第七話其の一「異常な少年は敵討ちに来た少女に出会う」
「……ここは?」
若い男は目を覚ました。
「ようやく、気づいたか」
若い男の上から声がかけられる。
男が見上げると灰色の髪と紅い瞳が印象的な少年がそこに逆さまに立っていた。
「あんたはっ!?」
「俺か?俺は異常だ」
少年は答えた。
次に男の目に入ったのは仲間の体だった。
「なっ!?お前が殺ったのか!?」
無惨な姿になった同胞の姿を見て驚く男を見て平然と少年は答えた。
「ああ、俺が殺ったけど?」
「……そうか」
男は呟く。そして、少年の方を向いた。
「ん?」
「そうか、君が罪なき人々の命を助けてくれたのか。ありがとう……なんて言わないぞ?」
「礼を言われる為にやったんじゃないからな」
「僕達の部隊一つ潰せる力を持っているなら、殺さずに説得することもできたはずだ」
責めるような目で男は少年を見る。
「必要性を感じなかったからなぁ」
「まぁ、済んだことはもういい。それより君は何故逆立ちしているんだ?」
男は聞いた。
「異常でいるためだ!!」
「……そうか」
「てめぇ、自分の仲間皆殺しにされたのに冷静じゃねぇか」
逆立ちを止めて普通に立つ。
「済んだことは仕方ないだろ。以前所属していた部隊も全滅したからな」
落ち着いた声音で男が言った。
「いいねぇ、てめぇ、やっぱ異常だよ!!」
少年は笑う。
「君ほどじゃないけどね。僕はギーザっていうんだ。君、名前は?」
「俺の名前なんて異常で十分だろ?」
少年の言葉に男は苦笑する。
「いや、君ねぇ……」
「ジオ ラターチ」
突然別の方向から声がした。
「ハ?」
「そいつの名前はジオ ラターチよ」
ジオ ラターチと言われた少年が怪訝な顔をして振り向く。
「あん?誰だてめぇ?」
「覚えてない?まぁ、当然よね。あなたは自分が潰した村のことなんか気にかけない人間に見えるもん」
振り向いた先には美人というよりは可愛いと言った方が正しいような顔立ちの、まだ幼さが残る少女がクロスボウを構えて立っていた。
「見覚えねぇなぁ」
「村を潰したって君本当かい?」
男が顔をしかめる。
「さぁな?潰したんじゃねーの。仇討ちってことか。ったく普通だな」
「私は、私は村の皆の敵を討ちにきた!!覚悟しなさいジオ ラターチ!!」
少女の放った矢がジオの腹を貫いた。
「っ!?」
ジオがふらつく。
「君っ!?」
男がジオを支えようとした。が、笑顔を浮かべ矢を引き抜いた。
「思いだしたぜぇっ!!てめぇ、人狼の村の人間のガキかぁっ!!」
ジオの腹の傷が塞がっていく。
「君っ!?」
「おいおい、あの時のガキなら分かってんだろぉっ!?俺を殺したいんなら一撃で仕留めることだぁっ!!」
心底馬鹿にしたような笑みを張りつけてジオは声を張り上げた。
「っ!?」
少女の顔が引きつる。
「てめぇさぁ、本当は死にに来たんじゃねぇのか?」
ジオのその言葉に少女はクロスボウを降ろした。
「……」
「図星か」
「君、本当にそうなのか?」
男が少女に尋ねる。
「何で……」
少女が口を動かした。
それは小さすぎる声で、男には聞こえなかった。
「何であの時私も皆と一緒に殺してくれなかったのよ!?」
少女の悲痛な叫び声にジオは顔から笑みを消した。
「お前死にたかったのかよ?お前今本当に死にたいのかよ?」
ジオは静かに問いかける。
「私は……」
俯いた少女にジオは語りつづける。
「死にたい、そう思い続けようとしてきたんだが、死ぬのが怖い。で、俺に殺してもらいに来たってとこか?本当に死にたいと思ってんなら自分で死ねるだろうが?あの時すぐにでも死ねただろうがぁ!?」
「それは……」
少女が小さな声をだす。
「俺を殺すためだなんてありえないこと言うんじゃないだろうなぁっ!?」
「……」
「てめぇに俺は殺せねぇっ!!それぐらいてめぇにも分かってんだろう!?ああ?一ついいこと教えてやるよ、あの時、てめぇの村のやつらはなぁ、てめぇだけは生かしてくれって頼んできたんだぜ?」
「嘘よっ!!」
少女が顔を上げ叫ぶ。
「人狼の村……まさか!?」
男が目を大きく見開いた。
「ああ?」
「あれは君だったのか!?」
「あれってどれだよ?」
ジオが眉を釣り上げる。
「人狼の村で、僕らの組織の人狼狩りの部隊一人以外全員と人狼を皆殺しにした少年は!?」
「……んなこたぁ、覚えてねぇよ。おい、てめぇ!!」
ジオは少女に声をかける。
「……」
「死にてぇんなら自分で死ね。俺は優しくないから殺してやらねぇ」
ジオは矢を少女の近くに放り投げ、少女と反対側へと歩き始めた。
「次会う時は敵討ちなんて馬鹿らしいこと以外で頼むぜぇ」
「……馬鹿らしいこと?」
少女は呟く。
「あん?」
「私、あなたのこと調べたのよ?あなたのやってることこそ……」
ジオはふり向かず、一言で少女の言葉を遮った。
「正常が異常(俺)を語るんじゃねぇよ」