第六話ver.2「非常の開幕」
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「じいさん、帰ってきたぞ」
「おお、アップルか!久しぶりだな。今までどこで何をしていた?」
郵便局長室の大きな椅子に腰を下ろしたままの、じいさん、と呼ばれた高年の大男が嬉しそうに目を細める。
「……そういうあんたは、戦争でもする気か?」
アップルは、他にも二番隊から七番隊までと九番隊の組長、それに八番隊の副組長が局長室にいることに気付いて、少し驚きを顔に出した。
この組織、郵便屋は、基本的に一番隊から九番隊までの九の隊から構成されていて、配達員も清掃係も皆どこかに割り当てられている。郵便局長と一番隊組長は兼任されており、八番隊副組長は先程エントランスホールで会った組長の代役であろうから、ここに実質全ての隊の長が集まっていることになるのだ。
「それが、まんざら冗談でもねーのさ」
二人の勝負を眺めつつ、五番隊組長が言った。
「アメ五つ!」
自分の手札に目を落として、三番隊組長である少年が息巻く。
「最近不穏な事件が増えているんだよ。だから僕達の取るべき立場を決めてしまわないといけなくなっているのさ」
これは全体的にやや長髪の、六番隊組長だ。
「……チョコレート、全部……?」
少々ぎこちなく二番隊組長である青年がそう宣言するのを、三番隊組長は見逃さなかった。
「乗った!勝負!「いざ」
少年が自分の手札を相手にも見えるように卓上に晒して身を乗り出したので、自然、二番隊組長の笑顔が近くなる。
「!?」
「残念でしたー。アメ五つ、ごちそうさま」
二番隊組長が、二人の間に置いてある無数のチョコレートと五つの飴玉を回収する。
「君達、目下の者も見ているんだ。いい加減にしないか」
郵便局長の卓上に広げられた地図の上で賭け事に興じる二人に六番隊組長が諌める。
「まー、いーじゃんさ。今まで通り、どこにも加担せずにいればいーんだしよ」
「そうですね!その通りです!」
五番隊組長である彼女の、彼自身に向けられた鬱陶しそうな言葉を、彼自身が全肯定した。
「なんだよ、こいつ。自分だって『目下の者』のくせに」
「まぁまぁ、別に今に始まったことじゃぁないだろう?」
笑って二番隊組長が、口を尖らせる三番隊組長の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「わ!なにすんだよ!?子供扱いすんなよな!」
少年は必死で悪化したくせ毛を直す。
「だって、ねぇ?」
「え!?え、と……」
突然視線で話を振られた四番隊組長は、あわてて顔を伏せた。
「ちょっと!可哀想でしょ!?やめなさいよ!」
今度は緋色の修道服に身を包んだ、七番隊組長が二番隊の彼が笑うのを諌めた。
「ちょっと、あんた達!ウチの局長が話せないでしょ!?いい加減にしなさいよゴラァァァァ!!」
それら全てを、九番隊組長が諌めた。口調こそ七番隊の少女と変わりは無かったが、比べ物にならないくらいゴツゴツした筋肉質の巨体とそれによるドスの利いた声が、彼が男であることを物語っている。
普段通りの皆を目を細めて楽しんでいた局長の顔つきが変わった。
「何にせよ好都合だ、アップルよ。本題に入ろう」
「構わんよ。私も頼みたいことがあるからな」
久々に、主人公が喋った。
登場人物大幅増量!名前の供給が追い付きません(ーー;