第八話ver.2「郵便屋の日常」
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東の空が白んでいくのを見ながら、アップルとワッフルと、それから天使の羽の様に白いワンピースを着た女性が、三人で郵便局前に集まっていた。
「この人はー?」
新しい洋服に身を包んだワッフルが、彼女を指して尋ねる。
「え、と――っ」
「この人は四番隊組長のセシリア。セシリア、こっちはワッフル」
おどおどしているセシリアの代わりに、アップルが紹介して、ついでにワッフルの紹介もすませた。
「何をする人なのー?」
「これから私達と一緒にバジールって村の住民に安らぎをお届けする人、だな」
局長から頼まれたのは、『届ける』という、普段通りの仕事だった。
「よ、よろしくお願いしますっ」
「よろしくねー」
緊張のあまり目をギュッと閉じて挨拶する四番隊の組長と、普段通り楽しそうに返礼するただの少女。
「じゃ、ワッフルはセシリアと一緒に来てくれ」
「えー!わたしはアップルと一緒がいいなー」
「今回は荷物を積むから、そんなスペースは無いんだって」
「あ、あの……」
「ほら、あまりセシリアを困らせてやるなよ」
「そうじゃなくてっ」
セシリアは震える咽喉から細い声を絞り出すような話し方をする。
「わ、私が荷物を運んだらどうでしょう……?」
「あ、そうか。悪い、それじゃ任せるわ」
そう言ってアップルは、山積みの荷物の下から、いましがた八番隊組長から取り返してきた、真っ赤な自動二輪車を救出した。
「えー!?無理だよー!こんなに痩せてるのに」
ワッフルが困った顔で笑うセシリアの体を指して言うが、アップルは全く気にしていないようで、さっさと跨ってキックスターターを蹴った。
「大丈夫大丈夫。早く乗らなきゃおいていくぞ、ワッフル」
「まってまって!」
あわてて飛び乗ったワッフルを確認してから、アップルはセシリアに手を上げて挨拶した。
「さて、お届けに参るとしよう」
軽快な音を立てて、自動二輪車が滑り出した。
「では、『私達』も行きましょうか」
やがてセシリアは、真っ黒な空を見上げてそう言って、やさしく微笑んだ。