第十一話「信頼」
原案;Y
「大変だー!」
またしても、静寂が破られる。
「大変だー!」
走ってきた少年は、揃って奇麗に気絶している皆を見て、もう一度叫んだ。
「それはさっき聞いた」
「どうしたんだ?」
被害者の輪の中でくつろぐ元凶がのうのうと応えるのをよそ目に、匠人が尋ねる。
「村の皆が連れて行かれちゃった!」
「なんだって!?」
それを聞いて匠人が駆け出す。
「痩せすぎは体に毒だぞ?」
匠人の前に真っ赤な自動二輪車が停まった。
「ハ?」
「走る必要は無いんだから乗っていけばいい、ということだよ」
「大きなお世話だ!」
追い抜こうとする匠人。しかし真紅の二輪車は、なおもその行く手を阻む。
「私は時間より親切なようだ」
「何言ってんだよ!!あんたに構ってる時間は無いんだぞ!?」
「時間は私とは違って待ってはくれないんだから時間が無いならなおさら乗っていけばいい、ということさ」
得体の知れない少女が手を差し伸べる。
「……」
「私が仏に見えるのは仕方ないが、あいにく私も時間が無い」
「いちいち訳が分からない言い方するなよ」
「ほんと鈍い奴だな……。『仏は三度、機会を与える』そんな慣用句が通じるほどの余裕がある状況じゃないことすら分からない程まで鈍くないことを祈るよ」
今度は匠人にも意味が分かった。
「間に合わなかったら承知しないぞ?」
「『仏は三度、機会を与える』だ」
「それ、通じないんじゃなかったのかよ?」
「私が仏の二倍優れていれば済むだけのことじゃないか」
「簡単に言ってくれるな」
「大丈夫だ。私を信じろ」
少女の言葉には、溢れ返る自身を裏付ける何かが、隠れることなく曝け出されていた。
「乗った!」
「乗れ」
匠人が手を掴むと、アップルがそれを引いた。
「わたしはー!?」
残された者とワッフルの声を背に、二人は村の少年の来た方へと急いだ。
「見えた!あそこ!!」
匠人はアップルに見えるように後ろから手を伸ばして、丁度人さらい達が村の人間を縛って詰め込んでいる大型馬車を指した。
「途中下車は危ないぞ?」
「ハ?」
アップルは、呆れているのか楽しんでいるのか、歯を見せて笑った。二輪車が加速する。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「ん?なんだありゃあ?」
匠人の絶叫に、人さらい達が飛び込んでくる二人に気付く。
「やれやれ。威勢が良いのか悪いのか……」
匠人に対してそう言って、アップルは二輪車を地面から離す。
「交通事故って、意図的に起こしたらなんと言うのかな?」
家の壁を経由して、一人目の顔面に前輪で衝突した
「敵襲ー!商品に傷をつけるな!!」
「……交通事件、かな」
村人を積んだ馬車を守ろうと武器を構える人さらい達を冗談のように撥ねていく。
「ちょこまかしやがって!待たねぇか!!」
「轢けども逃げず!」
「ぎゃー!!」
三角帽もローブもチョーカーも黒い魔女の郵便屋と真紅の自動二輪車による、黒と紅の嵐が、人さらい達を薙ぎ倒していく。
「ちきしょう!化け物かよ!?」
御者の男が馬車を発車して逃げ出した。
「おい、あれ!逃げられる!!」
久々の地面で、目を回していた匠人が立ち直って知らせる。
「轢く前から逃げるな!」
「そうはさせるか!さっきからふざけたマネしやがって!!」
まだ大勢いる人さらい達が立ちふさがった。
「ツイてねぇよ」
突然火の手が上がる。
「今度はなんだ!!?」
「なぁぁぁに!ただの取材だ、ゴォキブリ共ォォォォォ!!」
彼らのざわめきが静けさに飲み込まれ、それを超える狂気の絶叫が静けさを一瞬でブチ破った。
「私達も協力するわ!」
「『達』って……、まあこれも仕事の内だしね、マイハニー」
「だからショート!ここは任せて、存分に暴れてきなさい!!」
スピアを顔を押しのけて、シルフィアがそう叫ぶ。
「皆……」
「ショート、任せていいのか?」
ここを任せられるのか、初対面のアップルはその答えを得る確実な方法をとった。
「お前の仲間は、信じられるのか?」
迷うことなく匠人は答える。
「当然だ!!」
「そうか。では私も信じるとしよう」
アップルは信じた。それは彼らの実力なのか、彼の心なのか、はたまた彼を信じると決めた自分自身をなのか。
とにかくアップルは、その場を託して馬車を追うことにした。
一部キャラクターの言動にUMAの助言を得ています。
仮にもファンタジーということで、独自の慣用句を作らせていただきました。