第十二話「撃破」
UMA
「もっと速くだ!!」
赤い自動二輪車の上でアップルを急かしながら、匠人は初めて冷静に頭を働かせていた。
力が上がらない。
自分の力の効力を知っている彼にとってそれはアップルを疑うに足る理由だった。
「振り落とされるなよ?」
さらに自動二輪車が加速する。
力が上がらないということは自分はアップルに仲間とみなされていないということだ。本来、人は信じたら信じてもらえる。と考えている匠人だったが、今回は何故か信頼する気になれない。
「まぁ、シルフィアみたいな奴ばっかじゃないってことは分かってたけどな」
小さく呟いた。
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
「敵も時間よりは親切なようだな」
自動二輪車は馬車と併走することに成功していた。
「んじゃ、行くか」
アップルは馬車を操っている男に向かってニヤリと笑う。
「休みをお届けに参りました!!」
匠人は馬車へと飛び乗る。そして、目の前にいる男を蹴り飛ばし、荷台へと放り込む。
「切り離すか。なぁ、ナイフを持ってないか?」
アップルへと話かけた。
「残念ながらあるぞ」
「貸してくれ」
ナイフが匠人へと放り投げられる。
匠人はそれを使って馬と荷台を切り離した。
「何しやがる!!」
怒号が匠人へと飛ぶ。
「奴隷制度か……クソ食らえだ!!」
馬車の荷台へと飛び乗り、中の村人を人質にされる前に男達を外へと投げ捨てる。
「何で俺達の邪魔をする!?食糧の支援は足りない!!家は壊れた!!土地は死んだ!!どうせこいつらほっといても野垂れ死んでたんだ!!もちろんこうでもしないと俺達もおまんまにありつけない!!俺達はこいつらを有効活用しただけだろ!?商人のとこに人を売るのは俺達だけじゃない!!あんまりだ!!」
最後の男の悲鳴じみた声を聞きながら、匠人は顔をしかめた。
「ほんと世の中不条理だよな。でもな、例えそれでも他人を蹴落としていいわけがないだろうが!!身勝手なのは分かってる。だからこの身勝手で、商人ごと潰してやるよ!!恨むならこんな巡り合わせにした神か悪魔にしてくれ」
同時刻
ジオ ラターチは一人の小太りの男と向き合っていた。
「お、おらのせいじゃねぇ!!おらはただ、あいつらに話してやっただけなんだって!!」
男はビクビクと怯えながら後ろに下がっていく。
だが数歩下がったきり、それ以上後ろには下がれなかった。壁があったのだ。
「金に目がくらんでだろう?」
ジオのナイフが小太りの男の腹を切り裂く。
「ひぃっ!?」
男は素っ頓狂な声を上げて地面に座り込んだが、切り裂かれた腹部から血はでていない。血の代わりに金貨が音をたてて転がり落ちた。
「てめぇの言い訳とかはどうでもいいんだよ。あいつらに喋ったこともだいたい分かる。ただなぁ、一つ気になることがあんだよ」
「な、何だ!?金なら払う!!そうだ半分こにしよう!!な?」
焦っている男にジオは尋ねた。
「何でてめぇまだ生きてる?」
「ハ?」
男は口を開けたままの間抜けな表情をうかべる。
「何でまだあいつらに殺されてねぇ?情が芽生えたのか?いや、ありえねぇな。だとすると……」
「ジオ、お客さんだよ」
ギーザが後ろから歩いてきて言った。
ジオが振り返る。
「どこのどいつだぁ?」
その隙に男は逃げだそうと走りだした。
直後、矢が男の足下に突き刺さる。
「逃げるって言うのなら、次は当てるわよ?」
復讐少女が弓を構えたまま男ににっこりと微笑みかける。
この状況じゃなければ見惚れてしまいそうな素敵な笑顔だ。
弓を構えているから、狙われている方は見惚れている余裕なんてないが。
「ひっ、ひぃっ!?」
また、地面に座り込む男を尻目にジオは舌打ちをした。
注意すべきは目の前の相手だ。
彼の前に立っているのは黒ローブに身を包んだ人間。ローブには何かの紋章がついている。通称、『郵便屋』と呼ばれる組織の人間だ。
「こいつを保護しに来たってことかぁ?てめぇらはたしか国とふっとい繋がりをもってたよなぁ?」
「ええ、まぁそうですね」
『郵便屋』の人間が言った。
「だったらなおさら渡せねぇなぁ!!」
ジオと『郵便屋』の男は睨み合う。
「といっても、僕としては上層部や『裏』のことはどうでもいいんですよ。『郵便屋』という組織すらどうでもいい。僕はただ、うちの可愛い隊長の笑顔がみたいだけですから」
笑顔でそんなことを言ってのける『郵便屋』の男にジオは顔をしかめた。
「変態か?」
「いえいえ、愛の妖精ですよ」
『郵便屋』男がジオ横を通り過ぎるようとする。
ジオはその男を止めた。
「僕の邪魔をすると殺しますよ?」
「てめぇには聞かなきゃいけねぇことが沢山あんだよ。何でただの『郵便屋』が俺の名前や『裏』のことを知っている?」
その質問に『郵便屋』の男は感情の読めない目を向け囁いた。
「あの施設の生き残りが自分だけだと思ったら大間違いだぞ。失敗作、ジオ ラターチ君」
「っ!?」
ジオは反射的に身を引いた。
「楽しくなるのはこれからですからね、ジオ ラターチ君。僕の名前はルルークです。覚えておいて下さい」
「何でてめぇほどの奴が『郵便屋』なんかの下についていやがる。その気になれば隊長クラスぐらい余裕だろうが?」
「決まっているでしょう?我が隊長の下じゃないと意味がないからですよ」
『郵便屋』の男は変態的な笑みを浮かべていた。
「ひっ、ひぃぃぃ!?」
小太りだった男は悲鳴をあげる。
「さぁ、行きましょうか?」
「ジオ?連れていかせていいの?」
復讐少女がジオに尋ねる。
「ああ、手がかりは得た。それに、あの『郵便屋』は異常だからなぁ」
アップルの台詞の一部のみY