第六話其の一 「異常の開幕」
UMA
「ったく、胸糞悪くなるような任務だ」
黒いローブを着た集団の内の若い一人の男が舌打ちした。
「無駄口を叩くな、任務に集中しろ」
先頭を歩いているリーダー格らしき男が睨みつける。
「しかし、だからって皆殺しってのはあんまりじゃありませんか!?この村の人間が何をしたっていうんです!?無垢な子供達もいるんですよ!?」
若い男はリーダー格の男に責めるような視線を送った。
「そんな事情は知らん。上からの命令だ。それに我々が任務を放棄しても第二部隊が同じ任務を行う。我々が殺そうが別の部隊が殺そうが同じことだ」
「自分はこんなことをするためにこの組織に入ったんじゃありません!!だいたい最近のうちの組織はおかしいじゃないですか!!『科学』なんて異端にまで手をだして!!それにこの間バイゼンさんに出された命令も一人の少女の拉致だったんですよ!!一体この組織は今どうなってるんです!?」
そう叫ぶ若い男にリーダー格の男はL字型の鉄の筒を押し付けた。
「上のことを気にする必要はない。上からの命令は絶対だ。それに俺達は慈善団体じゃない。それともお前は慈善団体と思ってここに入ったのか?」
鉄の筒を頭に押しつけられて声は小さくなったが若い男はしっかりと言い返す。
「自分は人の役に立ちたいと思って……」
「もう、いい。お前、『科学』のことを知ってるんだよな?じゃあ、これが何だかも俺の行動の意味も分かるよな?」
リーダー格の男は鉄の筒を押し付ける力を強くした。
「武器ですよね、それが何だというんです?」
「フン、大した度胸だ。これは『銃』と呼ばれる太古の兵器だ。これを使えば俺はお前なんぞ魔法すら使わず一撃で殺すことができる」
「っ!?」
固まった若い男の耳に口を寄せて、リーダー格の男は囁く。
「命令に従ってくれるよな?」
「……できません」
若い男は今にも消え入りそうな声で呟いた。
「ああん?」
「それでも自分は、罪なき人々を殺すことなどできやしません!!」
若い男は押しつけられている銃を振り払い、腰に差してあったナイフを抜き、リーダー格の男に向けた。
「ほぉう?いい度胸だ。上官に武器を向けるか」
リーダー格の男はニタニタと笑い、銃の引き金に手をかける。
だが、その引き金が若い男に対して引かれることはなかった。
「ハッ、ほんっと大した野郎だなぁ!!大した異常だぜ!!気に入ったぁ!!」
上から何者かが降ってきたのだ。唐突に。突然に。世界の全てを馬鹿にしているような笑みを顔に張りつけた何かが。
「何だ、貴様は?」
「ああ?異常だよ」
突然上から降ってきた少年は答える。
灰色の髪に紅い眼、白いシャツに黒いズボン、色々な色を身につけているのに殺伐とした少年だった。
「どっから、何故、どのように、ここに来た?」
リーダー格らしき男が聞く。
「異常から異常のために異常な方法でここに来た」
少年はケラケラと笑う。
「おい、そこの異常な兄ちゃん」
「は?」
「てめぇは少し眠ってろ!!こっから起こることはてめぇには少し刺激が強すぎるからなぁ!!」
少年は若い男の首に手刀を叩き込んだ。
「っ!?」
若い男が驚いた顔をして倒れる。
「貴様本当に何をしに来たんだ?」
少年は黒いローブを着た集団に囲まれ、銃という未知の武器を向けられたまま平然としていた。
「だから言っただろぉ!?異常のためにここに来たってなぁ!!」
引き金が引かれる、だが少年は頭を横に傾け、飛んできた弾を避ける。
「なっ!?馬鹿な!?」
続いて、襲いかかってきた他の黒ローブの男達を引きちぎる。
「俺に普通は通用しない」
血が、熟れたトマトを潰したみたいに噴き出した。
「ハッハァ!!最高だね!!最高に異常だ!!」
少年は次から次へと人を引きちぎり笑う。
「貴様ああぁぁぁぁ!!」
リーダー格の男が少年の背後から銃を打ち込みつづける。やがてカチッという音がして弾がでなくなった。
「!?」
少年の動きが止まりゆらりと体が揺れる。
「ハ、ハハハハハハハ!!やったぞ!!やった!!私の勝ちだ!!」
リーダー格の男が喜んだのも束の間、少年は無傷のまま男の方を向いた。
「言っただろ?俺に普通は通用しないってなあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少年は気味が悪い笑顔を浮かべたまま、空っぽになった銃をぽかんと掴んでいるリーダー格の男の腕を掴み、引きちぎる。
「お、俺の腕がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男が叫び声をあげた。だが、少年は止まらない。
「ハッ、異常の始まりだあぁぁぁ!!」
少年の笑い声がぼんやりと白い月の浮かぶの黒い空に響いた。