弱っているのかもしれない。
現在の時刻、十二時二十八分。
今から行くのもなんかだるいし、今日はもう学校は欠席でいいや。
疲れたようにため息をつき、学校とは反対方向へと歩き出す。
「しっかしなぁ……」
どうせハプニングに巻き込まれるならもっと面白いものの方がよかった。そう、感動や冒険が待ち構えていてヒロインもついてくるやつの方が。
先程母親を見つけてやった迷子の子供がくれた飴を口の中で転がしながらそう思った匠人だが、目の前の光景を見て絶句した。
確かにそっちの方が良かったとは思ったが、別にこんなものを頼んだ覚えはない。もし神様とやらの仕業だとするなら、大迷惑だ。余計なお世話だ。
「ねぇ、ちょっとあんた」
突然背後から声をかけられた。
「ハ?」
「ここら辺で男が吊られてなかった?」
振り向いた先には少女がいた。
この街では珍しくもなんともない白いローブを着ているが、絶対人目をひくであろう少女だった。ようは、それぐらい可愛い少女だった。
少女はフードをつけていないのでその端正な顔を匠人はマジマジと見ることができた。
「おぉう!?」
「何が、おぉうよ!!あたしの話聞いてたの!?」
少女は顔をしかめた。
肩より少し長いぐらいの明るい茶色の髪が揺れる。
宝石のような緑色の目には非難の色が浮かんでいた。
「……」
「ねぇ!?ちょっと聞いてるの!?」
「あ、ああ聞いてる。ここで吊られてた男ならさっき変な女に浚われていったぞ?」
「ああ、もうっ!?遅かった!!あーあ、フレアに怒られる」
少女が溜め息をつく。
「あの男に何の用があるんだ?」
匠人は尋ねてみた。
「あんたには関係ないわよ。っと!?用事ができた。それじゃあね」
少女は誰もいないように見える背後を睨んだ後、片手をあげて走り去った。
「おい!?ちょっと、お前どこ行くんだよ!?って、クソ。もう見えねぇ。まぁいっか帰って寝よ」
少女が走り去った方向を通っても匠人は家へと帰ることができる。
なので、少々遠回りだが少女が走り去った方の道を歩きだしたのだが、徐々に違和感を感じ始めた。
向かい風に吹かれながら歩いているような感覚だ。
「……人が全くいねぇ。珍しいこともあるもんだ」
いつもはこんなことないのだが昼間なのに人気が全くない。
「おや?人避けの魔法陣を描いておいたはずなんだが、それを無視して通ってきたということはお前はパーセンテージが高い人間なのか?」
「ハァ?」
全く人気のなかったはずの場所から声をかけられ、一瞬反応に遅れる。
「別の組織の人間ってのはなさそうだ。黒髪に黒目か、珍しいな?元は東洋の血筋か?今時、どこの地域の人間か見分けがつく奴は本当に珍しい」
黒いローブを着た金髪の男が匠人の前に立っていた。
だが、匠人の目は男を見ていない。その目は男の足下を捉えている。
先程匠人に声をかけた少女が赤い水溜まりに沈んでいた。
最初は何かの冗談かと思った。
壮大ないたずらかと思った。
だが、そんなはずがない。そんな訳がない。
「お前……、一体そいつに何をした!?」
「あ?お前が気にすることじゃない、立ち去ってくれていいぞ、一般人。何の関係もないだろう?」
確かに匠人とあの少女は何の関係もない。ほんの少しの間言葉を交わしただけだ。
だが、放っておけるはずがない。放っていいはずがない。
「そいつに何をしたんだって訊いてんだよ!!」
怒鳴り声を上げる。
「やれやれ、めんどくさいタイプの一般人か。私は他の組織の人間が現れる前にとっとととんずらしたいんだが、放っておいても面倒だ。ここで消すか」
男が手を伸ばすと突然黒い腕が宙に現れて、匠人の首を掴もうとする。
「っ!?ふざけやがって、こちとら路上喧嘩には馴れてんだ!!」
身をかがめ、男の懐へと走りだす。
「遅い」
「遅くない!!」
今度は頭上から振ってきた黒い腕を間一髪でかわし、少女の体をすくい上げる。
「んっ……」
小さな呻き声がした。
どうやら傷はそんなに深くはないようだ。
「大丈夫か?」
一安心した匠人は走りながら腕の中の少女に声をかける。
傷口が痛むのか顔をしかめたまま少女は薄目を開けた。
「ん……!?あんたは!?」
「よう、また会ったな」
匠人は少女に笑いかけた。
「何であんたがここに!?ここにいると危険なのよ!!早く逃げなさい!!」
「その心配はねぇよ」
「へ?」
少女はキョトンとした表情を浮かべる。
「もう逃げてる。安心しろ、俺はお前の味方だよ」
「!?」
ようやく少女は現状を確認したようだ。 後は逃げ切るだけだ。あの男は人避けの魔法陣などを描いたらしいから、その魔法陣の外まで出ればひとまずは安全だろう。
「逃げ切れるとでも思ったのか?」
背後で男が笑う声が聞こえ、黒い腕が匠人を掴もうとする。
が、匠人の動きが速くなった。まるで二倍になったような速さで匠人は黒い腕の間をすり抜け、先へと走る。少女を腕で抱えて。
「何が起こった!?クソッ、逃がしてたまるか!!」
その背を男が追う。