第九話ver.2「無敵の怪物魔導士」
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「なるほど、確かに救援物資が求められてるな」
ボロボロになったバジールの様子を見て、アップルが二輪車から降りる。
「物資だけが」
崩壊した村で、凶暴に目を輝かせて手に思い思いの得物を握る男達の様子を見渡して、そう付け足す。
「あいにく私には、お前ら全員に配れるほどの物資も、お前ら全員を養う義務も無いぞ」
「あーぁ、ツイてねぇなぁ」
二輪車の二人を囲む男達の輪を割って、リーダー格の男が現れた。
「ホンット、ツイてねぇよ」
「引っ越し先の村が崩壊したお前が、か?」
それは先の町で少年を追っていた一団のリーダー格の男だった。彼は首を横に振る。
「では、再び私に負けるお前が、だな」
メッツォは溜息交じりに笑う。
「ロクな物資も持たねぇでここに来ちまったあんたが、さ」
そう言ってから振り向き、男達に指示を出す。
「相手はガキだ。お前らはそこで見てな!」
「相手は私だぞ。怪我したくない奴はそこで見ているといい」
「ここの奴らは皆苦しんでんだ。……悪く思うなよッ!!」
アップルは、組み伏せようと飛び掛かってくるメッツォに向かって走り出す。
「お前ほどにはな」
つかんで引っ張られた腕と、足払いと回避を兼ねた滑り込みで、メッツォの安定感と意識が完全に奪われる。
「今ここで私と戦って寝るか、私の仲間の運ぶ物資が届くまで寝るか。残念だが私にはその選択肢しか与えてやれないな」
男達の間に、静寂が訪れた。訪れていた。
「ゴキブリは、ペットになんかなれやしネェんだよ!!」
静寂を破ったのは、緑のローブを纏った新聞屋の少女だった。
「まさかお前がそいつと一緒とは……、世界は広いんだか狭いんだか」
「き、貴様っ!アップルか!?」
相変わらずの独壇場の黒い魔女を見て、新聞屋は目に見えてたじろいだ。
「私の人違いでないなら、おそらくアップルだと思うぞ」
「……」
「ん?感動の再会に声も出ない、というやつか?なんと言ったってお前は昔――」
「アァァァァア!!目標変更!」
フードの下の綺麗な顔を、相変わらず醜く歪めて、少女は言う。
「ワタクシは貴様を踏み躙るぅぅ!!」
「まだワタクシって言っているのか」
「歯ぁ食い縛れぇぇぇ!!!!」
完全に冷静さを欠いた彼女の操る新聞紙をかわし、一気に接近する。
「まだ私の笑顔が見たいのか?」
アップルが、彼女の動きの鈍さに磨きをかける。新聞紙の棒の、早すぎるタイミングでの横薙ぎを上に避け、そこにあった新聞紙を蹴って、彼女の視界を逃れる。
「後ろだろぉ!?見なくたって分かってんだよぉぉぉぉ!!!!」
操り損ねて無数に宙を舞う新聞紙の下で、彼女の棒が空を断った。
「その後ろ。見えないから分からなかっただろうがな」
真上の新聞紙から彼女の後ろに舞い降りたアップルは、子供っぽい素敵な笑顔で手刀一閃、新聞屋に勝利した。
攻めあぐねている男達に、冗談めかせて改める。
「他に一人で眠れない子は、いないかな?」
次回より本格的に二本の物語が接近します