プロローグ1
初投稿ですので、機能が使いこなせておらず、若干読みにくいかもしれません。ですので、レイアウト含め、積極的にアドバイスには応えていきたいと思います。
「一度でいいから魔術ってやつを使ってみたいぜ」
そんな呟きを霧岡 匠人はもらした。
当然そんな呟きをもらす彼に魔術は使えない。
だが、彼の目の前にいる男達にはそれが使えるのだ。
いや、もっと正確に言えば、少なくともこの国の人間は彼以外全員、多少なりとも魔術が使えるのだ。
「やめるなら今のうちだぜ?」
微かな希望を込めて訊いてみるが、返ってきた答えは火の玉だった。
「うおぉっ!?危ねぇっ!?火傷したらどうしてくれんだ?ちくしょうが!!」
そう叫び匠人は走りだす。相手の魔術師と反対の方向に。
これが一対一だったら彼も立ち向かったかもしれない。だが五人対一人、ましてや五人の魔術師対一人の魔術が使えない少年だ。勝ち目がない。
「待てやこのクソガキが!!」
飛んでくる罵声と火の玉に半泣きになりながら匠人は走り続ける。
「お前らみたいなむさ苦しい男に待てって言われて待つ奴なんかいねーんだよ!!」
「なんだとぉ!?待ちやがれ!!この神無き者!!出来損ないのバカ野郎!!」
神無き者。そう匠人は呼ばれている。世界でただ一人魔術が使えないであろう匠人は、いろんな意味で有名だった。神無き者なんて、大層な名前がつけられるぐらいには。まぁ、ただ単純に魔術が使えない人間という侮蔑的な意味しかないのだが。
「バカって言った方が馬鹿なんですよーだ!!」
なんて、小学生みたいな言い返しをしながら匠人は走る。走り続ける。
人にぶつかり、道に転がっているゴミを蹴飛ばし、走り続ける。
そのぶつかったり、蹴り飛ばしたゴミがこれまた非行少年にぶつかり追っ手を増やしているのだが、匠人にはそんなこと気にする余裕はない。
待てと怒鳴る男達の声が小さくなっていくのを聞きながらさらにスピードを上げる。
ちなみに今は午前八時五十八分。彼の学校が始まるまであと二分だ。
「ひゃっほぅ!!遅刻確定だぜぇっ!!」
ヤケクソ気味にそう叫ぶ匠人の後ろを学校は休む気らしい非行少年達がとどめと言わんばかりに火の玉を飛ばしてきた。
その火の玉が目の前で母親と手を繋いでいる幼い子供にぶつかりそうになる。
「なっ!?」
匠人はとっさに腕を伸ばし、火の玉が子供と母親に直撃する前に火の玉を別方向に殴り飛ばした。その際に手の皮が焼けるが気にしない。
「おいっ」
足を止め、追ってくる非行少年達と向き合った。
「熱っちぃだろうが!!」
追いついてきた非行少年達の内の一人が驚いた表情を浮かべる。
「噂は本当だったのか!?」
「さてと、そろそろ反撃に……」
そう言いかけて匠人は固まった。
多い、多すぎる。ざっと見て十人以上。額に青筋を浮かべて匠人を睨みつけている男達は最初の人数より明らかに多かった。
「う、嘘だろー!?俺が何したっていうんだよ!?絡まれていた人間助けようとしただけだろ!?ちくしょうがっ!!」
匠人はそんなことを叫び、再び逃げ出す。正義感が多すぎて損をするというのはこういうことなのだろうか?
