第十四話 「潜入」
書いた人;UMA
やたら強いちっこいのに言われて、匠人は大きな建物の中にいた。
「牢屋を探して奴隷を解放しろなんて簡単に言ってくれやがって」
匠人はこそこそと周辺を警戒しながら進まなければならない。
彼は、あのちっこいのやスピアとは違い傭兵くずれのひとさらい達と1対1以上で戦って勝てる力などもっていなかった。さらに今は仲間とあまりにも離れすぎてしまっているから、彼の力は喧嘩馴れしている普通の子供にすぎない。
立ち向かえば、人を救えるのならともかく、何も変わらない状況で真っ正面から突っ込んでいく気にはなれない。
突然、壁に背をつけながら前に進んでいた匠人はバランスを崩してひっくり返った。
「っ!?」
驚いて辺りを見渡すと、先程の所ではなく別の場所にいるではないか。目の前にあるのは下へと続く階段だったのだ。
「ああ……ベタな展開な」
何故こんなことになったのか理解した匠人は後ろの壁を押す。
後ろの壁は回転扉だった。
「さて……と」
階段を下りていくと、声が聞こえてくる。
「おい、こいつも入れておけ」
「ケッ、薄汚いガキだ。しかも、こいつ国の犬じゃないですか?兄貴、やっちまいましょうよ」
「やめておけ、上にバレたらめんどうだ」
様子を窺ってみると、アップルが牢屋に入れられてるではないか。さらに、ぐったりしているところを見ると気絶しているらしい。
「あの野郎……」
思わず呟いた。
組織の上の人間、奴隷商人は私が潰す。お前は奴隷を解放しておけ。と、言っていた彼女が逆にやられて捕まってしまったのだ。
助けた上に奴隷商人も潰さなければいけない。しかし、今の味方がいない自分にアップルを負かした奴を倒せるとは思えない。
「さて、どうする?」
見張り番の様子を見張ってみたところ、さっきから片方はお茶ばかり飲んでいる。酒、という可能性もないことはないが恐らくあれはお茶だろう。グラスに霜がついていない。
「ってことは相手は二人とも素面と考えた方がいいな。先に潰した方がいいのはさっきから水分補給ばっかしてる方。まさか、学校の授業の雑談がこんな時に役立つとは」
そう言って匠人は苦笑する。
心理学では、攻撃的な人間ほど喉が渇きやすいというデータがでている。
ならば、先に水分補給ばかりしている方を不意打ちで倒していた方がいいだろう。
さらに有利なことに、地下だからか下は床ではなく土だ。これなら少しはまともに戦えるかもしれない。
「さぁて、やりますか」