「逃げるな、臆病者!!」
「アホか!!勇敢な少年でも逃げだすわ!!」
逃げているうちに勝てるかもなどと淡い希望を抱き始めた匠人だが、彼は勝てないと再確認した。何故なら彼は最強のエージェントでも無敵の怪物魔導士でもないから。ついでにいうと皆が使える魔法すら使えないから。冷静に考えてみると匠人に勝ち目は全くなかった。
だいたい、先程五対一の状況で逃げ出したのだ。十以上対一などでは、逃げるのは当たり前だろう。勝てるはずがない。
「待ちやがれ、雑魚!!」
「絶対待たねえよ!!今、待ったらぼこられるだろうが!!」
必死で匠人は逃げ続ける。
逃げて、逃げて、逃げ続けて匠人は広場のような所に出た。気づいたら昼に近い時間になっていたからか、広場には出店などがでて賑わっている。
ここまで来るとさすがに男達も追ってきてはいないだろうと思って足を止めた。
「つーか、ここまでついてきてたらもう変態の域だよな」
乱れた息を吐きながら匠人は後ろを振り向く。
やはり誰もいない。
「ハ、ハハハ。俺の勝ちだあああぁぁぁぁぁ!!」
ほっと一安心した匠人の目にとんでもない光景が映った。
「ハ?」
広場が混んでいるのはお昼の時間に近いからではない。
これのせいだ。
処刑のせいだ。
広場では処刑が行われていた。この街では異端者を処刑するのはよくある光景だ。だが何度見かけても、匠人はこの光景が好きになれない。
十字架に張りつけられている男に司祭が火をくべ、処刑しようとした時、パンッと一回乾いた音が響いた。その瞬間に火をくべようとしていた司祭の体がぐらりと揺らぎ、頭から赤い液体が飛び散る。
「何が起きたんだ!?まさか、魔術による狙撃か!?」
何が起きたのか把握できなかった。だがそれは匠人だけではない。周りにいる人間は全員唖然とした表情をうかべていた。
そのまま司祭の体が前のめりに倒れ、持っていた松明の火が縛られている男へとつく。
男が苦しそうに呻き始める。
と、その時、悲鳴が上がった。
「今度は何なんだ!?」
悲鳴が上がった方を匠人は見る。
すると、一人の女が警備兵達の頭に鉄の筒のようなものをあてながら、処刑されている男の方へ突き進んでいた。
鉄の筒を女が警備兵にあてる度に先程と同じ乾いた音が響き、警備兵は倒れ、赤で地面を彩っていく。
「どけっ!!俺が先にここから離れるんだ!!」
怒声と罵声が響きだし、今度こそ見物客はパニックにおちいった。
親と一緒に来た子供だろうか?泣き声までが聞こえてきた。
女は人を蹴散らしながら罪人の方へと進んでいた。
女が進む度に人が転び、蹴飛ばされ、殴られ、泣き声が酷くなる。見ると罪人のすぐ側に取り残された子供がいた。あの女を見る限りあの子も危険な目にあうかもしれない。
子供も大人も関係なしに薙ぎ倒しながら前に進む女を見て匠人は奥歯を強く噛んだ。
「……ふざけやがって」
匠人も人を掻き分けながら罪人の方へ進み出す。
「おい、兄ちゃんどこに行くんだ!?そっちは危ないぞ!!」
誰かが匠人の肩を掴む。
「放してくれ。こういう性分なんだ!!」
誰かの腕を振り払いながら前へと進む。
女が処刑台へと着いた時、ようやく匠人も子供のもとについた。
「大丈夫か?」
「ひっく、お母さんがいないの」
泣いたまま子供が答えた。
「よし、探すのを手伝ってやるからちょっと待っててくれるか?俺は今からあいつをぶん殴ってくる」
「う、うん」
子供のもとを離れてから、走るのを止め罪人の所へと歩いている女のもとへと走り出す。
「あんた何やろうとしているんだ!?」
女が蔑んだような目で匠人を見た。
「別に何でもいいだろう?」
「その何でもいいことのせいで人が死んだり怪我をしたりしているんだぞ!?」
「だから、なんだというんだ?」
全く気にせず前へと進む女に対して匠人は堅く拳を握った。
「それで何も思わねぇっていうのなら、俺があんたの目を覚ましてやる」
十人の男達からは逃げ出したが、相手が一人ならなんとかできる自信はある。
匠人は一歩足を前に出し、拳を振り上げる。
が、その拳が女にあたることはなかった。
脇腹に強烈な痛みがはしり、匠人の体は宙へ浮いていた。見ると女の蹴りが見事に脇腹にめり込んでいる。
「がっ!?」
「一ついいことを教えてやろう。世の中にはヒーローとヒーロー気取りの馬鹿がいる。お前は間違えなく後者だよ」
女の言葉を聞き終わると同時に匠人の体は地面に叩きつけられた。
「……ちくしょうが」
立ち上がった時にはすでに女と罪人はいなかった。